1.決戦の足音

2013年11月05日 23:23
~???side~
 
いつから始まったろうか。
この、長い長い戦いは。
ずっと続くような気がしていた。
奴が、あの能力を開花させるまで。
もしかしたら、俺自身が望んでいたことではないのかもしれない。
だが、ついに来た。
そろそろ、俺が出向いてどちらが上か、決着をつけてやる。
俺は、俺のために、世界のために協力を惜しまず、死に向かっていった連中に報いるために、奴をこの手で、潰す。
 
「カグヤ、ハヤト、準備しろ。奴は完全に≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫に目覚めたらしい。これでようやく、俺の最後の革命を始めることができる」
 
壁にもたれかかっている、すらりとした長身の体格で、薄紫色のロングヘアをゴムバンドで後ろに束ね、腰に二振りの剣を指している女と、椅子に座って魔術書を黙読している、全身を黒いローブで覆い、左手に宝珠のついたステッキを持った男が、それぞれ立ち上がり、俺に頷いた。
かつて、俺の友“だった”者たち。
 
「カグヤは紅葉優香を引き付けておけ。お前の実力ならあれと対等に戦えるだろ。それからハヤトはあの氷の神器使いだ。あれは気をつけろ」
 
「分かってるよ。なんせ“5本指の1人”だ。即死だけは避けるよ」
 
「任せた」
 
俺は、あいつをやる。
あいつだけは、俺が倒さなければならない。
超えなければならない。
手元にある年代モノのワインを飲み干し、俺は椅子から立ち上がった。
 
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~光雅side~
 
初音島の桜が枯れて早2週間。
ついに2月に突入して、1月は『行く』で、2月は『逃げる』といったものだから、きっと今月も気が付けばあっという間に過ぎ去るのだろう。
以前まで桜が咲いていないのに物凄い違和感だったが、それもようやく慣れてきて、周囲の反応も桜のことから日常に戻っていていた。
そんなある日の放課後。
 
「まゆきー、この書類会計さんのところに回してくれる~?」
 
「りょーかい、んでもあいつら見てないと仕事しないから少しの間留守にしとくよ?」
 
「うん、よろしくね」
 
生徒会の看板である音姫とまゆき先輩がいそいそと仕事をしている。
それに見習ってほかの生徒会役員も自分の仕事をてきぱきとこなす。
傍から見れば生徒会は音姫とまゆき先輩の2人がいるから成り立っている、なんていう人もいるが、実際は、能力があって責任感も強いから生徒会役員なのであって、そうでなければ杉並率いる非公式新聞部相手にやり合おうなんて考えは起こるはずもない。
 
「朝倉先輩、生徒会室のプリント用紙の備蓄が底をつきそうなのですが、どうしたらよいでしょうか?」
 
エリカが生徒会長である音姫に質問する。
こいつも2学期終盤に転校してきて、慣れないことも多かったろうに、すぐにこの学園の校風とか生活リズムに順応した挙句、生徒会役員に特別所属するといった責任感溢れる行動をよくとったものだ。
とにかく、彼女の生徒会役員としての能力は高く、どこかの国のお姫様であるのも頷ける。
 
「あー、うーん、そうだね、悪いんだけど、買い出しに行ってくれる?」
 
「はい、分かりました」
 
「それなら俺も付き添いで行こうか?」
 
「へ?光くん?」
 
なんとなく俺も名乗りを上げた。
と思ったら音姫に吃驚される。
 
「え?ああ、弓月先輩、私のことはいいですから、朝倉先輩の傍にいてあげてください……」
 
ああ、そういうことか。
 
「悪い、音姫、今は公務中だから、少し、な。今日は一緒に晩ご飯作ろう。俺もエリカと色々話したいこととかあるからさ」
 
「うぅ~ん、……分かった」
 
音姫は物凄く渋々、といった顔で肯定する。
ならば俺もせめてもの我慢のご褒美として、頭を撫でてやる。
 
「えへへ~」
 
ほら、この笑顔だよ。
こういうことされるからこっちも公務中であること忘れてこっちに没頭しちゃうんだよ。
 
「生徒会長も弓月先輩の前では弱々しいですわね」
 
エリカも苦笑して俺たちの様子を見守る。
とにかく、音姫には生徒会室で司令塔をやってもらって、俺とエリカは商店街まで買い出しに出かけた。
外は重苦しい黒い雲に覆われて、天気予報には載ってなかったが、雨が降りそうだった。
 
「それで、私に訊きたいことって、なんですか?」
 
と、エリカが訝しげに聞いてくるのだがどうしたらよいものか……。
 
「いや、特に考えてない。ただなんとなくさ、お前とあんまり喋る時間もなかったから、なんか適当に話したいなーと」
 
「そ、そうなんですか……」
 
俺の適当っぷりに流石の完璧後輩も動揺を隠し得ない様子。
こういう、完全とはいかないまでも、素のエリカを少し垣間見てみたりしたかった。
 
「エリカってさ、一応こちらでは俺たちと同じような生活してるわけだけど、一応向こうではお姫様ってことでそれ相応の生活をしてたわけだろ?こっちの生活で不自由なこととかないのか?」
 
エリカのことを知っている人間なら誰でも思うであろう疑問。
 
「確かに向こうでは身分上生活面では優遇されておりました。しかし、民衆ができることをできないとでは、王族として見限られるでしょう。一応、王族のしきたりに倣ったものですが、家事全般においては苦労はしてませんわ。それを民衆がしているようにアレンジさえできれば、生活できないことはありません」
 
ほほう。これはいいことを聞いた。
お姫様ってなんだか我が儘なイメージもちょっとばかしあったわけだけど。、エリカはエリカなりに一生懸命にやってるわけか。
 
「こっちで食べる料理とか、宮廷料理と違って適当かもしれないけど、大丈夫なのか?」
 
「ええ、たまに食べ方の分からない珍妙なものも見かけますが、どこの料理も客層に美味しいと言わせる為に頑張っているはずです。実際に私もこちらで食べたものは少なからずどれも新鮮で美味しかったですわ。それに、以前弓月先輩にごちそうしていただいたシーフードカレーもなかなかの絶品でした」
 
「そいつはどうも。カレーで義之に勝つことができれば俺もレベルが上がると思うんだけどなぁ……」
 
「桜内も料理ができるのですか?」
 
「ああ」
 
あいつも俺と同じように音姫から、由姫さん直伝の技を伝授してもらって、音姫と同等のレベルの料理を作ることができる。
そして更に俺からもこっそりと料理の手元を盗み見て、レシピをパクッて自己流にアレンジしたり、手捌きをコピーしたりするほどの熟練者だ。
伊達に独学で趣味程度のギターが他人の心を打つレベルになるほどの器用さはある。
そのことをエリカに説明すると、若干驚いた様子。
 
「桜内までもそんなことができるとは……。人間何かしら才能の1つはあるようですわ」
 
おっと、義之、相変わらずお前に対する風当たりは強いみたいだぜ……。
そうやってインタビューめいたことをしているうちに商店街の中の雑貨屋に到着した。
そこのプリンタ関連のブースで、お目当ての品を発見する。
そしてレジで精算した後、もと来た道を戻る。
桜並木に入ったところで、猛烈な殺気と魔力を感じた。
 
「エリカ、気をつけろ。何かいる」
 
「何って……」
 
王族として、護身術として武道をやっているエリカにとって、周囲の危険を察知することは得意ではあったのだが、今回の場合が異例中の異例であったため、気が付かなかったようだ。
辺りを警戒すると、桜の木の陰から、黒い鎧を纏った騎士が数十体現れる。
 
「これは……!?」
 
「こいつら、人間じゃない。黒魔術みたいなので召喚された狂戦士だ。でも、なんでこんなところに……?」
 
とりあえず人通りの少ない時間帯でよかった。
桜並木を通りかかる人影はない。
俺はエリカを呼びつけて俺から離れないように指示する。
 
「≪旋風障壁(サイクロン・シェルター)≫!」
 
俺の周辺に目に見えない風が取り巻き、俺を守るように物凄い勢いで吹き荒れる。
それと同時に黒騎士が一斉に襲い掛かる。
しかし俺の障壁に動きが鈍る。
俺は右手に『長江』を取出し、横に薙いで血色の濁流を集団に食らわせる。
まとめて7、8体くらいは消し飛ばしたが、それでもまだ数がいる。
ふと振り返ると、エリカが俺を見てなんか吃驚してるんですけど。
んで、振り返ったら更に吃驚したっていうか。
 
「弓月先輩、目が……!」
 
目?ああ、確かに俺は魔法使えば瞳の色が変わるようにはなってるんだけど、って――
しまった。何も知らないエリカの前でうっかり魔法を使ってしまった。
しかも、さいくろん・しぇるたあ、なんて、はてなマークを浮かべそうな言葉使って、あまつさえその後に摩訶不思議現象が起こってるんじゃあ言い逃れのしようがない。
 
「えーっと、まぁ、これは、その、あれだ。俺の奇跡の力だっ!」
 
間違ってはいないので大丈夫だろう。
そんなことより、今はこの状況を打破しなければならない。
さて、どうしたものか。
今俺は風による防御魔法である、≪旋風障壁(サイクロン・シェルター)≫を使用している。
ならば風属性である魔法をかぶせるのが、負担を減らせるので有力である。
その時俺はさくらの家の蔵書で、さくらのおばあさんが執筆したとされる魔術書を思い出す。
彼女は確か風を使った禁呪が使えたはず。
名前は確か――そう、≪偉大なるテュポーンの術≫。
周囲は花弁のついていない桜の木々。
派手に使うことはできないが、射程と威力を制御できればこの場で使うことも可能だろう。
 
「よし。――禁呪、≪偉大なるテュポーンの術≫!」
 
俺がその名を唱えると、≪旋風障壁(サイクロン・シェルター)≫として俺の周囲を吹き荒れていた風が更に威力を増し、射程範囲を広げようとする。
俺はそれを自らの魔力で抑え込み、周囲の環境に影響が出ないように調整しながら、黒騎士を飛ばしていく。
≪偉大なるテュポーンの術≫は、本来町1つを吹き飛ばすほどの力を持った風属性魔法である。
禁呪として扱われたのも、その辺が理由なんじゃないかとも思う。
そもそもこの魔法は台風、トルネードくらいの威力を持った力であり、そんなものは魔法を扱う機関の中枢であるヨーロッパには発生しえない。
だから、そこでこんな魔法を使ってしまえば冗談抜きで町だけでなく小さな国1つ吹き飛ばしかねない、
禁呪とは、それだけ強大な力を持った魔法なのだ。
それを俺は、頑張って周囲5メートルくらいにとどめている。
正直辛いです。
そして、禁呪を発動して数秒、あっという間に黒騎士の集団は消えうせた。
俺がほっとするのも束の間、エリカが俺を疑う眼差しで睨んでいた。
 
「弓月先輩、あの鎧の集団は一体なんなんですか!?それと、あなたはさっきまで何をなさっていたのですか!?」
 
いや、まぁその疑問を抱くのはごもっともなんだけども、なんというか説明が長くなるというか……。
その時、俺のポケットで携帯が振動する。誰かから通話が入ったらしい。
 
「すまん、ちょっと待って」
 
慌てて通話に応じると、相手はロイだった。
一体何事だろう?
 
「どうした?」
 
『どうしたもこうしたもねぇよ!黒い騎士の集団に囲まれたと思ったら、急に襲い掛かってきたんだ!雑魚だろうと舐めて掛かったんだけど、数の暴力というのは偉大でさあ。広範囲禁呪を使って速攻で片付けたんだけど、そっちは何事もないか?』
 
ロイも同じようなことを体験したようだ。
 
『それと、優香も場所は違うけど巻き込まれたっぽい。あいつの心配はいらないけど、どうにもこれは何かあるとしか思えないよな』
 
「ああ。恐らく、『ドラゴン』だな」
 
『やっぱそう思うか。分かった。またなんかあったら連絡くれ』
 
「ああ、ちょっと待った。今から優香も連れて生徒会室に来てくれ。俺は俺のことを知っている連中を集めておく。この際、巻き込むわけにはいかないなんて悠長なことは言ってられない」
 
あいつらにも今の状況を把握していてもらいたいし、そうしてもらうことで俺も動きやすいし、何かトラブルがあっても、杉並にでも判断させることができる。記憶力を失った杏でも、本来の頭の回転速度はあるため、事の状況を理解させておけば、それなりに正しい判断をしてくれるはずだ。
こちらには俺を含めた、ある程度の実力を持つ魔法使いが4人もいる。多少巻き込んだとしても、守り切れないことはないだろう。
ロイも優香も、その実力は未知数だ。
 
「エリカ。お前にもちょっと来てもらう。さっきのこととか、色々話さないといけないだろうし」
 
そういうとエリカも、事の重大さに勘付いたようで、真剣な面持ちでこくりと頷いた。