18.遅刻だって学園生活の醍醐味

2012年11月05日 19:55
12月22日
 
あーたーらしーいぃ、あーさがっきーたっ、きーぼーおぉのあーさーがっ。
よーろこーびにむねをひーらけっ、あーおぞーらあーおーげーっ。
 
……。
 
なんてやってる場合じゃない。
今私、弓月光雅には多大な試練が待ち受けております。
そのいちっ!
窓から見れば一面の銀世界っ!雪が積もってます!
そのにっ!
お弁当を作りたいっ!なぜなら財布に小銭がないっ!
そのさんっ!
現在、8時5分!遅刻はないだろうがのんびりしてたら危ないっ!
さて、まずは……。
 
……。
 
弁当を作ろうか。
というか、なんでみんな俺を起こさないんだよっ!?
 
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――というわけで速攻で弁当を作り、その余りもので朝食をとり、時間もまだ大丈夫そうなので少し早歩きで登校しています。
地面に雪が積もっているのを見て、子供のころに感じたあの情熱がよみがえる。
 
――丸めて投げたい。
 
俺は他人に迷惑を掛けない限り、欲求には素直だ。
っつーことで。
地面の雪を一握り分すくい、軽く固める。
雪玉になったところで、前方に人がいないのを確認し、投げる。但し弱く。
 
「うひゃっ!?」
 
しまった。角から出てきた誰かにぶつけてしまった。
 
「す、すみませんっ!」
 
あわてて走り寄る。
被害者の顔を見て安心してしまった。
そこにいたのは小恋とななかだった。
玉があたったのはななかである。
 
「なんだ、ななかか。ごめん、大丈夫か?」
 
「なんだ、っていうのはどういうことかな?」
 
「えーっと。ホントにスマン……」
 
「ななか、大丈夫ー?」
 
「あはは、別に大丈夫だよ♪でも、ちょっと痛かったし冷たかったなぁ~……」
 
なんて言いつつ顔が接近してくる。
ってか、近い、近い!
 
「な、なんだよ……」
 
「べっつにぃ~?……えいっ!」
 
「あ?」
 
「へ?」
 
手をぎゅっと握られる。ななかの手から温もりが伝わる。
 
「ん~、あったけ~」
 
「う~ん……」
 
「どうしたの?」
 
俺はななかが何をしたいのか分かるんだが、小恋の場合はそうもいかない。
突然俺の手を握っては不思議そうな顔をする、傍から見れば意味不明だろう。
 
「いや、なんでもないよ?光雅くんの手ってあったかそうだなーって」
 
そしてぱっと離される。
冷気が一気に俺の手の周辺を取り囲む。
手袋を持参するべきだった。
今日帰ったら防寒具一式をスタンバイしますかね。
 
「ところで光雅がこんな時間になんて、珍しいよねー」
 
「あっ、それ思った」
 
やっぱり聞かれた。
 
「んー、普通に寝坊した」
 
「音姫先輩とか、起こしてくれないの?」
 
「起こしに来たんだろうけど、わかんね」
 
いつもなら飛びついてでも起こしてくれるのに、どうして今日に限ってそれがなかった?
 
「よ、義之は?」
 
何故少し躊躇った。
 
「あいつは気まぐれだからなー。まぁいいやとか考えてんだろ」
 
「義之らしいね」
 
何故だろう。義之のことを話している小恋は少し輝いて見える。
思い出したんだが、茜もたまに、茜と喋ってるはずなんだけど、そんな気がしないというか、別人と喋ってるっていうか、そんな風に感じることがあるんだけど、気のせいか?
 
「え、えーっと、何かついてる?」
 
「は?」
 
突然何を言い出すんだろうか、この娘は。
 
「いや、ずーっと私の顔を見てるから……」
 
恥ずかしそうに俯きながら、言葉を発する。
 
「いや、ちーっと考え事」
 
「何考えてたの?」
 
「あさっての晩飯は何にしよかな、って」
 
「何であさって!?」
 
「いや、だってうち当番制だから」
 
「あ、そっか。でも別にそれじゃ明日でも良くないかな?」
 
「そうだな。別にそんなこと考えてないけど」
 
「光雅くん、意地悪だよねー、たまに」
 
それは今に始まったことじゃないだろう。例のソニック・ザ・ヘッジホッグ走りを中庭でしたのも軽く悪戯の一環だったわけだし。
というか、悪戯や意地悪っていうのは、緩みかけた人間関係をフレッシュなものにする、すばらしい方法なんだぜ?
 
「あっ」
 
「どうしたの?ななか」
 
通学途中でななかが急に足を止める。
 
「ここ曲がったら、ひょっとしたら近道になるんじゃない?」
 
「でもこっち、初めて通るよ?」
 
「大丈夫大丈夫!」
 
近道ねぇ。残念ながらここを曲がっても住宅地に入るだけ、しかもこの先の住宅地から学園に行くまでの道にでる道は2通りしかなく、どちらも学園への近道になるとは決していえないんだ。
 
「光雅くんはどう思う?」
 
「俺はやめたほうがいいかと」
 
「えーっと、さっき雪玉をぶつけられたの、痛かったなー」
 
嘘っぽい。棒読みである。それに顔が笑っている。
でも、面白そうだからいいか。
1日くらい遅刻したって平気さっ!
 
「そっか。んじゃ、行ってみるか」
 
「えっ?えっ?ホントに大丈夫?」
 
「大丈夫だって!ほら、小恋、行くよっ!」
 
ななかが小恋の手をとってずんずん進む。
俺もついていく。
どうやって音姉に弁解しよっかな?
しばらく行っても、学園に近づく気がしない。
とはいっても、ここから抜け出さない限り学園に到達できないんだけどね。
 
「ななかぁ~、ここどこ~?」
 
「あはは……、迷っちゃった、かな?」
 
「あはは、じゃないよ、もぉ~。これ絶対に遅刻だよ~」
 
「チャイムまであと3分だな。どこでもドアがない限り、もう間に合わん」
 
「持ってない?」
 
「何を?」
 
「「どこでもドア」」
 
こいつらはアホか。そんな、物理法則を無視するアイテムを俺が持ってるはずないだろうが。創ろうと思ったら創れるけど。
でも魔法は勘弁ね。あんまり使いたくない。
 
「持ってるわけない。その代わり、ここから出る道は知ってる」
 
「それって……」
 
「最初からこっちが近道じゃないって、知ってたのー!?」
 
「そうだけど?」
 
「「そんなぁ~……」」
 
「ほらほら、落ち込んでる暇はないぞっ!さっさと歩かないと、1時限目すっぽかしちまう」
 
それだけはさせない。俺は体育がある日は休まないんだよ!
だって、バスケ楽しいもん。
 
「光雅くんが止めてくれれば遅刻しなかったのにぃ~」
 
「ななかが俺を脅迫しなければ、遅刻しなかったのにぃ~」
 
ウザさをパワーアップして真似してみた。
 
「うっ……」
 
「ななかの負けだね……」
 
「そうみたいだね……」
 
「それじゃ、鞄よこせ。走るぞ」
 
2人から鞄を強奪すると、雪で足を滑らせながら、学園まで全力でダッシュした。
もちろん、遅刻は確定だった。