12.テスト返却 英語編

2012年10月28日 19:03
さて、今日の英語の授業は先日行った期末試験の返却と解説である。
英語って、ホント苦手なんだよなぁ~。
前の世界では一応高校2年の始めの方までは授業を受けていた。
……が。
英語だけはどう足掻いても平均点を上回ることはなかった。
全国の学生諸君が抱えている悩みときっと同じだろう。
単語が覚えられねぇええええええええええええ!!
はい、そうです。覚えるのが苦手なんです。
 
「はい、では、番号順に取りに来てください」
 
という先生の指示の通り、番号の早い順にテストを取りに行く。
 
「ガーーーン!け……欠った……」
 
返却早々、渉は自分の点数があまりにもひどかったことを暴露する。
 
「無様ね。とりあえず授業さえまともに受けていれば、少なくとも40は取れるテストだったのに」
 
「お前は記憶力がいいから余裕でいいよなぁ……」
 
「渉くーん。人のことをとやかく言う前に、自分のことを何とかするべきだと思うよ~」
 
「できねぇものはしょうがねぇだろぉ?」
 
「欠点取ったやつって追試だろ?」
 
義之が先程先生が言ってた恐ろしい言葉を復唱する。
やめてくれよ。俺だってその1人にされる可能性があるんだぞ?
 
「はぁ~、そーなんだよなぁ~……」
 
とりあえず全部埋めては見たものの全然自信がない。てか、英語に関しては凡人以下だってのに、あんな難関高校入試レベルの文章が読めるわけねぇだろーが!
 
「弓月よ、英単語を完璧に覚えたければ、非公式新聞部に入部すれば、3日もあれば網羅出来るぞ」
 
「断ります……」
 
それだけはこっちから願い下げだ。
 
「桜内」
 
「あ、はいは~い」
 
会話に夢中になっていた義之を、先生がテストを取りに来るよう催促する。
 
「よっしゃ、セーフ!」
 
「うわぁ……」
 
やばい、あの義之ですら欠点回避しやがった。もしかしたら俺と渉だけでってことも……。
いやだーーーーーーーーーーー!!!
なんか嫌だ。
うろたえていると、テストを返却してもらった麻耶が帰ってきた。
 
「麻耶ー、どうだった……?」
 
「今回は結構勉強したから、割といい点が取れたわ。まぁ、雪村さんほどじゃないけどね」
 
といいつつ、こっそりと見せてきた得点欄には、68、と、輝かしい数字が書かれてあった。
中学校の内容だからって、なめんなよ?平均点47だってよ?
そうこうしていると、杉並も。
 
「フッ……」
 
あいつのことだ、どうせまた100点だろう。
やべぇよ……。すごくやべぇよ……。
続いて、小恋は59点。茜は48点。俺たちの中で、貰ってないのはあと杏と俺だけだ。
……杏、お前もどうせ100点だろ?
というわけで、俺の番。
頼む、30、30でいいんだ!
教卓の前に立ったとき、先生の顔が少しゆがんだ。……気のせいなんかじゃない。
 
「……もう少し、頑張れよ」
 
……先生、それだけで十分死の宣告ですよ。
恐る恐る貰ったテストの点数を見る。
 
……。
 
31。
 
……。
 
よっしゃあああああああああああああああああ!
 
と叫ぶにはあまりにも低すぎる点数。
だが、奇跡的な欠点回避に、思わず握り拳を作っていた。
次の杏も帰ってくる。
 
「フフ。光雅、あんた、一体どこを間違えたの?」
 
にやり、と笑って杏が近づいてくる。
しぶしぶ解答を見せると、そのニヤニヤ顔がさらに俺を馬鹿にする顔に変わった。
 
「あんた、ここ、『r』と『l』を間違えるなんて。あ、ここも。『s』と『c』。んー、見たところ、文法的には問題ないわね」
 
「単語が覚えられねぇんだよ……」
 
「それは可哀想に。理解力と応用力は半端じゃないのに、記憶力はそうでもないのね」
 
「アルファベットという異国の言語を可視化するツールが悪いんだ」
 
「みっともない言い訳ね」
 
「何とでも言えよ。はぁ~」
 
全員のテストを返却し終わって、先生が生徒に席に着くように指示を出す。
これはもう音姉に頼るしかないか?
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
授業が終わって、トイレにいこうとすると、渉も着いてきた。
教室を出ると、渉が急に真剣になった。
 
「おれさぁ、ずっと考えてたんだけどさ」
 
「うん?」
 
「お前ってさぁ」
 
そんなに真剣な表情で何を言うんだろうか。
 
「すんごーーーーっく、贅沢な野郎だよな」
 
「何が?」
 
「かーっ!何がときましたか、何がと!このラブルジョワ野郎!」
 
さっきとは違う意味で、何を言うんだろうか。
 
「だってだってよー、家に帰れば朝倉姉妹と同棲生活だろ?」
 
「ハイ残念、俺はその隣に住んでます」
 
「んなこと言っても似たようなもんじゃねーかよ」
 
ってか、それを言うなら義之もそうじゃないか?
もっと言えば、純一さんも……。
あれは祖父だからな。
 
「あー、俺も美人姉妹のいる家に居候してーなぁ……」
 
「いや、でも、ホントに兄妹みたいなもんだしさ……」
 
「いーの!それでもいーの!俺もお前みたいに甘やかされたいの!慕われたいの!」
 
なんだ、こいつ?テンションがおかしーぞ?
 
「それに、きょーしつでは雪月花と仲いいだろ?」
 
「それは俺に限らず、義之も杉並もお前もそーだろーが」
 
「そーなんだけど!違うの!俺のと、お前と義之のとは、なんか違うの!こう、ジュースィーさが足りないっていうか……」
 
「なんなんだよ……」
 
意味が分からん。別に変わらなくない?
 
「とにかく違うの!それに、最近転校してきた2年の可愛い女の子と妙に仲いいじゃねぇか」
 
2年の転校生といえば、美夏か。
 
「いや、あれはどう見ても嫌われてるだろ」
 
「いんや、俺はあの子がお前以外の男子としゃべっているのを見たことがありません」
 
「さいですか」
 
いや、それは舞佳先生に事情で頼まれてるだけだし……。
それにあれは自分から他人を話しているクチだ。
俺以外の男があいつと喋るなんて、考えられない。
恐らく速攻でパンチ食らうか?
 
「しかもしかも!お前は義之同様あの白河ななかのお気に入りだったりするわけだろ?」
 
「ななかって誰にでもあんなんじゃなかったか?」
 
「わっかんねぇのか?お前ら、白河のことなんて呼んでるよ?」
 
「ななか。……って、あ」
 
いや、でも、なぁ?
 
「俺はお前ら以外の男子が白河のことを名前で呼び捨てにしているのを聞いたことがありません!」
 
「言われてみれば……」
 
なんで俺と義之だけ名前OKなんだろな?
 
……な?
 
「ああ見えて白河は結構奥手なんだよ。特に恋愛沙汰に関しては」
 
へぇ~、あのななかがねぇ。イメージできん。
 
「ほれ見ろ!」
 
「んが?」
 
「全校生徒の憧れ、優しくて完璧なお姉ちゃん、音姫先輩には、光くん、と溺愛され、ひそかにファンクラブまで設立されている、可憐で清楚な由夢ちゃんには、光雅兄さん、と慕われ、我がクラスが誇る雪村杏、月島小恋、花咲茜の萌キャラ3人娘とは親密な関係を築き、強気な態度が魅力の謎の転校生とはいつの間にか親しくなってる!そして学園のアイドルと称される白河ななかとは学園でたった2人、ファーストネームで呼び合える仲!」
 
お疲れ。なんだか分からんが、よく一息で言い切った。
 
「……」
 
「な?」
 
「な?ってなんだよ……」
 
「殺されても、文句の言えない状況だろ?」
 
真顔でそういうことを言うのはやめてください。ってか、俺だからそうそう簡単には殺されそうもないが……。
 
「選びたい放題でうらやましい限りだ……」
 
選びたい放題って……。別に今すぐ恋人つくろうとか考えてもないし。みんなと仲良く面白おかしくやっていきたいし。
という訳で――
 
「全然ちげぇよ。別に、全部お前のイメージとはかなり違う方向にベクトル向かってるから。多分。それに、お前も女友達多くない?」
 
「俺か?」
 
「ああ」
 
「俺の場合、キャラじゃん?そーいう。一緒にいて楽しい男の子泊まりみたいな」
 
分からんでもない。
 
「それに……」
 
渉が珍しく口ごもる。いつもなら言いたいことははっきりという奴だが。
 
「俺はそのぉ~、……いつでも月島一筋だからさ」
 
なんだかんだでこいつは結構一途なんだな。
 
「ま、なんちゅーか、あれだ」
 
「どれだ?」
 
「お前は学園が誇るヒロインたちを独り占め状態なわけだ」
 
いや、だから独り占めとかそんな人聞きの悪いことを言われてもだな……。
 
「ってことで、精々刺されないように気をつけるんだな」
 
う~ん、確かに今の話に聞き耳立てていたであろう男子連中の殺気が強くなった気がするんだが?
暴力!ダメ!ゼッタイ!
心の中で訴えたが、それは周りの人間に届くことはなかったようだ。