2.変わりゆく世界

2012年12月26日 17:57

スライ「おい。」

龍輝「何?」

生徒会室でぶらぶらしていると、スライが入ってきた。

挨拶もなしに龍輝に歩み寄り、その胸倉を掴む。

どうやらただ事ではないことだけは分かる。

スライが龍輝を睨む。

逆に、龍輝もスライを睨む。

そして、スライが口を開いた。

スライ「お前、彼女出来たらしいな……。」

龍輝「……は?」

スライ「は、じゃねーよ。お前、誰だよ、その彼女ってのは!?」

龍輝「何で知ってんだよ……。」

スライ「風見鶏の校内新聞読んだよ。記事の写真で、後ろの方でお前が女の子とイチャイチャしてるの

    があったんだよ!ああ、くそ、うらやましー!」

それがどれだけ悔しいものなのか、当然龍輝には分かりかねる。

ただ、龍輝はこれで人生上スライに勝ち越せたのは分かった。

だから、龍輝はスライに対して軽くニヒルな笑みを浮かべてやった。

スライ「だーーっ!!お前、何だよっ!余裕だなオイ!俺なんかクリスマスは紛争地域で暴徒鎮圧の依

    頼受けてて、ロマンチックなこと何一つやってないんだぞっ!だからあの女の子が誰か教えて

    ください……。」

最後だけお願い口調になってしまっている。なんとも情けない。

龍輝「サラだよ。サラ・クリサリス。」

あまりにも哀れだったので、とりあえず願いだけは叶えておいた。

そろそろサラも帰省の時間なので、龍輝も見送りに行きたいのである。

スライ「サラ・クリサリスって、あの名門のクリサリス家の!?お前、すげぇな!」

龍輝「別にそうでもねぇよ。たとえサラが名門じゃなかったとしても、サラがサラなら俺はサラのこと

   が好きだったんじゃないかと思う。」

スライ「うわぁ……。」

スライ撃沈。

龍輝の歯が浮くような科白に敗北を感じたようだ。

スライ「まぁ……。」

スライが立ち上がる。真剣な表情で、龍輝に忠告する。

スライ「彼女のことが好きなら、最後まで責任もって付き合えよ。あの娘の悲しむ顔は、お前まで辛く

    させるんだ。そのこと、忘れんなよ。」

龍輝「ああ。」

スライ「それじゃ、俺今日も依頼があるから行ってくるわ。お前もサラちゃんのことしっかり支えてや

    れよ!」

それだけ言い残して、スライは自分のすべきことをしに地上に上がっていったようだ。

龍輝は、急いで校舎を出、寮の入り口まで走った。

桜並木を抜けて、寮の入り口が見えるところに、サラが待っていた。

サラ「先輩。」

龍輝「サラ、もう行くのか。」

サラが悲しむと、龍輝が悲しむ、逆に、龍輝が悲しむと、サラも悲しむのではないか、そう思って、龍

輝は作り笑いを浮かべてサラに接する。

サラ「はい。」

龍輝「いつくらいに帰ってこれそうか?」

サラ「そうですね。多分、遅くても年明けには帰ってこれます。」

龍輝「そうか。」

そして、ひとついいことを思いついた。

恋人同士として、まだやっていないこと。

そして、その行為をした時、サラの慌てっぷりを想像するだけで思わず笑みが零れそうになる。

龍輝「サラ。」

一度サラの名を呼び、注意をひきつける。

そして、サラが驚かないように――サラをそっと抱きしめ、一瞬唇を重ねた。

すぐに離す。

サラはしばらく放心していたようだが、自分が何をされたのか気付き、顔を真っ赤にして慌て始めた。

サラ「あわわわわわわわ!えっと、その、あのっ!」

恥ずかしさのあまり、誰か見てないかキョロキョロして周囲を確認し、そしてもう一度龍輝を見ては顔

を真っ赤にする。

そして、こっちを見た一瞬を狙って、今度は両肩を掴み、もう一度唇を重ねる。

サラ「――――――――ッ!?」

サラが声にならない悲鳴を上げる。

まさか2度もキスをするとは思ってもみなかったのだろう。

龍輝「どうだった?初めてのキ、――キスは?」

自分がした行動に自分で照れている龍輝。

彼もまだまだ初心であった。

サラ「えっと、その、よく分からなかったですけど――」

そこで言葉を切り、俯いてボソリと。

サラ「う、嬉しかったです……。」

その言葉を聞いてまた龍輝は。

龍輝「そ、そっか。それなら俺も、嬉しい。」

動揺した。

そして、しばらく沈黙があった後、サラが挨拶をする。

サラ「それでは、そろそろ行ってきます。」

龍輝「ああ。ゆっくりしてこい。」

すると、サラは龍輝の胸に飛び込んだ。

龍輝「ちょ、おい……。」

それでも龍輝はまんざらでもないようで、苦笑の表情を浮かべていた。

求められたなら、その分だけ与える。

龍輝は、もう一度その華奢な体を抱きしめた。

そしてどちらからともなく、2人は離れる。

龍輝「待ってるからな。」

それだけいうと、サラは一礼して、エントランスに向かっていった。

このまま寮に戻ろうと踵を返すと、そこには予科生の少年が2人。

耕介「あれ、龍輝さんじゃん。」

清隆「本当だ。」

俺を見つけると、駆け足で寄ってきた。

龍輝「おっす。」

耕介・清隆「「こんにちは。」」

挨拶を交わし、龍輝は自分の浮わつきモードを引っ込めた。

清隆「今の、サラですよね?」

龍輝「ああ。実家に帰るんだとさ。」

耕介「ふーん、名門のクリサリスの実家ねぇ。きっと家族もお堅い学者さんみたいな人たちばっかなん

   だぜ。」

清隆「お前とは大違いで何よりだ。」

耕介「……清隆、お前最近、俺の扱いが四季に似てきたぞ……?」

清隆「きっと正しい扱い方なんだと思う。」

耕介「ひどっ!?」

男2人が楽しそうに会話している。

本来なら、自分もこんな風に友達と仲良く学園生活を送れるような世界があったのかもしれない、でも

、今は今で、とても幸せな時間を過ごせていることに感謝し、同時に、そんな時間は、今までになくと

も、これから作っていけばいいのだと思っていた。

姫乃「いたいた、兄さーん!」

着物姿の姫乃が歩いてくる。一緒に四季もいるようだ。

姫乃のその姿は、制服のときとはまた違って、一段と優雅に、そして美しく見えた。

姫乃「あっ、龍輝先輩、こんにちは。」

四季「こんにちは。」

龍輝「こんにちは。どうした、みんなこんなところに勢揃いして?」

見たところ、みんなそれなりにおめかしをしているようだ。

どこかに買い物にでも行くのだろう。

清隆「ああ、これからみんなでリゾート島まで。それと、もうすぐさくらが来るはずです。」

龍輝「さくらも?」

さくら「やっほぉーーーーーーー!」

声のする方向を向くなり、小さな体躯が龍輝の体に突撃した。

見下ろした先に小さく映る、金色の頭。

どう見てもさくらだった。

龍輝「お前も行くのか?」

さくら「うんっ!」

葵と並んでフレッシュ弾ける笑顔。

相変わらずの元気さに思わず苦笑する。

さくら「ところで、最近サラがなんだか嬉しそうなんだけど、何があったんだろうねぇ~?」

彼女は知っている、というか、見抜いている。

その冷やかすような目は、確実に龍輝を射抜いていた。

龍輝「何がって、さぁ、何があったんだろうな……。」

とりあえず誤魔化す。まだみんなに知らせるようなことでもない。

姫乃「え?サラに何かあったんですか?」

さくら「いや、特に何もないよっ!」

そして何もなかったかのような自然な笑顔を姫乃に向ける。

その笑顔は本当に何もないように見せることができた。

感じた。自分の中で、世界が変わっていくのが。

誰からとも距離を置いて、1人で生きてきた、冷たく、殺風景で、単調な世界から、いろいろな色彩で

彩られた、本当はありふれたものでも、一つひとつがとても愛おしくて、暖かくて、自分には勿体無く

て、だからこそ大切にしようと思える世界へと。

変わらないと思っていた。

変えてくれないと思っていた。

でも。

それは、たった1つの小さな出会いで変わっていった。

その出会いは、龍輝のささやかな希望だった。

それと同時に、龍輝は、サラの大きな憧れで。

2つの想いが重なり合って、1つの物語が始まった。

2つの想いが、2つの色が、他の想い、色を呼び、そこにの物語という名の1つの絵を作り上げていく。

それには、設計図など存在せず、完成もしない。

でも、だからこそ、未来がある。

きっとこれからも続いていくであろう、幸せに包まれた未来。

青年と少女が肩を寄せ合い、そして、その周辺をリッカや清隆たちが取り囲み、2人を祝福しながら、

みんなで歩いてゆく未来。

悲しみなど、ものともしない。

いつも、誰かが支えていてくれるから。

――だから俺は。

これから少しずつでもいい。

ゆっくりと、ゆっくりと。

与えてもらったものを。

みんなに返していこうと、心に決めた。