12.キミと奏でる旋律(ストーリー)

2013年11月05日 23:34
しんしんと、桜が舞っていた。
驚くほどゆったりと、音もなく。
俺はそこで、さっきまで音姫と楽しく談笑していたはずだった。
それが、いつの間にか、真っ暗な世界、いや、真っ白か、それとも、ここは一体、何色で構築されているのだろうか?
そう、ここは、紛れもなく俺が新しい世界に来る時に通された空間だった。
ここで俺は『魂の選別者』と名乗る人に出会って、魔法が使える力を授かったのだ。
そして俺は、その空間をゆっくりと歩く。
周囲をきょろきょろ見渡しながら、多分、ひたすらまっすぐに。
そして、呼び止められた。
 
『貴様はそこから先に来るべきではない』
 
その声も、今では懐かしかった。
そう、『魂の選別者』と自ら名乗った、その人張本人だったのだ。
長い、金髪の流れるような髪をなびかせて、こちらに向き直る。
 
「久しぶり……ですね」
 
『急に敬語を使うな気持ち悪い』
 
いや、最初に会った時は気が動転してて思いっきりタメで話してたけど。
とりあえず相手は凄い人っぽいから敬語を使ったんだけど、まさか嫌がられるとは。
 
「そっか」
 
なんとなく、安心した。
 
『貴様、今の世界が楽しいか?』
 
「ああ、楽しいよ。みんないる。俺は、俺の大切なものを守ることができた。十分幸せさ」
 
『そうか。そいつは結構なことだ。俺としてはあの戦い、あの弓月龍雅が勝っていた方が面白いことになっていたとは思うが、まぁ、貴様が運命を切り開いていくのを眺めているのも、存分に面白い。今度はこの俺自身が、貴様の前に立ちはだかってやろうか。この、全ての運命を司るような力を持った俺が』
 
「勘弁してくれ。いい加減俺は平穏な生活を送りたいんだ。正直、本校卒業したら農業でもしてやろうかと思ってるくらいだ」
 
『フン、そんなことは訊いていないぞ。とにかく、貴様はここにいるべきではない。帰るべき場所があるのだろう』
 
「分かってるけどさ、そもそもなんで俺がここにいるのか、そしてどうやって帰ればいいか分かんねぇからしょうがないだろ?」
 
『貴様は、死にかけていたのだよ。そして、結局助かった。誰かが、自身の“助ける側の寿命”を削って、“助けられる側の寿命”、つまり貴様の寿命に加算したようだ。貴様は帰ることができる。後は時間の問題だ』
 
誰かが命を引き換えに俺を呼び戻そうとしている?
一体誰が?
そんな魔法を使えるのだとしたら、まさかさくらか?
いや、さくらはそんなことをするような人間じゃない。
俺が起きた時にさくらがいないと、俺が悲しむことを知っているからだ。
ならば、誰が?
 
『感謝しろよ。貴様は、“最高の家族”に恵まれたのだからな。……おっと、そろそろ時間だ。貴様は時期に帰ることができる。そうだ、それと俺にも感謝したまえ。ここで会えなければ貴様は三途の川を渡っていたところだ』
 
最後に、彼の皮肉めいた言葉を聞いて、その美しい金髪を視界に収めながら、俺の意識はフェードアウトしていった。
 
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~音姫side~
 
結局、光くんが起きないまま、3月15日、卒業パーティーを迎えてしまった。
生徒会長という役割もあるため、そのための準備には全力を尽くさねばならず、いつまでも目を覚まさない光くんを見てはくよくよしている場合ではなくなっていた。
それでもどこかで無理をしていて、由夢ちゃんにも、義くんにも、挙句の果てにまひるちゃんにも表情が曇っていることを指摘されたくらいだ。
先程卒業式を終え、最上級生を送り出して、私は束の間の休息を取ろうと思い、立ち上がった。
 
「音姫、大丈夫?」
 
まゆきからも心配をかけられる。
 
「大丈夫、じゃないかもね」
 
苦笑しながら、まゆきの言葉に返答する。
 
「今日の仕事、休んでもいいのよ?流石に杉並も今回は暴れないと約束したし、それで仕事も少ないからさ。音姫の分は、生徒会で分担して担当するから」
 
「でも――」
 
「でもじゃないの。今日はゆっくり休みなさい」
 
まゆきの真剣な眼差しに、思わず頷いてしまった。
それでまゆきはさっさと去ってしまったわけで、これで本格的にすることがなくなってしまった。
とりあえず、1人になろうと思い、みんな出払っていて、誰もいない生徒会室に籠ることにした。
 
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誰もいない生徒会室の窓の外を眺めていた。
誰もが楽しそうに笑って、出店を次々に回っている。
本当ならあそこに私も光くんと一緒に混ざって、楽しくやっていたのかもしれない。
でも、その光くんは、いつ目を覚ますのか分からない。
そう考えると、また憂鬱な気分になってしまった。
 
「だめだな……こんなんじゃ……」
 
溜息1つ。
そこでぼうっとしていて、どれだけ時間がたったのだろうか、ふと、ノック音が聞こえてきた。
返事をする間もなく戸を開けて中に入ってきたのは、光くんたちのクラスメイトだった。
雪村さんと、花咲さん。
 
「音姫先輩、ちょっと来てくれませんか?」
 
雪村さんの抑揚のない声で紡がれた言葉は、漠然としていた。
 
「……どうしたのかな」
 
「音姫さんにも、出てもらいたいものがあるんです」
 
花咲さんの言葉もまた、先程の雪村さんの頼みの説明をしたのだろうが、漠然としていた。
 
「ミスコンに、出てもらいたいんです」
 
雪村さんの放った言葉は、あまりにも突然で、それでいて衝撃的なものだった。
私はミスコンには出場したことはない。
興味がなかったし、そもそも生徒会の仕事が忙しくてそれどころではなかった。
 
「ごめんなさい、私、ミスコンには興味がないから。それに、光くんがいないんじゃ、出る意味がないから……」
 
「光雅くんのために、出てほしいんです」
 
花咲さんは、私の拒否をあらかじめ予測していたかのように、私の言葉に続いてすぐに言葉を発した。
 
「光雅くんのために、光雅くんが帰ってきた時のために、音姫さんにドレスを着てほしいんです。光雅くんが眠っている間でも、音姫さんは挫けることなく頑張っていたんだってことを証明するために。だから、お願いします!」
 
「お願いします」
 
かつて生徒会に対しても挑戦的だったこの2人が、頭を下げた。
それだけで、彼女たちの熱意が、想いが伝わってきた。
そして、彼女たちの言い分の一理あったし、何よりも光くんがいなくて悲しくて、それでみんなに迷惑をかけるわけにはいかないから、ちゃんと立ち上がるための第一歩として相応しいのではないかと、そう思った。
 
「分かりました。少しだけだけど、参加します」
 
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コンテスト会場の舞台裏では、既に参加者が集まっていた。
そして驚いたことに、そこには由夢ちゃんまでいた。
 
「あ、お姉ちゃん」
 
「由夢ちゃん、一体どうして?」
 
由夢ちゃんもこういうのには興味がなかったはずだ。
一体どういう心境でここにいるのだろう?
 
「それはむしろ私の方が訊きたいことですけど……。えと、義之兄さんが、私のドレス姿を見たいっていうから」
 
由夢ちゃんのドレス姿は、本当に美しかった。
義くんもきっと、この由夢ちゃん姿を見れば喜ぶだろう。
 
「あっ、由夢ちゃんに音姫先輩、こんにちは」
 
そこに姿を現したのは、既にドレスを着込んでいた白河さんだった。
 
「お2人が出るとなると、流石に今回は優勝できないねー」
 
白河さんが苦笑しながら、そんなことを言う。
そしてすぐ、真剣な面持ちに変わった。
 
「音姫先輩。光雅くんがいなくて辛いのは分かります。でも、きっと光雅くんも、そんな表情をしている音姫先輩を見るのはつらいと思うんです。だから――」
 
「大丈夫だよ、白河さん。さっき、雪村さんや花咲さんにも、似たようなことを言われたから。私は、大丈夫」
 
「そうですか。それならいいんです。早く着替えてきてください。正直私も音姫先輩のドレス姿を見たいんですから。由夢ちゃんもこんなに綺麗です。きっと音姫先輩も綺麗ですよ」
 
白河さんの言葉に背中を押され、私は係の人からドレスを受け取って、指定の場所で着替えた。
 
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『それでは今回、白河ななかに匹敵する程の人気を持つ、あの姉妹もゲストとして参戦だァァァァァァァ!!!!!』
 
――ウオォォォォォォォォォ!!!!!!
 
会場の熱気は凄まじかった。
特に白河さんが舞台に上がった時の歓声といったら、それこそ有名アーティストの生ライブのそれと似たようなものだった。
そして、次は由夢ちゃんの番。
緊張しているのか、ぎこちない表情でこちらを見る。
 
「それじゃ、お姉ちゃん、先行ってくるね」
 
「うん」
 
そして、やはりぎこちない動作で、舞台へと上がる階段を昇っていった。
 
『さて!まずはその1人!可憐で清楚、礼儀正しいしっかり者美少女!朝倉由夢ェェェェ!!!!』
 
――ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
 
やはり由夢ちゃんの人気は凄かった。
家ではぐうたらしているけど、学園ではなんでもそつなくこなす、礼儀正しい女の子だから、人気なのもよく分かる。
純白のドレスを着た由夢ちゃんが、スポットライトに当てられて、ますます美しく輝いた。
司会者さんが参加理由を聞いた時、『義之兄さんに見てもらいたかった』と言った時には、変に空気が揺れた。
 
『それでは早速参りましょう!『気になるあの人はだぁれ!?』』
 
――ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
 
『さて、朝倉由夢さん、あなたの好きな人はズバリ?あっ、お兄さんとかそういうのはなしでお願いします。異性として、好きな人をお願いします!』
 
これを聞いて、少し由夢ちゃんを可愛そうに思った。
由夢ちゃんが好きなのは、その義くんなんだけどなぁ……。
 
「義之兄さんです……」
 
『いえ、だから――』
 
「私は義之兄さんのことが好きですっ!」
 
由夢ちゃんの声が、体育館中に響き渡り、沈黙を作り出した。
そして、そこから聞こえてくる足音。
舞台に上がってきたのは、義くんだった。
 
「あー、えっとな、悪いんだけど、由夢が言っていることは本当だ。由夢が俺のことを愛してるし、俺も由夢のことを愛してる。認めろとかは言わないけど、せめて由夢に当たるのだけはやめろよ?」
 
「えっと、その、よろしくお願いします」
 
そうして由夢ちゃんと義くんの手が繋がった時、歓声と共に拍手喝采が巻き起こった。
祝福されながら。、義くんたちは舞台を向こう側へと降りていった。
 
「――!?何、ああ、そうか。ならすぐ来い。もう始まるぞ」
 
待機している私の隣に、係員の1人である杉並くんが誰かと通話していた。
 
「朝倉姉よ。そろそろ出番だ。準備はいいな?」
 
「大丈夫」
 
「それならば、華々しく行ってこい!」
 
杉並くんの強気な声で、私はステージへの階段をゆっくり上がる。
そして、舞台に立った時、アナウンスが響いた。
 
『そして!完全無欠の癒しの笑顔を持った、我らが生徒会長、朝倉音姫ェェェェェェェ!!!!』
 
由夢ちゃんの時と同様に、スポットライトが上から当てられ、眩しくて少し目を閉じた。
そして周りを見るためにもう1度開きなおす。
ものすごく緊張していた。
生徒会長として前で話すことはたくさん経験していることとはいえ、やはりこんなシチュエーションは初めてで、これまでにないほど緊張していた。
 
『さて!今回参加なさった理由は?』
 
先程のような理由は言えない。
だから、無難な回答をしておくのがいいと思った。
 
「ドレスを、1度でいいから来てみたかったから、ですかね」
 
『これはいい回答をいただきました!これまで1度も参加表明をしなかった生徒会長が、自らの意志でこの衣装に身を包んだと!』
 
――ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
 
『さて、朝倉音姫と言えば、いつも一緒にいて幸せそうにしている付属3年3組の弓月光雅さんは、どこにいらっしゃるのでしょうか?』
 
言葉が詰まった。
まさかこのタイミングでそれを聞かれるとは思わなかった。
光くんは、まだベッドで寝ている。
いつ目を覚ますかも分からない。
一気に、奈落の底まで突き落とされた気分だった。
何かしゃべらないと――何も言葉が出てこない。
今にも泣きそうで、怖くて、辛くて。
心が痛んで、耐えられなくなりそうになった――その時。
 
「音姫!!!!!!」
 
誰かの叫び声。
 
体育館の後ろの方からだった。
 
聞き覚えのある声。
 
ずっと聞きたかった声。
 
あの高台で約束を交わしてから、ずっと思い続けた、彼の声。
 
 
――ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーます。
 
 
何度も私を助けてくれた。
 
何度も私を支えてくれた。
 
 
――音姉を、守るから。
 
 
挫けそうになっても、帰ってきてくれた。
 
傍にい続けてくれた。
 
 
――音……姉……、よかったっ……!
 
 
そして、恋人同士になって、改めて約束を交わして。
 
自分の気持ちも、彼に伝わった。
 
 
――俺は、音姉のことが――好きだ。
 
 
その人が、そこにいた。
 
その人は、椅子と椅子の間をまっすぐに舞台まで歩いてくる。
 
そして、舞台に上がり、その優しげな顔を向けてくれた。
 
 
「光くん……!」
 
 
「ただいま、音姫」
 
 
「うん、うん……!」
 
 
ずっと待っていた。
 
光くんが帰ってきてくれることを。
 
また私に、微笑みかけてくれることを。
 
 
「帰ってきてそうそう、音姫のドレス姿を拝める俺は、本当に幸せ者だな」
 
 
私は、思わす光くんを抱きしめていた。
 
光くんは、それに応えるように、私を抱きしめ返す。
 
幸せだった。
 
本当に幸せだった。
 
 
「もう大丈夫だ。俺はここにいるから」
 
 
「うん……」
 
 
そして、観衆に見守られていることも忘れて、既に世界は私たち2人になっていた。
 
どちらともなく、お互いがお互いに引き付けられるように。
 
たったほんの一瞬だけ。
 
唇が重なった。
 
私も、光くんも、泣いていた。
 
幸せすぎて。ここでこうやって正面から向かい合っていられることが嬉しくて。
 
そして、スポットライトに当てられて、はっきりと視界に映っていた光くんが、一言、私に囁いた。
 
その言葉は、本当に光くんがそこにいることを実感させてくれた。
 
その言葉は、私に幸せと希望を与えてくれた。
 
その言葉は、私も光くんに言いたかった一言だった。
 
彼と出会ってからの様々なことを思い出しながら、私はその言葉を、何度も何度もかみしめた。
 
その言葉は――
 
 
――音姫、愛してる。