20.明日からクリパ
2012年11月22日 18:08
放課後に音姉に会った時、十中八九あるだろうなと思っていた遅刻理由審査会が生徒会会長及び副会長加え下っ端によって開催された。
『いやぁ~、小恋とななかに付き添ってたら遅れちまったテヘペロ』なんて言ったらまゆき先輩に殴られそうになった。
とりあえず朝起こしてくれなかったことを議会に掛けると音姉はこう言った。
「え、えっとね、今日も光くんを起こそうと思って、いつも通りにお布団剥いだりベッドにのっかかってゆすってみたりしたんだけど、いつもみたいに起きなかったから……。そしたらね、光くんが、音姉、音姉、ってお姉ちゃんのことを呼ぶんだもん!それで、幸せそうな夢を見てるみたいだったから、起こさなくてもいいかなって」
「……」
「そっ、それに、今日は生徒会の仕事が朝早かったんだしっ!」
「……」
「光くんもきっと疲れてるから、休ませたほうがいいかなって思って……」
「「はぁ~……」」
エリカにまゆき先輩、音姉に対する盛大な溜息、ありがとうございます。
音姉の俺に対するブラコンっぷりは今に始まったことではない。
エリカも最初こそ動揺しまくったものの、既に慣れてしまったらしい。
そして音姉が余計な気遣い(とか言ったら彼女泣いちゃうだろうけど)をしなければ、今日俺は遅刻せずに済んだかもしれないっ!
そんなことはおいといて、明日からはついにクリパである。
さくらさんは先程『仕事終了!』って笑顔で生徒会室まで報告しに来てくださった。
んで、今椅子に座ってお茶を飲みながら仕事の邪魔をしない程度に役員と会話してる。
生徒一人ひとりの顔をしっかりと覚えているようで、生徒には必ず下の名前で呼びかけている。
クリパの準備で忙しい役員は、すぐに疲労が溜まるものだ。
さくらさんはそこを考慮しているのか、みんなを元気付けるように、なおかつ負担を掛けないように喋っている。
これには俺も音姉も結構助かっているのだ。
「今回も杉並くんは何かしてくるんだろうねー」
「アイツが何か大きな行動を起こすとしたら、24日でしょうね。なんせ、一番の山場ですから」
「にゃはは。あの子がいると毎日飽きないよねー」
「呑気なこと言ってる場合じゃないですよ。俺は、確実にアイツの野望を阻止しますよ、なんて」
「頑張ってね!学園の平和と安全は、キミたち生徒会に懸かっているんだからね!」
「任しといてください!」
書類仕事を終わらせて、一度会議を開く。
3日間の運営について。見回りの持ち場と交代時間について。危険物の処理について。そして非公式新聞部対策について。
色々話し合いを終わらせると、次は本番直前最後の見回りである。
二人一組ということで、俺は音姉と回ることになった。
ぶっちゃけ、生徒会長権限である。
ま、別に誰でもいいんだけどね。
見回りを終了させて、最後に生徒会室にもう一度集まって、もう一確認、まゆき先輩の気合入れでお開きとなった。
明日は頑張らないと、大変だぞ……。
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~由夢side~
クリパは、絶対に義之兄さんと回るんだ。
義之兄さんは何故か他の女の人によく囲まれている。月島先輩、花咲先輩、雪村先輩。
最近になって、学園のアイドルとして有名な、白河ななか先輩とまで知り合ったらしい。
もしかしたら、もうその中の誰かと一緒に回る約束をしているかもしれない。
でもでも、義之兄さんってば甲斐性なしだから、誰からも誘われてなければいつもの3人で回るようなことになっている可能性もありうる。
だから、可能性がある限り、諦めない。
おそるおそる、芳乃家の玄関のチャイムを鳴らす。
しばらくすると、戸が開いて中からお目当ての顔が出てきた。
「ああ、由夢か。まだ飯はできてないけど、寒いから中入れよ」
「え、うん」
もうさっさと聞いてしまおう。
「義之兄さん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「ん?」
「えっと、あ、明日のクリ――」
――シュワァアアアアアアアアアア!!!
台所から聞こえる謎の音。
「やっべ、火つけっぱなしだった!」
だだだっ、と、駆け足で台所に戻ってしまった。
「あっ、ちょっと、義之兄さん!」
私も慌てて中に入る。
台所に向かって、フライパン相手に奮闘している義之兄さんに話しかける。
「えっと、だから、話があって……」
「あぁあ、煙吹いちゃってるよ……。これもう使えないな。仕方ない、こいつが冷めるのを待つしかないな……。」
――ぴぴぴぴっ!ぴぴぴぴっ!
続きましては、洗濯機が動作を終了した音。
「あ~、はいはい、いまいきまーす!」
「あのっ、だから――」
そのまま義之兄さんはお風呂場に走り去ってしまった。
「はぁ……」
こんなことで大丈夫なのだろうか。
しばらくそこでぼーっとしていると、義之兄さんが洗濯物を片付けて帰ってきた。
「さぁ~て、続き続き♪」
「えっと、義之兄さ――」
「あーっ!しまった!バター買ってくるの忘れた!話は後で聞いてやるから、ちょっとの間留守番頼んだ!ちょっと買い物行ってくる!」
――ぴきり。
「もう、いいですっ!家事でも何でも、お好きなだけしててくださいっ!」
「えっ、あ、ちょ、由夢!」
私はもうどうでもよくなって、自分の家に引きこもりました。
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~光雅side~
「何やってんだお前?」
「いやだって……」
夕飯の時間になっても由夢が芳乃家に顔を出さないので、何事かと思って義之に心当たりを訊ねたところ、『家事が忙しかったから由夢を後回しにしてたら怒って出てった』と。
このタイミングで話といったらクリパの誘いしかないのが分かんないかね、こいつは?
「由夢ちゃんもそういう年頃だからねぇ~」
さくらさんもしみじみと呟く。
「義くん、お兄さんなんだから、もっと由夢ちゃんに優しくしないとだめだよ?」
「何かよく分かんないけど、すんません……」
「音姉に謝っても意味ねぇだろーが。明日ちゃんと由夢と話つけろよ」
「ついでにクリパも一緒に回るとか?」
「それ、いいんじゃないですか?」
「おいおい、何でそういう話になってんだよ?由夢なら天枷と一緒に回るんじゃないか?」
俺たちは揃って、だめだこいつ、というリアクションをとった。
「それにしても、ついに明日だね~♪」
「さくらさん、毎年お仕事でまともに参加できなかったんですよね?」
「うん……。でも今年は光雅くんが手伝ってくれたおかげで、しっかり楽しめるよ!光雅くん、ありがとー!!」
さくらさん、そう言って俺に抱きつくのはマジで勘弁してください。
飯が食い辛いです。
「ゴホン、光くん、明日から生徒会は忙しいんだから、気合入れて行くんだよ!」
なぜか音姉が怖い。
なぜか怖い。
「それと義之」
「ん?」
「クラスの出し物、サボるなよ?」
「いや、まぁ、真面目にするよ……」
明日からクリパ、俺も生徒会の特別ゲストとして、あちこち動きまわらなければならない。
きっと忙しくなるんだろう。
それでも、みんなが楽しめるクリパにしたい、と強く思った。