11.「saver」

2012年12月19日 18:15

放課後。
今日は部活もオフの日で、これからものすごく暇になる――のだが。
誰かに呼ばれている気がする。
どこに行けばいいのか分からない。
それでも、会わなければいけないような気がする。
「なぁ、健斗」
「なんだよ」
「俺、ちょっと用事あるから、先帰ってくれ」
「俺一緒じゃ拙いのか?」
「そういうわけじゃないが、俺の問題なんだ」
「そっか。それじゃ、俺は寮に帰ってマリカでもして待ってるぜ」
宿題しろよ、とツッコミを入れる前に帰ってしまった。
さて、どこに行けばよいものか。
特に理由もないのだが、なぜかより上に行った方がいいような気がする。
それなら、屋上か?
何の根拠もない判断で、俺は階段を駆け上がった。

屋上は基本的に開放されている。
だから俺は難なく屋上に出ることはできた。
しかし、そこには誰もいない。
別に騙されたわけでもないが、なんだか騙された気分になってしまう。
「やっぱり俺の気のせいだったのか……?」
踵を返し、屋上を去ろうとしたその瞬間。

――来た。
例の頭痛。
しかし、今回はいつもと違う。
本当にヤバイ。死にそうなほど痛い。
「う……あ……」
なんなんだ、これは。
前が見えない。
そして、地面に足がついていないような浮遊感。
体が、ギシギシする。
何が起きようとしているんだ?
無限の暗闇。
まるでそこに閉じ込められたかのように、強烈な孤独感に苛まれる。
誰か、助けてくれ――

声が、聞こえてきた。

――『キュウセイシュ』ヨ、クルエクルエクルエクルイハテ、クルシンデカナシンデオビエテアセッテイタメツケラレテサケンデモダエテノタウチマワッテスベテヲウシナイソノスベテヲセンボウシカツボウシゼツボウシテソノミヲミズカラホウムリサルガイイ――

「う……うわぁあああああああああああああああああああ!!!!」
呪詛のように、脳内に鳴り響く謎の声。
恐ろしい。
今この場で死んでしまいたいような衝動に駆られる。
だが――

目の前に、一筋の光が現れるのを感じる。

手を伸ばせ――

しっかり見据えろ――

閉じていた目を見開く。
すると。
脳裏に過ぎる様々な風景。
それぞれが何を表すのか、俺には説明できない。
ただ、それら全てが、懐かしいような気がした。

気が付けば、あたり一面真っ白だった。
ここはどこだろう。
少し見上げると、そこには、まるで十字架に貼り付けにされたイエス・キリストのように、その体を固定されているらしい青年がいた。
その青年は、じっとこちらを見ていた。
何かを言いたげな表情だったが、彼は何も言わなかった。
そして、視界が歪む。
これは、そう、あれだ。
夢。
夢から覚めるときと似たような感覚かもしれない。
そして、俺はこの『世界』とのリンクを絶たれた。

意識が戻ってくる。
まだ頭痛はする。
「くっ……」
そしてその頭痛は。
再び、その勢いを増した。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!!!」
意識を保て!
俺は、『武士(エイユウ)』だろう。
こんなところで倒れるわけにはいかない。
そしてもう一度、声が響く。
先ほどの呪詛の声ではなかった。

――スベテヲスクエ。

その言葉を聴いたとたん、頭痛は突如引いた。
さっきまでの悶絶が、まるで嘘だったかのように。
そして目を開く。
そこには、驚愕の風景が待っていた。
まず目に入ったのは、空。
空とは、夕方になっては、大体青かオレンジが基本だろう。
しかし、目の前に広がっているのは、何色とも形容しがたい、不可思議な色をしていた。
「こいつは、いったい……」
背後に人の気配。
とっさに振り返る。
そこには、1人の少女がいた。
「こんにちは」
その少女は、笑顔で挨拶をする。
年齢で言えば、まだ7、8歳くらいだろうか?
「君は……?」
「私は、『案内人』だよ」
「あんないにん?」
「そ、これで二度目だからね、こういうの」
「これは、前にもあったことなのか?」
どうやらこの子は、この怪奇現象のことを知っているらしい。
「その時は、ある男の人がね、たった一人でこの現象の行く末を抑制しちゃったの」
「この現象って、これはこれからどうなっちまうんだ?」
「わかんないけど、とりあえずこの世界はなくなるだろうね。ここは『境界』だから」
駄目だ、まったく話が見えてこない。
「とりあえず、分かっていることを話すね。」
そうして少女は語り始めた。
これから始まるのは、簡単に言えば4つの国での戦争。
そしてその4つの国の国境となりえたのが、この世界らしい。
そしてこの異変に気づくことができた人は、何らかのこの世界における影響力があるそうだ。
「私がキミの前に姿を現したのは、キミが一番頼りになりそうだったから」
「何で俺が頼りになるって、決め付けられるんだよ?」
「んー、なんとなく」
「そんな他人事で大丈夫なのかよ……」
とりあえず、こうなってしまったことには仕方がない。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「とりあえず、しばらくはここに攻めてくる軍団を蹴散らしちゃえばいいよ」
なんて難しいことを簡単に言ってのける人だろうか。
「あっ、大丈夫だよ。ここはなんていうか夢と現実が入り混じっている世界だから、多少は思い通りに動くことができるんだよ」
「そういうもんか……」
「まぁ、関わってしまったことはしょうがないんだから、とりあえず、これからよろしくねっ」
「よろしくねって、お前、まさか同行するつもりじゃないだろうな……」
「だって私『案内人』だもん」
「さいですか」
なんか厄介なことに巻き込まれてしまった。
とりあえず、俺はこの世界を守り抜かなければならないらしい。
初めてのことで実感ないけど。
この少女もまだ呑気にしていることだし、しばらくは焦る必要もないよな。
「それと、私の名前はトリーシャね」
「俺は小笠原宗一だ」
とりあえず結束の証として、固く握手をしておいた。
これから俺たちは、長い長い、意味不明な救世物語を展開していくのだろう。