12.「union」
「そういやさ、俺、寮で二人暮らしなんだけど」
「それが?」
いろいろな出来事があって、何がなんだか分からない状態で、とりあえず整理をつけるためにいったん現実逃避して学校を出た。
しかし、寮には健斗がいる。
あいつが異変に気付いているとも思えない。
「いや、もし無関係者だったら、お前一人完全に空気ポジションになるぜ?」
「あ、そっか」
「どうすんのさ?」
「行くよ?」
決意は変わっていないようだ。
空を見上げると、相変わらず不気味な色が広がっていた。
その時、ポケットからバイブが振動する。
携帯が鳴っているようだ。
「もしもし」
『ああ、俺だ。健斗だ』
通話の相手は健斗だった。
いったいどうしたのだろうか。晩飯のおかずの注文だろうか。
「なんか用か?」
『用も何も、空があれだってのに、何でお前そんなに落ち着いてんだよっ!?』
――っ!?
健斗は――気付いている。
それはつまり、『世界に影響力を持つ人物』となる。
「お前、それいつ気付いた?」
『あん、さっきジョギングしようとして外出たら既にあんなんで、ビビッて今布団にくるまってる』
「そうか……」
『あれいったい何なんだよ!?』
「話は後だ。すぐそっちに向かう」
『えっ、ちょ、ま――』
電源を切り、トリーシャを見る。
「お前、走れるか?」
「走れないけど、飛べますよ?」
「は?」
「まぁまぁ、行っちゃって下さい。」
分かった、と相槌を打って、ダッシュする。
すると後ろから、本当にトリーシャが飛行してついてきていた。
「マジかよ……」
「マジです」
隣で幼女がドヤ顔を決め込んでいるが、今は健斗の方が重要事項なのでそちらはスルー。
そして寮の前に着いて。
「この世界に影響している人間って、どのくらいいるんだ?」
ふと気になった質問をぶつけてみる。
トリーシャは答える。
「う~ん、そうですね、なんにせよ恐らくキミの通っている学校が運悪く『境界』となってるから、とりあえずキミの学校に関わる人の一部ってくらいまでなら分かるよ?」
なるほど。だから健斗が選ばれているのも別におかしいことじゃないってことか。
寮の自分たちの部屋の前に立って、ドアをノックする。
すると中から情けない声が返ってきた。
「どっ、どちら様ですかねぇ……?」
「俺だ。宗一だ。入るぞ」
バサッ、ドンッ。
俺がドアを開けると同時に、部屋の中で健斗が布団を剥いでベッドから飛び出る音がした。
「ただいま」
「お、おかえり。――って」
どうやら何かを目にして硬直したようだ。
「おい、宗一」
「何だよ」
「誘拐だけは止めておけ。サツのお世話になっても知らんぞ」
「はぁ……」
こいつ頭どうかしてる。
俺と今まで何年も一緒にいたというのにも関わらず、俺が誘拐をするような人間だと思ってやがる。
そんな悲しい子にはお仕置きが必要だと思うんですよ。
というわけで。
「はい、これがアルゼンチンバックブリーカーです」
「ちょ、痛いっ!いたっ!なんでっ、なん――」
「このままドロップしましょうかね。はい、ストマックブロック式ですね」
「―――――~~~~~!」
「最後はフォーゲット・アバウト・イット。はい終了」
「ぐおぉ……」
ケント は たおれた!
ソウイチ は 35けいけんち てにいれた!
「それくらいにしてあげたらいいんじゃないかな?」
終わった後にトリーシャが静止に入る。
遅いよ。健斗が心配ならもう少し早く止めてやれよ。
「……で、その子誰なんだよ?」
かなりキツイプロレス技を掛けたはずなんだが、それでもなお意識を保つとかどんなギャグ補正よ?
「あー、それなら俺から話すよりこいつから話した方が早いな。頼む」
「了解です」
トリーシャが現段階で分かっていることを話す。
なんというか、やっぱり健斗は理解が追いついていなかった。
「とりあえず自己紹介しときましょうか。私はトリーシャ。『案内者』となってます」
「あ、俺は篠原健斗だ。よろしく」
お互いに自己紹介が終わったところで、何をするのか聞こうと思ったら、唐突にトリーシャが口を開いた。
「では早速ですが、お二人の実力を拝見したいと思います」
「「は?」」
「はいはい、テレポートしちゃいますので、ちょっと私の手を握ってください」
「いや待て話を進めるな。とりあえず説明してからにしろ」
「今言ったじゃないですか、実力を見るって」
「いや、なんで今実力を見るの?」
「あ、それは後で話した方が分かりやすいかも」
「そうなんか」
「はい」
両手を健斗と俺で握ってテレポートのスタンバイ(?)をする。
そして目を閉じる指示があったから、いわれるままに視界をシャットアウトする。
さてどのくらい目を瞑っていればよいm
「もういいですよ」
なん……だと……?
「早いな……」
目を開けると、そこには辺りが森で囲まれた、広い草原だった。
ここはどこだろうか?
「一時的に私が創り出した架空の空間です。こっちの世界で言う、ばーちゃるわーるど……?」
そんなことが出来るのか……
そんな奴ら相手にまともにやりあえるのだろうか?
「それじゃあ早速CPUを召喚しますので、宗一は準備をしてください」
「いつでもOKだけど」
「そうですか。ならいきますッ!」
トリーシャの目の前に少し大きめの魔法陣、そしてその周囲に光が集合し、少しずつその形を形成し始める。
なんかゲームの召喚魔法みたいだ。
というか、まんまそれな気がする。
そこに現れたのは、一丁の剣を携えた、一人の騎士。
あの剣、どう見ても本物なんですけど。
もし俺が何の変哲もない一般人だったら即死だと思われるんですが?
「お前、あんなのと闘うのかよ……?」
「らしいな。まぁ、何とかするよ」
騎士と少し距離を置いて対峙。
その冑の奥の眼光を確認するが、漆黒の影に隠れて何も見えない。
召喚した、と言うくらいだから、恐らく魔法生命体みたいなものだろうから、玩具を壊すのとすることは大差ないだろう。
でも、今回壊すのは、玩具じゃなくて、戦士。
それも素人相手じゃなくて、それなりに経験積んでそうな、騎士。
果たして、俺なんかに勝てるんだろうか?
騎士がまず行動を始めた。
騎士が剣を振り上げるのを合図に、一対一の戦闘が始まった。