1.桜の下、物語の始まり
2012年10月28日 17:19
すっげぇ~。どっちみても桜しかねえじゃん。あ、雪も降ってる。……っておかしくね?桜に雪って。季節全然違ぇし。でもこの風景、どっかで見たような。
まぁいいや。
どうやら俺は今6歳児らしい。魔法はまだ使えないっぽいね。
桜の木の下から、少し広くなっている場所、そしてその中央にそびえだっている大きな桜の木を見る。そこには少年が1人と金髪の少女が1人。
2人がこちらに歩いてくる。身を隠そうなんて無意味な真似はしない。その時、金髪の少女と目が合った。
~さくらside~
ボクは、いけないことだと知っていながら、自分の我が儘で生み出した少年、『桜内義之(さくらいよしゆき)』の手を握って、枯れない桜を後にしていた。後悔はしていない。数十年、ボクはずっと1人で、寂しかった。ボクだって、幸せになりたかった。だから、どんなことがあってもこの子を守っていこう、そう誓う。そう自分に言い聞かせていると、目の前に1人の男の子が現れた。
「こんにちは」
まさか、見られた!?彼がもし魔法従事者なら、ここでボク達は消されてしまう。
「きみは……誰かな?」
少し警戒してみた。
「俺は弓月光雅。あなたが警戒しているのは、おそらく、俺が魔法に関わる者ではないか気になっている、ってところかな」
やっぱり、この子は魔法従事者なんだ。
「予想通り。俺は魔法使いだ。で、あなたは?」
「さくら。芳乃さくら。それで、この子は桜内義之くん」
ボクは右側にいる少年を見て紹介した。
「君、悲しそうな顔してるね。」
「……え?」
唐突な発言、それは今のボクの心情を的確にとらえていた。
彼はただの少年ではない、それは彼が魔法使いであることから多少は推測できることでもあったけど、どうもそれだけではないような気もした。
「枯れない桜、か」
……ッ!?
「……俺は、確実にバッドエンドに向かいつつある世界をハッピーエンドに変えるために来たんだ。」
光雅と名乗った少年は、僕のボクの作った枯れない桜を見上げて、はっきりと言った。
「じ、じゃあ、キミには枯れない桜のバグを治せるっていうの!?」
「ああ」
ボクの質問に即答で返事をする。自信満々だった。
「無理だよ!ボクが何十年掛けても答えは無かったのに、そんなに簡単に――」
思わず声を荒げてしまった。
「――かよ……」
「え?」
彼が呟いた言葉は、頭に血が上った興奮していたボクには届いてくれなかったようだ。
「あのさ、誰かに頼ったんかよ」
光雅くんは真剣な眼差しでボクの顔を見る。
「ずっと1人で抱え込んでんじゃないの?これは自分ひとりの問題だからって、ずっと1人で苦しんでいたんじゃないの?何の為にあの桜を咲かせたんだよ?」
想いの力は奇跡を起こす。一人ひとりの力は足りなくても、みんなの想いを合わせれば、みんなハッピーな世界を実現できる。そのはずだった。
「それは、みんなの幸せを願って……!」
ボクはこの子を生み出すことでこの世界に責任を負った。
その責任から逃げ出すことだけは、許されない。
「みんな、ね。そこに、あなたはいるの?」
「それは……この子が幸せになれるなら……」
「それがあなたのハッピーエンドってか。んじゃあ、あなた自身が苦しんでいたのをあなたの仲間が知って、彼らはそれを、義之が生きているからって、ハッピーエンドだったって断言するのか?」
「でも……」
答えられなかった。
そんなことを、考えたこともなかった。
そんなことになれば、お兄ちゃんも、音夢ちゃんも、みんなも悲しむだろう。
「俺には、バッドエンドを変える力がある。意地でもあなたの仲間を1人残らず笑顔にしてやるよ」
ふと、涙がこぼれた。ずっと不安だった。苦しかった。でも、この人の言葉は、ボクを安心させてくれる。
「その涙、いままで隠してきたその涙、いま全部流しちまえよ。えと……俺の胸くらい貸してやるから」
光雅くんは少し照れているようだったが、ボクはもう我慢できなかった。
「うわぁぁあああぁぁああぁぁあああああぁぁああああぁぁああぁぁあああぁぁああああん……!」
ボクは、背負っていたすべての苦悩を彼にぶつけた。
~光雅side~
さくらさんって言ったっけか、よっぽど辛かったんだろうな。こんなに小さな体で、大きなものを長い間背負ってきたなんて。
「落ち着いた?」
「う……うん」
やっぱ恥ずかしかったんだろう、さくらさんの顔は真っ赤である。一方義之は、状況が理解できず、さっきからおろおろしている。
「それで、桜のバグを治す方法って?」
とりあえず、俺は自分が一度死んでいること、魔法を手に入れて転生してきたこと、そして俺の魔法の詳細をさくらさんに告げた。
「そう……、そうだったんだ」
さくらさんは驚いたような表情をしている。そりゃまぁ、死後の世界だの、転生だの、訳の分からんことを話してるんだからな。
「その、≪魔術創造(マジカルクリエイト)≫で、バグの無い桜が完成するの?」
「ああ。人間の魔法使いにはできなくても、俺の力は神から授かったものだからな。基本的にできないことはないよ。だがあいにく、今は無理。なんせこの世界に来たばっかで、魔法も使い慣れてないからね。あと7、8年かかるな」
「そっか。それまで待つよ」
さて、これからどうすっか。野宿は寒いしな。あー、マジでどうしよ。
「よかったら、うちにこない?」
「へ?」
「うちにおいでよ!」
とびっきりの笑顔でそんなことをいう。でもまあ。
「いいの?」
「ボクを助けてくれるんだもん!だからボクもキミを助けるよ!」
そういって、さくらさんは俺の手も握ってきた。
さくらさんの横顔は、純粋に幸せそうだった。
……ってあれ?なんかまた顔赤いぞ?どうしたんだろ?
「(にゃはは。さっき逢ったばかりだけど、好きな人と手を繋げるのってこんなに幸せなことだったんだぁ……。久しぶりだなぁ、この感覚)」
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なんだかんだで朝倉家前。ここか。
「今日からここがキミたちのおうちだよ」
さくらさんはチャイムを押した。
ぴんぽーん。
――ぱたぱた。がちゃ。
なかからお団子頭の女の子が出てきた。
「じー」
不思議そうな目で俺たち2人を見てくる。
「……え、あ、えっと」
おいおい義之。何テンパっちゃってんの。
「じーーーーーー」
「あの……」
「じーーーーーーーーーーーーーー」
「さ、さくらさん?」
うーん、心温まるワンシーンだねぇ。
初対面でここまで初々しいのは見ていて面白い。
「こんばんは。由夢(ゆめ)ちゃん」
由夢、か。
「こんばんは」
……!こいつ、俺たちから視線を外さねぇ!
ってか、可愛いな。
「この子がこの前お話しした義之くん。で、こっちが、光雅くんだよ」
見かねたさくらさんが間に入って紹介をする。
「うん」
首をちょこんと縦に落として返事してきた。うん、可愛いね。
「音姫(おとめ)ちゃんもおいで」
「……」
ぶすっとした表情で、廊下の奥からこちらを見ていた。
顔立ちはいいほうだけど、仲良くしてくれそうにはないな。
「ほら、由夢、ちゃんと外に出て」
「はーい」
音姫と呼ばれた、多分由夢のお姉ちゃんに背中を押されて、2人で外に出てくる。
く、空気が微妙な感じに……。って義之困り果ててんじゃん。さくらさん……は……。
「ボクはお兄ちゃんに話があるから、後は適当にやってね」
小悪魔のような笑みを浮かべて家の中にさっさと入ってしまった。
義之が駒照ってるのは分かっているようだ。
あれは確信犯だな。まぁいいや。
「ちゃんと仲良くするんだよ」
さくらさんはそう言って、家の中に入っていった。
……。
静かだな。自己紹介くらいしとくか。
「俺は弓月光雅。よろしくな」
好印象を持ってもらえるように微笑んで挨拶したら、あらま、顔が真っ赤になっちゃってる。風邪かな?
「あっ、え~と、さくらい、よしゆきです。よろしく」
慌てて、ぺこりと頭を下げながら、右手を差し出す義之。
……。
「あ、あはははは……」
あちゃぁ、やっちゃったか?
――ぎゅっ。
由夢の両手が義之の手を包む。
「えっと……」
「ゆめ」
「へ?」
「あさくら、ゆめ」
由夢がにーっと笑う。
「あーっと、名前?」
「うん」
「そっか。ゆめっていうんだ」
「そう。よろしくね。お……」
「お?」
「お……、えっと、よしゆきお兄ちゃん。こーがお兄ちゃん」
「……おとめ」
ポツリと一言。無愛想にも、そのまま家に入ってしまった。
「ぼく、もしかしてめいわくだった?」
義之もその態度に不安を感じてしまったのか、慌てて仲良くなれるであろう由夢に訊いた。
「んー、そんなことないよ」
「でも……」
「大丈夫だよ。おじいちゃんも、お母さんもだいかんげいって言ってたもん。おねえちゃん、さいきん怒ってばっかりだから。気にしなくていいと思うよ。……わ、わたしもいやじゃないし。おにいちゃんたちがおにいちゃんになるの」
はにかむ由夢。
「そんなことより、はやくなかに入ろう?風邪ひいちゃうよ」
「そうだな」
由夢に手を引っ張られ、俺と義之は玄関をくぐった。
「「お邪魔します」」
「ちがうよ」
靴を脱いで上がろうとした時、由夢に止められる。
何か間違えただろうか?
「へ?」
「ただいま」
「ん?」
「だから、ただいま、だよ」
「今日からおにいちゃんたちのおうちだもん」
そうか、だから……
「だから、ただいま」
この日から俺たちは朝倉家で暮らすこととなった。