2.光雅と姉妹とお母さん

2012年10月28日 17:21
悔しかった。俺はあの人を助けられなかった。
自分の力の無さに絶望した。
俺たちの母さん、由姫(ゆき)さんが亡くなった。
それでも……それでも俺は、残された人たちを幸せにしてやらなくちゃならない。それが、由姫さんが俺に託した遺言であり、願いであったから。
 
由夢は悲しみに打ちひしがれていたが、立ち直った義之が、ずっと寄り添っていてくれたおかげで、少しずつ笑顔を取り戻していった。しかし、音姉(おとねえ)は、母の死をきっかけに、俺たち家族を避けるようになった。
 
ある日、音姉が家出をした。
いつもなら食事のときには一応帰ってくるのだが、今日は3時になっても帰ってこない。心配になった俺は、家を飛び出して音姉を探しに走り回っているのである。
 
「はぁっ……はっはっはぁッ……」
 
くっそ……。どこにいるんだよ。
もう日は暮れ始めている。もう5時といったところか。
 
「もしかしたら……あそこか?」
 
あそこにいなきゃ、もう当てはない。
彼女があそこにいることを願って、俺は脚を進めた。
桜公園の奥、海の見える高台へと。
 
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いた。1人静かにベンチに座っている。俺は音姉に話しかけてみる。
 
「音姉」
 
「……」
 
予想はしていたが、声をかけても返事はなかった。
 
「音姉。聞こえてる?」
 
「……聞こえてるよ」
 
やはり俺のことを避けている。まぁあれだけのことがあったからな。
 
「なぁ、由夢と義之と純一さんが心配してるぜ?音姉のこと……。誰とも話そうとしないし、食事もまともにしない。そんなんじゃ、音姉がぶっ倒れるぞ?」
 
「……いいの、私は病気になりたいんだから」
 
「いいわけないだろ。みんな悲しむぞ?音姉も由姫さんみたいになるのは、みんな辛いからさ」
 
「いいの!」
 
音姉が声を荒げる。
あまりの剣幕に、その悲痛な表情に、次の言葉が見つからなかった。
 
「音姉……」
 
「……このままずっとごはん食べないで、病気になって……そしたら……」
 
唇を噛み締めて、ため込んでいる涙が溢れないように堪えて、音姉は、俯いた。
 
「そしたらお母さんと同じ所にいけるんだもん……!」
 
悲痛な声を上げて泣き出す音姉。その表情に希望は無かった。
 
「……いいの、もう……。だって……みんなには分からないもん。お母さんがいないと……。私一人だけなんて……嫌だよ……っ」
 
音姉は何かを訴えるような目でこちらを見ている。
俺は、舞い散る桜の花びらを1枚掴んだ。
そして形が崩れないようにそれを握り締め、魔法を掛ける。
 
「これ、やるよ。」
 
拳を開くと、そこには桜色の光を放つ、桜の花びらの形のペンダントがあった。
うん、上出来。
 
「え、え、これ、どうやって?」
 
突然で、不可思議な出来事。
本来この世界で受け入れられない力、魔法。
それを目の前にして、音姉は目をまんまるに広げた。
 
「創ったんだ。魔法っていえば信じられるか?」
 
音姉がそっとそれを受け取る。
 
「魔法……」
 
俺は、音姉に自分に何があったのかを話した。
前世のこと、1度死んだこと、神のような人の話、転生、そして力のこと。
 
「そん……な……そう……だった、んだ。」
 
さすがに驚きを隠せない様子。まぁな。全部信じろってほうが無理だろ。
 
「……キミも、魔法が使えたんだね」
 
――え?キミ“も”?
 
「じゃあ、おかえし」
 
音姉が手を握り、そして開く。そこには大福がちょこんと乗っていた。
これも魔法なのか。
俺が使うような派手なものではないけど、それは、笑顔が象徴されているように思えた。
 
「ふふ。和菓子、嫌い?」
 
「……ふっ、そんなことない」
 
よかった。やっと音姉が笑ってくれた。
俺が大福を味わっていたら。
 
「私は、正義の魔法使いなの」
 
「正義の魔法使い?」
 
最後の一口を放り込む。
 
「ふぅ。おいしかった」
 
おっと。ついうっかり独り言いっちゃったぜ。
 
「ふふ」
 
音姉はそれを聞いて微笑む。
 
「だからね、魔法の力はみんなに秘密にしてるの」
 
音姉は自慢げに俺にそう告げる。
他人にはない何かを持っていて、それでいてそれを共有できる者がいる、それは、嬉しいことなのかもしれない。
 
「だって、正義の味方って、正体を隠すものでしょ?」
 
やっぱり、まだまだ子供なんだな。
 
「そっか」
 
「だから、魔法が使えることは2人だけの秘密。いい?」
 
「ああ」
 
そういったことに魅力を感じてしまう俺も、まだまだ子供なのかもな。
 
「ねぇこー君、秘密をきょーゆーするってことは、いっしんどーたいになるってことなんだよ」
 
こー君、か。うん、悪くない。
 
「一心同体か……」
 
「こー君は、わたしと、いっしんどーたいでもいい?」
 
不安そうな表情で訊ねてくる。
 
「ああ、いいよ」
 
「じゃあ、約束の証に、ゆびきり」
 
「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーましす」」
 
小指を絡めて、リズムに合わせて上下に振って。
音姉の声音は、弾んでいた。
 
「「ゆーびきーった」」
 
音姉は、今までに見たことの無い綺麗な笑顔で微笑んだ。
それからしばらく、音姉と2人で他愛無い話をしていたが、疲れていたのか、音姉は途中で寝てしまっていた。
仕方が無いので、俺が負ぶって帰った。
その間、音姉はずっと、幸せそうな寝顔をしていた。
 
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「……う……う~ん」
 
あっと、音姉、目が覚めたか。
 
「もう家に着くからな」
 
「ふぇ!?え?あれ?」
 
あっれ?音姉顔が真っ赤になっちゃった。風邪か?
 
「ちょっと降りて」
 
俺は音姉をおろして熱を測るため、おでことおでこをごっつんこ。
 
「ふぁ!?……あわわわわわわ……」
 
ますます真っ赤になる。でも熱はないっぽいし……。
 
「うーん、まぁいいや。帰るか」
 
手を差し伸べる。音姉は照れながらその手をとる。
やっぱ顔赤いな。どしたんだろ?
 
「(こー君ってかっこいいな。なんか、白馬の王子様みたい……)」
 
家に帰って、音姉は家族みんなに謝った。もちろんみんな許してくれていたよ。あぁよかったよかった。これでみんな笑顔でやっていける。
 
……由姫さん、俺、がんばります。