13.こういう時何を話したらいいのか

2012年10月28日 19:04
さて、ようやく午前の授業が終了。まぁ、3バカはいろんな意味で置いておいて、授業は普通に進んだ。
今日は俺の気まぐれでいつも学園長室でひとりぼっち(?)のさくらさんに弁当を作った。
というわけで、行って参ります。
 
「あれ、光雅、お前どこ行くんだよ?」
 
「そうだよ、学食?それとも購買?」
 
渉と義之が俺の行動に疑問を持って何事か訊きに来る。
こいつらなら察してくれるかな、なんて思って手に持つ2つの弁当箱が入った袋を軽く掲げる。
 
「おまっ、まさか、女子に弁当を作ってもらう側じゃなくて、女子に弁当を作ってやるって、そういうことなのか!?ちくしょー!うらやましー!」
 
はて、あながち間違ってないのが恐ろしいな……。
 
「んで、2つって、片方誰の?」
 
「あぁ、さくらさんの」
 
「なんでまた?」
 
「なに!?がくえんちょだと!?ちくしょ、うらや……って、がくえんちょか……」
 
なぜか渉が安堵する。
 
「んー、ちょっとした気まぐれだよ」
 
「そっか、さくらさん、きっと喜ぶよ。早く行ってやれ」
 
「ああ」
 
軽く教室の中の連中に手を振って学園長室に向かう。
その際、杏や茜がよからぬ会話をしていたのは聞いていないことにしておこうか。
 
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――こんこんこん。
 
「俺です、入りますよ」
 
……。
返事がない、ただの屍のようだ。
訳の分からんボケは置いといて、中に入る。
相変わらずの和風の部屋。畳の匂いが心を癒し、中央のコタツが団欒の温かさを象徴しているようだ。
部屋にさくらさんはいない、が、シャワールームからシャワーの音とさくらさんの鼻歌が聞こえてくる。
機嫌はすこぶるいいらしい。
ちなみに、学園長室のシャワールームは1度に3人は軽く入る。
……どこにそんな予算があるのかはわかんないけどさ。
さて、出てくるまであったか~いお茶でも飲んでのんびりするかな。
 
――ずずず~。
 
「ああ、平和だ……」
 
だが、俺はコタツには入っていない。なぜなら……。
この学園長室、とにかく散らかっているのだ。
学園長として忙しすぎるさくらさんにとって、片付けとは究極の天敵なのである。
というわけで、湯呑を片手にお茶を啜りながら無意識に片付けをしているのだ。
っと、まぁ、一通り綺麗になったところでコタツに入る。
 
「ああ、平和だ……」
 
――ずずず~。
 
湯呑から口を離し、ほっと一息吐いたとき。
 
「うにゃ~、失敗失敗」
 
さくらさんが出てきた。
異様な光景だった。実に異様な光景だった。
いや、さくらさんが出てくることはそんなに異様ではないのだが。
さくらさんは、正真正銘の全裸だった。
 
「え……!?」
 
「にゃ……!?」
 
時が止まった。実際には一瞬だったかもしれないが、本当に時が止まったと思うくらい2人とも硬直してしまった。
……ってか、何で裸で出てくるんだよ!?
 
「わにゃにゃ……!」
 
「す、すんません!!」
 
やば……、上から下まで脳裏に焼きつくぐらいはっきりじっくり見てしまった。
そりゃもう、陶器のように白く滑らかな肌、大人でありながら少女のように慎ましくふっくらとしたプロポーション……。
……いかんいかん、何を考えているんだ、俺は。
 
「うにゃ……、えと……、こ、光雅くん、箪笥から、着替え取ってくれないかな……?」
 
扉の奥に隠れたさくらさんの声がする。
 
「あ……はい……」
 
ちくしょう、さっきから心臓がバクバク早鐘を打ってやがる。
 
緊張で震える手で着替えをてきとーに選ぶ。
 
「さくらさん、扉の前、置いときますよ」
 
「うん……、ちょっとあっち向いてて」
 
「……はい」
 
――がちゃ。さっ。ばたん。
 
「はぁ……」
 
うーむ、せっかく弁当を持ってきたんだが、果たして無事に食べられるだろうか……。
さて、ドキドキしながらじっとしていると、いつもの服を着たさくらさんが戻ってきた。
 
「あ、その、さくらさん、こんにちは……」
 
「う、うん……」
 
さくらさんが顔を真っ赤にして体をモジモジさせながら返事する。
あーもう、そーいうしおらしい態度取るからこっちまで意識しちゃうじゃねぇか!
何とかして会話しないと……。
 
「えっと、さくらさん、今日弁当作ったんで、良かったら、食べます?」
 
「あ、そうなんだ、あ、ありがと……。えっと、にゃはは……」
 
あ!会話止めやがった!少しは会話を続けようと努力してくださいよ!
右手にある弁当箱を見る。
会話がダメなら行動を起こして話題をつくるべし!
 
「これがさくらさんの分です。さ、食べましょ」
 
「えぇ、ああ、うん、そうだね……」
 
さくらさんがおそるおそる(?)弁当の蓋を開ける。
 
「にゃはは、やっぱり光雅くんの料理はオイシソウダナー……」
 
なんで最後棒読み!?
ってかこの空気作ってるのほとんどさくらさんじゃね?
とりあえず、2人でコタツに入って、弁当をつつくのだが……。
妙な空気のせいで味がしないんだが……。
 
……。
 
さて、何を話せば良いでしょう?
ってか、辛い!
窓の外を何気なく眺める。
真冬の空。てっぺんまで上った太陽。ひらりはらりと舞う桜の花びら。
 
――空がすげぇ蒼いぜ……。
 
……。
 
さて、どうしてこうなったでしょう?
状況を確認しよう。
大まかな様子は同じ。
部屋の中には事件後に顔を真っ赤にして挙動不審となっている学生と学園長。
だが、そのポジションがおかしい。
さくらさんは、ちょうど俺の隣にくっついて座っているのだ。
 
「なんでこんなところに座っていらっしゃるのでしょうか?」
 
どうしてこの人はこうも辛すぎる空気の中平然とこんなことが出来るのだろうか。
ミステリーだな……。今度杉並にでも相談してみようか。
 
「光雅くん、あったかいから」
 
いやいや、答えになってるけど、なってねぇよ!
てか、俺も移動しようとしましたよ。
でもね、俺の左手はしっかりホールドされてるわけで、身動きが取れないんです、はい。
2人とも昼食を終えて約5分。
この状況は不変です。
マジで何か話さないと、俺の心臓がおかしくなりそうだ。
でもこういうときに限ってホントに話題って出てこないもんだよな……。
 
「ええっと、さくらさん、仕事のほう、はかどってます?」
 
「うん……」
 
はい、この話題、終了~。
続きまして。
 
「クリパ、楽しみですね」
 
「(コクン)」
 
頷いただけ。
はい、この話題も終了~。
仕方ねぇな、こうなったらもう、この状況でのんびりするしかないよな。
 
「ふぅ~」
 
肩の力を抜く。すると、自然と緊張がほぐれた。
そうだよな、いくら身内の女性の裸を見てしまったからといって、変に意識する必要もないだろ。
意識するからけないんだ。
そうなんだっ!
気持ちを落ち着け、体を横たえる。
同時に、さくらさんの腕が外れた。
 
「うにゃ……。にゃ」
 
さくらさんも横になる。
 
「極楽だね」
 
さくらさんの横顔は、自然なものだった。
そして昼休みは終わりを告げる。
 
――キーンコーンカーンコーン。
 
予鈴がなる。
 
「んじゃ、そろそろ行きますね」
 
「うん、お昼も頑張ってね!」
 
「はい。いってきます」
 
そして、俺は学園長室を後にした。
その後、入れ違いに、1人の少女が学園長室に入る。
アッシュブロンドのウェーブがかった髪、ルビー色の瞳。
 
「おっじゃましまーす、さくら、今の誰?」