15.異国の姫様流応対術?

2012年10月28日 19:07
12月21日
 
さて、昨日の騒動から一夜明けて、クリパまであと2日の朝。
結局、そのことについては由夢や義之にはもちろん、さくらさんや音姉にも話さなかった。
できれば今回のことは秘密裏に対処したい。
タイムリミットは、25日まで。……多分。
それまでになんとか対策を立てねば。
誰一人として、傷付ける訳にはいかないんだ。
まぁそれはそれ、これはこれ、ってことで、今日も張り切って学園に行ってみよう!
 
さて、今日の朝食は義之が当番のはずだから、もう起きてるだろうな。
制服に着替えて階段を下りると、台所のほうから香ばしい香りが漂ってくる。
さくらさん起こさないと。
ってか自分で起きてくれねぇかな……。
以前自分で起きてくれないかと訊ねてみると、光雅くんが起こしてくれるから朝から気合が入るんだよ、なんてとびっきりの笑顔で言うもんだから、むげに断ることも出来ないわけで……。
そういや俺も義之も女の子にお願い事をされたら9割はしぶしぶ引き受けてる気がする……。
 
「さくらさーん、起きてますかー?」
 
こんこん、っとノックしながら聞く。
 
……。
 
起きてないな。
はい、ここで第2関門。
もしかしたら既に起きていて、中に入ったら突然ダイレクトアタック、なんてこともありうる。
そっと戸に耳を当てる。
聞こえるのはさくらさんの寝息(?)だけ。
よし、大丈夫。
戸を開ける。中には、当然さくらさんが寝ている。
 
「すー、すー」
 
あぁ、なんて幸せそうな寝顔なんだろう。
俺はこれからこの幸せな夢を叩き潰さなければならない……。
 
「さくらさん、起きてください」
 
こうやって。
肩を掴んで揺する。
 
「うーん、……むにゃ……」
 
……起きない。
ってか、このままここにいるとさくらさんのあまりの可愛さに俺がどうにかなっちまいそうだ。
さくらさんって結構“大人びてる”けど見た目はどう見ても可愛い少女だからなぁ……。
大人びてるんだぞ!大人びてる!
まぁ、そんな少女の寝室に忍び込むのはどうかと思うわけで。
そういうことで、早速特効薬を使わせていただきます。
 
「さくらさん、愛してます」
 
「うにゃにゃ!?今のホント!?」
 
はい、クエストクリア。これ言うとすぐに起きてくれるからな。
 
「これからのさくらさん次第ですよ。ほら、さっさと支度してくださいね」
 
「もー、光雅くんってばすぐに乙女心を弄ぶんだからなぁ~」
 
「俺は見かけによらずプレイボーイなんですよー」
 
「うにゃー……」
 
――っと。
 
芳乃邸の玄関から物音。
来たな、隣人姉妹。
 
「光くん、義くん、さくらさん、おはよー」
 
「……おはよーございます」
 
「ほら、由夢ちゃん、しゃきっとする」
 
「だって、疲れたよー……」
 
ほう、あの由夢が朝っぱらから疲れるようなことをしたのか、珍しい。
 
「……光雅兄さん、私を見てニヤニヤする理由の説明を要求します」
 
「結論を言えば、わあ!吃驚!ってところか?」
 
「……」
 
どうせ私はものぐさですよ、とふてる。脇で音姉が、あはは、と苦笑する。
 
「あ、義之が朝食作ってるから早く上がれよ」
 
そういうと2人とも軽く挨拶をしてとてとてと居間まで歩いていった。
俺も後を追う。
朝食を終えると、音姉と由夢、さくらさんは急ぎの用があるとかで先に登校してしまった。
というわけで、俺と義之は自宅でのんびり。
そういやさっき音姉と由夢が義之を見て、義之には関係ないだとか、後であるだとか、よくわかんないことを話してたっけ。
 
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~義之side~
 
今朝方、我ら芳乃家居候男子2人の義理の姉妹から、なんか意味深な会話を聞いて妙な胸騒ぎを覚えながら義兄の隣を歩いている俺。
 
「おい、まださっきの話気にしてんのか?」
 
「気にするも何も、あれだけ目の前で自分のことでよそよそしい会話されたら、いやでも気にするだろうが……」
 
「んまぁ、あんまり考え込みすぎて通りすがりの人とかにぶつかるんじゃねぇぞ?」
 
「そこまでドンくさくなった覚えはない」
 
「鈍感だけどな」
 
「お前もだろうが」
 
「不毛だ。止めよう」
 
「……そうだな」
 
口ではそういうが、やはり気になるものは気になる。
う~ん、ホントに何の話だろうか。
……皆目見当もつかないため、速攻で断念。
両腕を上に挙げて、大欠伸。
っと、このタイミングで、交差点で出てくる人に気付かずそのままぶつかってしまった。
 
「きゃっ!?」
 
……あれ、どっかで聞き覚えのある声……。
身を引こうと後ろに重心を預けたのが拙かったか、そのまま後ろに倒れ込む。
ぶつかった少女(たった今少女であると気付いたが)もこちらに倒れ込んでくるのに気付いて、それを受け止めようと右手を自分の胸の前に出す。
 
――もにゅ。
 
――ドン。
 
後頭部を軽くぶつけて視界がブラックアウトする。
 
「あーっつっつつつつ……」
 
……あれ、なんだ、この右手に感じられるやーらかい感触は……。
 
「あれ、これ、どっかで……」
 
横で光雅がなんか言ってるが、俺はそれどころではない。
意識を取り戻し、視力も取り戻す。
 
「うわ、やっべ……」
 
俺に覆いかぶさっていたのは、紛れもなく生徒会役員のエリカ・ムラサキであり、俺はこいつの胸を掴んでいる形となってしまっている。
 
「……」
 
当然、ご立腹でいらっしゃる。いや、分かるんだけど、不可抗力でございますよ?
 
「……で、貴方はいつまで私の胸を触ってらっしゃるおつもりなのかしら?」
 
「あ!ご、ごめん!」
 
こいつは拙い、と右手をすぐに離す。
 
「……!」
 
うわぁ、物凄い怒りの形相で睨んでくるんですけど。
由夢や音姉もここまでキレたことはないから、どう対応すべきか分からない。
ってか、いい匂いがしてさっきから頭がクラクラする。
 
「えっとだな、最初に言っておく。分かっていると思うけど、これは紛れもなく事故なんだ」
 
「……!!」
 
「お、オーケーオーケー。と、とりあえず、一旦落ち着いて話し合おうじゃないか」
 
「……!!!」
 
「いや、その、あれだ。キミが非常にご立腹だということも、感情がそこに到るまでの過程も十分と言っていいほど理解しております」
 
何とかなだめないと、これは殺されるか?
……なんで光雅は助け舟1つよこさず不思議そうな顔してるんだ?
 
「ただ、暴力では何も解決しない。ということで、平和的に解決しようとは思わないか?」
 
頼む、光雅、早く俺を助けてくれ。お前の大切な義弟の命が危険にさらされてるんだぞ!?
 
「とりあえず、その振り上げたまま、ふるふると怒りに打ち震えている右手を下ろしていただけると――」
 
「こんのぉおおおおお!スケベ男ぉおおおおおおおおおお!」
 
「ちょ!まっ!」
 
その右手が俺の頬に接近してくる。
……ああ、走馬灯が見えるよ、母さん。
って母さんって誰だよ。まあいいや。
若かりしあのころが懐かしい。
ああ、さらばだ、みんな……。
 
――バッチン!!
 
「ぐはっ!」
 
ビンタを食らった瞬間、今度は視界がホワイトアウトした。
 
「はぁ……はぁ……はぁ……。もう、さいってー!」
 
俺をずっと睨みながら、立ち上がり、肩で息をする。ってかすげー見下されてるんだけど。
 
「い、いや、だから――」
 
「うるさい!フン!」
 
ムラサキはそうやって吐き捨てると駆け足でこの場を離れた。
 
「……」
 
やってしまったな、これから顔を合わせてしまったらどうしようか、なんて考える。
 
「……なんで助けてくれなかった?」
 
隣の傍観者に非難の目を向けて質問する。
 
「いや、俺も似たような経験があったから、大丈夫だろうと思ったんだけど、まさかあそこまで怒るとはな。いやぁ、ははは」
 
「ははは、じゃねーよ、ったく……」
 
なんか目頭が熱くなるのを感じた。
渉なら啼いて喜ぶかもしれないが、あいにく俺はそこまでポジティブシンキングではない。
っていうか、光雅もムラサキの胸を触ったって事か……?