11.在るべき形

2013年11月05日 23:21
茜の願いを鎮めた後、どういうわけか他の全ての願いが消えてなくなっていた。
多分だけど、他の純粋な願いが鎮められていくのを感じて、自分でその願いを無意識のうちに諦めたのかもしれない。
なんにせよ、これでようやくみんなの元へ帰れる。
 
「待たせたな、みんな……」
 
早くみんなに会いたい気持ちが抑えられず、ついつい先に口走ってしまった。
俺はもと来た道――光の道筋を見つけて、それに沿うように昇っていった。
だがそこで、2つの光に出会う。
これは――
義之と、さくら?
それじゃ、今この道筋を作ってくれているのは誰だ?
まぁいいや。
そういうことなら、これから帰還報告でも先にさせてもらいますかね。
俺は2つの光を1つに合わせて、俺もその中に入っていった。
 
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ここは、さっきもいた場所。
それでいて、何かが違う。
確かに、風景も、時間帯も、同じである。
でも、それでも何かが違った。
決定的な、何か。
そして、ここにいるのは俺だけじゃない。
 
「ここは……」
 
「夢……なのか?」
 
義之とさくらである。
どうやら2人は俺の帰りが遅すぎて眠ってしまったらしい。
俺は夢の魔法は使えないこともないが、夢というものは複雑かつ繊細なので、それを操ろうとすればかなりの体力と精神力を持っていかれる。
≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫を発動するのも悪くはないが、あれを使うのは緊急時だけだ。
 
「おっす」
 
俺が挨拶をすると、2人はこちらを振り返った。
 
「光雅……?」
 
「光雅くん、これは、夢、なんだね?」
 
「まぁな。多分桜の木の内部からだったら、俺の魔力を中継させてこちらに呼び込んだ。運よく光の道筋の近くを2つとも飛んでたからな」
 
「それじゃ、ちゃんとアイシアの道筋を通って帰ってきてるんだね?」
 
あの光の道筋は、アイシアが作ってくれていたのか。
俺が魔法を教えた甲斐があったってもんだ。
彼女はちょっと手先が不器用なものだから、何かと魔法の失敗も多かった。
俺が補助しながら回数をこなして、慣れてきたところで補助なしで練習させてみたら、驚くほどに成功率が上がった。
 
「まぁ、な」
 
「光雅」
 
義之が、俺に声をかける。
 
「俺たちのために、ありがとな」
 
「違う、違う。確かに俺はお前を引っ張りあげることで2人を救ったが、残念ながら俺の本心は家族みんなを助けるためだ。お前らの幸せは二の次なんだよ。芋づる式っていうかね」
 
「はは、相変わらずだな、お前も」
 
義之が俺の発言に苦笑する。
確かに若干冗談だった。
俺は家族の幸せも、義之と由夢の幸せも、平等に考えている。
それでいて、義之1人を救出することで、2人の幸せも、家族の幸せも、両方取り戻せるというものだから、一石二鳥とはこのことだろうな。
 
「それじゃ、これからそっちに戻る。もし目が覚めた時にみんなが起きてたら、そのことを伝えておいてくれ。俺が無事だって」
 
「ああ。分かった」
 
それじゃ、そろそろ俺も戻りますか。
俺がこの夢の世界に終わりを告げると、次第に周囲の風景は、歪んで、ぼやけてしまう。
そして俺は、この世界が終わる直前に、さくらの笑顔を見た。
 
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アイシアの作った光の道筋を通って、桜の外部に脱出する。
そこには、眠ってしまっている由夢と音姫、起きているさくらと義之、まひるとアイシアもいた。
朝倉姉妹は風邪をひかないように毛布を掛けている。
アイシアとまひるが心配になって様子を見に来たのだろう。
 
「お帰りなさい、光雅先輩」
 
温かな笑顔で、まひるに迎えられる。
 
「ああ、ただいま」
 
そして、疲れてへたり込んでいるアイシアに寄る。
 
「すまんな、俺がへまったばっかりに面倒事を増やしちまって」
 
「いやいや、いいよこのくらい。あたしも光雅くんには助けてもらったんだし、せっかく教えてもらった魔法を、こんな時に使わなくていつ使うんだって思ったしね」
 
アイシアはちょっと疲れたような表情をしながらも、達成感に満ちた笑顔で俺を見た。
そして、音姫と由夢も起こす。
 
「ん……、あれ、寝てた……?」
 
「ん、……ふぁあぁ……」
 
2人とも寝ぼけ眼を擦って、ふらふらしながら立ち上がる。
どうやら視界もまだはっきりしていないらしく、俺にも気付いていないようだ。
となれば聴覚に働きかけるしかない。
 
「ただいま、音姫、由夢」
 
「こ、光くん……?」
 
「光雅、兄さん……」
 
2人が俺を見て驚く。
いや、確かに『俺を置いて先に行け』は死亡フラグだけど、だからって、生きてることに驚かれるって、こちとら若干傷付くんですが。
まぁいいや、こうして戻ってこれたし、みんな無事だし。
 
「光くんっ!」
 
「うわっ!?」
 
音姫が急に飛びついてきたので、慌てて抱き留める。
 
「良かった、良かったよぉ……!」
 
「ごめんな、心配かけて。でも、大丈夫だって。俺も、義之もここにいるだろ?」
 
「うん、うん……!」
 
音姫は俺の胸の中で、感極まって涙を流していた。
ここまで感激されるとなんだか嬉しくて気恥ずかしくて、ちょっとアレだったので、とりあえず、音姫の頭を撫でてやった。
撫でられる方も気持ちいいのだろうが、撫でてる俺も音姫のサラサラヘアーが本当にキメ細かくて、いつまでも触っていたくなる。
こうやって触れ合えるのが、本当に幸せなんだなって、心から思える。
そしてこれからは、その幸せを、由夢も、義之も、一緒に感じることができるんだ。
もう、何も心配することはない。
だから――
 
――だから、みんなで一緒に、帰ろう。
 
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「光雅、今日ちょっと放課後に用事があるんだけど、良かったら付き合ってくれない?最近覚えが悪くて店がどこにあるか分からないから」
 
「は?いや、俺今日も音姫と――」
 
「光雅くーん!今日一緒に帰ろー!」
 
「あら白河さん、どうしたの急に、光雅には音姫先輩という立派な伴侶がいるんだから、横取りなんてセコイことしちゃだめよ」
 
「それを言うなら雪村さんだって、光雅くんを連れまわそうとしてるじゃない。私だって帰るついでに光雅くんとカラオケに行くの」
 
「私はいいの。ただ個人的な用事で、ちょっと人手が欲しいから、そのために適任な光雅を連れていくだけだけだから。それに、道案内、必要だから」
 
……なんか、大変なことになっていた。
いやもう、考える必要もなく昨日夢の世界で説得して回ったのが理由だと思うんだけど、まさかこんなことになるとは。
俺には音姫という立派な恋人がいるわけで、浮気なんかできないし。
夢だからなのか?
確かに最も心に近い場所であれやこれや偉そうなこと言って回ったのは確かなんだけど……。
 
「これはこれは面白い展開になってきましたねぇ~小恋ちゃん。私も光雅くんNTR狙ってみようかな?」
 
「ちょっと、茜、何言ってんの~!?」
 
「いや、だから俺には音――」
 
「義之兄さ――って、あれ、光雅兄さんだいぶ苦労してますね……」
 
「ま、光雅も恥ずかしいことを自然に口にできるモテるタイプの男だからな。大方桜の中であいつらに優しい言葉かけて回ってたんだろ。ったく、これだからデキルイケメンって奴は……」
 
「義之兄さんも似たタイプですよ……」
 
「またまたご冗談を……」
 
っとそこカップル!
何変な会話しながらちゃっかり手繋いだりしてんだ!
イチャイチャするのは問題ないがせめてこの状況を何とかしてからにしてくれ!
 
「光雅、ふ、ふざけんな!茜さんのおっぱいは俺のもんだ!テメェなんかに譲ってたまるかよ!」
 
「いくらでもくれてやるから助けてくれ!」
 
「もー光雅くん、そんなこと言ってると全校男子生徒から刺されちゃうよ?」
 
とか言いながら変にすり寄ってくるんじゃありません!
 
「光くん、一緒に帰ろ――って……」
 
「あ」
 
とっておきの!とっておきの!とんでもない状況に巻き込まれた俺!
 
「先に帰ります。ゆっくりお友達と仲良くしてね」
 
物凄く温度の低い声色でそんなことを言う音姫。
なんでこんなことになってしまうんだろう。
音姫は教室を去ったと思ったら、またひょっこり顔だけ出した。
 
「光くんのばーか」
 
と言って走って去ってしまった。
ったく、どうしてくれるんだ。
音姫は昔から根に持つタイプだから懐柔するのにも一苦労なんだぞ?
 
「ま、光雅なら大丈夫でしょ」
 
と杏はおっしゃるのだが、果たしてその自信はどこから。
 
「そうだね。私知ってるもん。2人の仲は誰にも割って入れないって」
 
「うん。だからこっちとしても遠慮なく光雅くんにアタックできるんだよ。藍ちゃんの分もね」
 
「そういうもんか……。じゃなくて、頼むから3人とも早く離れてくれ。そろそろ俺は呪殺される」
 
周囲を見渡すと、クラスの男子生徒どころか、他のクラスや学年からも生徒が集まってきて、俺たちの様子を見ている。
んで、基本的には嫉妬の視線。
呪術めいた呪文唱えてるやつとかいるんだが。
女子生徒も俺が女ったらしみたいな視線で見てくる。
……まぁ、こいつらが、桜の魔法が解けて、生きるための補助輪を失って、後ろ向きにならずに、前を向いて自分がすべきことを見つけてくれたのなら、それで良しとしよう。
とにかく、帰ったら音姫の機嫌をとらないとな。