10.突撃!俺んちの晩ご飯!

2012年10月28日 19:01

あれから家に帰って超特急で晩飯の準備。さぁ、今日の飯は豪勢に(?)カレーだぜ!

そういやあのあと、ななかに楽器何か出来るの?って聞かれたけど、残念ながら俺は音楽には疎い。前の世界で友達にピアノを教えてもらったけど、ぜんぜん駄目だったって言う……。
あ、誰にも言うなよ?
カレーに関しては、うちでは義之のが最強。小恋にも、『義之カレー』と命名されてるくらいだ。
だが、俺だって負けねぇ!
今日こそは義之を上回ってやるんだ!
……なんて意気込んで作ったのはシーフードカレー。趣向を変えて点数を稼ぐぜ!
 
「……お腹空いたぁ~」
 
なんてキッチンに入ってきたのは由夢。後ろに音姉もいる。
 
「こっちに来て開口一番がそれかよ」
 
「だってお腹空いたんだもん」
 
まったく、このぐうたら娘は……。
 
「今日のカレーは力作なんだ!あと1時間ほど寝かせれば最強になるんだ!きっと美味いんだ!」
 
「や、こんなにいい匂いがするからもうお腹ぺこぺこだよ~。食べたいときに食べるのがいいの」
 
「そうだよね~、カレーなんて作る光くんが悪い」
 
ぴしゃりと言われる。
……いや、マジで勘弁してくださいお姫様方。
こんなことで俺のカレーの最終進化を妨げられるわけにはいかない!ということで――
 
「誠に申し訳ないのでs」
 
「晩ご飯にしよう♪」
 
……駄目でした。このパターンは『もう聞く耳持ちませんモード』に突入しちゃってるよ。
 
「はい……」
 
俺は肩をすくめて頷いた。
っと、そこに。
 
――ぴんぽーん。
 
だれかお客さんが来たようだ。
 
「ちょっと俺出てくるわ。その間くらいはカレー寝かさせて」
 
玄関に急ぐ。
 
「はーい」
 
もはや普遍化された応答。
戸を開ける。すると。
 
「来ちゃった……」
 
ほんのりと頬を赤らめて上目遣い状態の杏が立っていた。
その背後に小恋と茜の存在を確認。
……はぁ~。
 
「えっと、うち、宗教とかそんなのはいいんで」
 
戸を閉めようとすると。
 
「待ちなさい」
 
「なに」
 
「やっぱ光雅じゃ無理か……」
 
「何?」
 
「いや、なんでもない」
 
「ああそう」
 
「お化け屋敷の企画について話し合いたいのだが、いいか?」
 
「うっわ!?」
 
なんだ!?この杉並的な誰か、どこから沸いて出てきやがった!?
俺の並外れた洞察力を以ってしてもこいつの行動を推測できないとは……。
 
「という建前のもと、ついでに夕飯もついでに食べていこうと思って」
 
いや、うちはレストランでも料亭でもファミレスでもないし。ってか、こいつは杉並に気付いてたのか、はたまた最初から打ち合わせていたのか……。
 
「ふぅ~、やっと追いついたぁ~」
 
ななかさんまで登場。
 
「近くで1人でぶらぶらしてたら、小恋たちを見つけちゃったから、どこに行くのかなぁ~って、声をかけようと思ったんだけど、なかなか追いつけなくて。急に走り出しちゃうんだもん」
 
「ふふ……」
 
「杏ちゃん、まさか、知ってて……?」
 
「え?え?」
 
小恋はもはや何の話か分かってないっぽい。
 
「あれ?あ、杏先輩!!」
 
美夏も登場。なんでこんなに集まってくるんだ?
 
「あら、美夏も来たのね」
 
「うむ、なにやらこちらのほうから騒がしい声が聞こえてきたから、何事かと思って来てみたのだが、まさか弓月の家だったとはな……」
 
「わるうござんした……」
 
美夏が、俺の家だということに気付いた、という話から急に機嫌が悪くなったのを感じて、不本意に感じながらもとりあえず上辺だけの謝罪をしておいた。
 
「美夏もカレーを食べない?」
 
「カレーか。うむ、カレーは嫌いじゃない」
 
「……。はぁ。そういや、お前、杏といつ知り合ったんだ?」
 
こいつ確か極度の人間嫌いじゃなかったか?なのによりによって杏と仲良くなるとは、どういうことだ?
 
「弓月には関係のないことだ」
 
はい、予想通りの回答、ありがとうございます。
でも、杏をきっかけに少しずつ人間に慣れていってくれれば、と思う。
 
「あれ?あんたたちも来てたの?」
 
誰かと思って確認したら、まゆき先輩までうちに来ていた。
 
「あ、まゆき先輩、こんばんは」
 
「「「「こんばんは」」」」
 
「うん、こんばんは」
 
背後にはエリカもいる。
 
「エリカもな」
 
「こんばんは、先輩方」
 
あまりにも駄弁りすぎたので、待ちかねた音姉が様子を見に来たと同時に、あまりの大人数に、驚愕してしまった。
 
「うわぁ、いっぱい来ちゃったね……」
 
「ああ。もういいや、みんな、上がってけよ。カレーだからいっぱいあるし」
 
「1号くんが作ったの?」
 
「ええ、まぁ」
 
「弓月先輩、料理が出来るのですか?」
 
「まぁな、簡単なものだけど」
 
「凄いですね」
 
「それほどでもねぇよ」
 
というわけで、男子3人、女子10人(さくらさん込み)という、擬似ハーレム状態での夕食となった。
……ご飯、足りるかな?
 
かなり大人数となったので、隣り合った客室を2部屋使用した。広めのテーブルを義之と杉並に手伝ってもらって引っ張り出すのは大変苦労した。
ただ、そんなこんなで、カレーはベストタイミングで食べることになった。
 
……。
 
おっしゃあああああああああああああああああ!!!
あ、ごめんなさい、テンション上げ過ぎました……。
 
「なんで光雅兄さんの周りには女の子がこんなにいっぱいいるんですか……?」
 
「さぁ、なんでだろうな?ってか、俺がそうなら、義之や渉や杉並もそうじゃね?」
 
「フッ、何を言うか同志弓月、麗しき美少女たちの視線を釘付けにしているのは常に、弓月と桜内だぞ?」
 
「そーだよねー♪光雅くんって、かっこいいし、優しいし、頼りがいがあるから、結構もてるんじゃない?」
 
茜がやたらと俺たちを持ち上げるが、別に目立ったこともしてないはずなんだけどなぁ。
 
「ほー、それはそれは羨ましいかぎりだにゃ~♪」
 
「おうおう、光雅くんってみんなの人気者だよね~♪」
 
くそっ!なんでこんなにプレッシャー掛けられながら飯を食わなきゃならんのだ!?
横目で義之を見る。
 
「……」
 
うぉい!なんだ、その我関せず的な態度は!?
 
「う~ん、ここまで光雅くんが人気者だと、さすがのボクも妬いちゃうな~……」
 
「あらあら、学園長にも手を出すなんて、とんだスキャンダルね、光雅」
 
「出してねぇ!人を色情狂みたいな扱いすんなっての!」
 
ちっくしょう!辛い!
 
「あれ、義之兄さん、なんだか寂しそうですね?」
 
「んご!?ぐっ……げほっげほっ!」
 
由夢のジト目での突然の攻撃に、義之がむせた。
 
「心配しなくても、義之だって結構人気者よ……」
 
「……は?」
 
「特に下級生からの人気っぷりは凄いよ~」
 
「2人とも、誰にでも優しいからねー」
 
小恋、お前もか……!
 
「いや、光雅は知らんが、俺はそんなつもりはないぞ?」
 
「ほぉら出た、居候兄弟の無自覚スキル」
 
「まぁでもそれが光雅くんと義之くんだからねぇ」
 
「そうね、ほら小恋、もっと積極的にならないと、あとで後悔するわよ」
 
「ふぇえ!?な、なに?」
 
「おかわり!」
 
会話に参加していなかった美夏が、突然のおかわりコール。
音姉が立ち上がる。
 
「みんな、どんどん食べてね」
 
……いやいや、そんなにありませんから。
 
「それにしても美夏、お前、よく食べるな」
 
「カレーは嫌いじゃない」
 
「ふぅん」
 
「あの、弓月先輩」
 
「ん?」
 
「失礼ですが、このカレーは本当に先輩が作ったのですか?」
 
「だからそうだって」
 
「いえ、その、一般市民の手料理のはずが、宮廷料理人でも出せないような味を持っていましたので……」
 
これは、なかなかの反応ではないか!?
 
「ホント、おいしいよねー」
 
「これ、どうやって作ってるのー?」
 
「気合と根性を尽くして作ると美味くなるぞ?」
 
「何それー」
 
「でも、カレーに関しては義之兄さんのほうがやはり上ですね。」
 
なん……だと……!?
 
「それもそうだな、カレーにおいては桜内の真の十八番だからなぁ」
 
杉並も同意見を持ったようだ。
馬鹿な!?工夫に工夫を重ねて完成させた俺の魂のカレーでも、義之には敵わないというのか!?
 
「う~ん、そうだねぇ、光雅のカレーも美味しいけど、カレーに関しては義之のほうが少し美味しいかな」
 
「おぉう♪小恋ちゃん、ここから褒め殺し作戦開始ですかい?」
 
「っ!?違うもん!そんなんじゃないってばぁ!」
 
「残念だったな、光雅、カレーで俺に勝つなど、不可能だよ」
 
くっ……!駄目だ……、完全に負けた……。
 
「頼む、お前が何を使って味を出してるのか教えてくれ……!」
 
「ふ、やだね」
 
「だよなぁ……」
 
というわけで、カレーチャンピオン義之の第一回防衛戦は俺の敗北で幕を閉じた。
次こそは……次こそはぁ!