22.クリスマスパーティー 音姫編(前編)

2012年11月29日 16:41
12月24日
 
昨日、美夏とクリパを回った。
それはとても楽しかった。
どれくらい楽しかったかというと、もう一度夢に出てきたくらいだ。
夢の中の美夏は、現実とは違って。
 
――笑っていた。
 
俺の隣で、楽しそうに笑って、はしゃいでいた。
いつか、現実の美夏も、夢の中での彼女のように笑って過ごせる日が来るのだろうか。
いや、俺たちがそうさせてやる。
あいつはきっと、最後まで煙たがるだろうな。
余計なお世話だ、と。
 
さて、今日はついに決戦の日である。
今日は生徒会の仕事で1日が潰れてしまうだろう。
少し早いが、そろそろ起きるとするか。
このクソ寒い中、速攻で制服に着替えて、適当にハムエッグを5つ作って、その内3つはラップをして保存。後は音姉が来るのを待つだけ。
 
すると、待ったと語るのに必要な時間が掛かる間もなく音姉はこっちに来た。
 
「光くん、おはよー」
 
玄関をくぐって、音姉が挨拶をする。
 
「音姉、おはよ。朝飯適当に作ってあるから、食べなよ」
 
「本当?ありがとー!」
 
音姉は、勝手知ったるなんとやら、すぐにコタツに向かっていった。
白米をよそって居間に戻ると、音姉はコタツでくつろいでいた。
 
「あいよ」
 
「あ、ごめんね」
 
「気にすんなよ。今日は本腰入れて杉並捜索をしなきゃいけないんだから、朝食はしっかり食べないともたねぇぞ」
 
「今日が一番盛り上がるからね」
 
そう、今日は一番盛り上がるのだ。その盛り上がりに便乗して、杉並もあの手この手を使って暴れる。
じっとしていてもらえると大助かりなのだが。
残念ながら杉並が大人しくしているのなら、この3年間麻耶も苦労していない。
もちろん、音姉やまゆき先輩も。
それに、音姉が生徒会長になる前は、杉並のお祭り騒ぎを助長させるような、杉並と並ぶお祭り好きな人が生徒会長を担っていたため、音姉もまゆき先輩もてんやわんやしていたようだ。
 
そうそう、由夢は昨日、義之と顔を合わすようなことはしなかったが、義之の居ないところで妙に嬉しそうにしていた。
仲直りしたのだろうか?
 
「ごちそうさまでした。美味しかったー♪」
 
「お粗末さま。それじゃ、準備できたら行こうぜ」
 
「うん!」
 
そして音姉がスタンバイをしている間、俺は音姉とまゆき先輩と俺の3人で作った、杉並の逃走経路シミュレーションの資料に目を通していた。
もう何度も読み込んでいるが、これを体に染みこませていなければいけない。
ただ、もしかしたら杉並の方も既にこちらの情報を掴んでいる可能性は高いが。
そうなると、かなり正確な状況判断が求められるぞ。
音姉はそういうのに無駄に鋭いが、まゆき先輩は見つけた杉並を追いかけることに特化しているだけで、頭で考えるのはどちらかというと苦手な人だ。
それでも杉並に関しては、他の生徒会役員とは桁違いに頭の回転が速いけど。
だとしたら、やはり音姉を司令塔として、俺とまゆき先輩が動き回る、というスタイルになるだろうか。
新戦力であるエリカも使いどころは多い。
いかに彼女を動かすかが勝利の鍵だ。
 
「それじゃ、行こっか」
 
「ああ」
 
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「おはよう、仲良し姉弟!」
 
俺たちの背後から走り寄って肩をポンと叩いてきたのは他の誰でもなくまゆき先輩だった。
 
「出会い頭にいきなりからかうのは止めてください」
 
「あれあれ、先輩に挨拶なしって、マジ?」
 
「……おはよーございます」
 
「おはよう、まゆき」
 
「音姫もおはよ」
 
生徒会室に入ると、早速まゆき先輩がスタンバイをしていた。
やる気満々というか、バーサス杉並に盛り上がっていた。
 
「おはようございます、先輩方」
 
「ムラサキさん、おはよう」
 
エリカだけでなく、既に生徒会役員のほとんどが集結していた。
しばらくすると全員揃った。
そして、本当に、本当に最後の打ち合わせがスタートされた。
俺は先程考えていたプランを提案すると、案外納得されて即採用となった。
もちろん、まゆき先輩が音姉と比べて考えるのが苦手であるということは伏せておいた。
そんなことしたらいじめられる。
但し、今回の作戦は基本ツーマンセルで動く形となっているので、司令塔である音姉も動き回る、という条件で成立する。
相互連絡の取り方は基本的に通話。
メールは時間がかかって効率が悪いからだ。
ツーマンセルで動く形、という風に説明したが、まゆき先輩とエリカは特別に単独行動となっている。
理由は至極簡単で彼女たちは1人でいるほうが本来の実力が発揮できる。
逆に、誰かと一緒に動いていたのではそいつが足手まといになりかねない。
さて、フォームは完璧だ。
杉並の奴、どこまでこちらの情報を掴んでいる?
打ち合わせが終わるとすぐ、全員自分の持ち場に着いた。
 
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「なぁ、音姉」
 
作戦開始後、30分程うろうろしていたのだが、まだ何か起こる気配もない。
 
「ん?何か見つけた?」
 
「いや、その逆」
 
「え?」
 
まぁ、真面目な音姉は今俺が考えていることに気付かないだろう。
 
「いや、よく考えてみれば、今までの傾向から考えると、杉並が何かをやらかすときは決まってお祭りの終盤なんだ」
 
「そういえば、そうだったね」
 
そう、杉並の悪戯は、行事中盤で竜頭蛇尾状態になってしまったのを、もう一度終盤で刺激しているようなものだ。
また、その行為そのものが杉並の美学とも言えるような気がする。
 
「つまり、こんな朝っぱらから肩肘張って頑張る必要はないと思うんだ。せっかくだから、余裕のあるときに余裕かましておこうぜ」
 
「えぇ、でも……」
 
やっぱり真面目な音姉は渋った。
 
「問題です。今日は何の日?」
 
「えっ、クリスマスパーティー」
 
「そ。クリパは生徒が参加者全員が楽しむためにある行事だ。俺たちも十分楽しんでおかないと、クリパを楽しんだと言える資格はないぜ?」
 
「うーん……。そうだね!」
 
音姉は少し迷った結果、俺の提案に賛同してくれた。
 
「でも、なるべく他の役員連中に遊んでるとばれないようにしないとな」
 
「もう、光くんったら本当に悪戯好きなんだから」
 
否定はしない。
それでも、俺はみんなに楽しんでもらうために色々と奔走したのだ。
無論、音姉もその1人である。
俺の隣にいる限り、絶対に退屈なんてさせてやるものか。
 
「とりあえず、屋台系なら問題ないだろ。色々買い食いしようぜ」
 
「うん!」
 
そうと決まれば即行動。
校舎の外、香ばしい香りが漂う中、俺と音姉はゆっくり歩く。
 
「あっ、光くん、綿菓子食べたいな」
 
「そう?んじゃ、買ってやるよ。ちょっとここら辺で待ってて」
 
「いや」
 
「は?」
 
「一緒に行く」
 
音姉が頬を膨らませて俺の腕にしがみついてきた。
これではどっちが年上なのか分からんだろ。
 
「それじゃ行こうか」
 
歩き始める――のだが、音姉は腕にしがみついたままだ。
こういう、腕にしがみついててくれるサルの風船を小さいころ義之が純一さんに買ってもらってたっけ。
 
「あの?」
 
「ん?」
 
出ました、いつものアレ。
 
「今は公の仕事ですが?」
 
「それが、どうかしたの?」
 
もういいや。これはもうどうにもならん。
渋々そのまま音姉を腕にぶら下げて綿菓子の列に並ぶ。
あれ、なんだろ、今にも殺されそうな雰囲気が……。
 
俺たちの番が来た。
 
「いらっしゃいませ」
 
店員の声はやたらとドスがきいていた。
なんかすっげー目つきで睨まれてるんですけど。
主に原因はこの腕のアクセサリーだろう。
というか、それ以外に俺何もしてないし。
 
「綿菓子2つ」
 
「……あいよ」
 
流れるような手つきで綿菓子を割り箸に巻きつけて、大きくしていく。
だけど、その視線は何故か俺を睨み続ける。
いや、これはもうアクセサリーなんだから仕方ないだろ。
完成した2つの綿菓子と引き換えに、代金を払うと、片方をアクセサリーに渡す。
アクセサリーは片手を開けてそれを受け取るが、もう片方はいまだ俺の腕に巻きついている。
そこを離れようとすると。
 
「……まいどあり」
 
まだ睨まれていた。
試しにどこまで睨んでくるか、横目で見ながら確認すると、なんとあいつ、他の客を捌きながらこっちを睨んでいた。
 
「ん~、美味しい♪」
 
「そだなー」
 
俺とアクセサリーは綿菓子を食べながら校庭を歩く。
 
「なぁ、アクセサリー」
 
「えっ?」
 
あっ、間違えた。
 
「いや、なんでもない……」
 
「アクセサリーがどうしたの?」
 
「いや、だからなんでもない……」
 
俺が慌てて視線を逸らすと、音姉は何かに勘付いて頬を膨らませた。
いつもは『怒ってるんだよ』の時に使う表情だ。
 
「んー、光くん、何かよくないこと考えてたでしょ?」
 
そりゃまぁ、気付くわな。
 
「気にしたら負けだ」
 
「考えてたんだ」
 
「しまった」
 
「考えてたんだー」
 
まるで、怒ってるんだよ、とでも言いたそうにまだ頬を膨らませている。
……やっぱり分かりやすいなぁ。
 
「たこ焼き食おうぜ」
 
「食べ物なんかで釣られないもん」
 
今回はちっとばかし手強いか?
 
「それじゃ、俺が今度俺にしか作れないおいしいたこ焼きをご馳走しよう」
 
「え……っと、別に欲しいって訳じゃないけど、仕方がないから、試してあげる」
 
おっと、音姉がツンデレとか、なかなか珍しいものだ。
とりあえず、これでなんとか釣ることが出来そうだ。
 
「それじゃ、行こっか」
 
「むー」
 
だがしかし、俺は別にたこ焼きを作れるわけではない!
あとはこの口約束が自然消滅するのを待つだけだ。
他の事で埋め合わせはするけどね?
それから、いくつかの屋台を回り、食べ歩きを繰り返し、他愛ないことを話しながら音姉の機嫌をとり、無事に窮地を脱することが出来た。
そんな時。
 
「あ、光雅に音姉」
 
「あ」
 
なんと、これは吃驚。
昨日まで喧嘩して口も聞いていなかったこの2人が、なんと仲良さそうにクリパを回っていたのだ。
 
「ふーん、どっちが誘った?」
 
「えっと、由夢が」
 
「義之兄さんです」
 
返答で分かった。
義之から誘ったな?
 
「仲直りできたんだー!よかったねっ!」
 
隣の音姉はなんだか嬉しそうである。
 
「義之、どうやって懐柔した?」
 
「なんもやってねぇって」
 
おかしい。
……いや、別に由夢と義之が仲直りしていることは特に問題ではないのだが。
 
「お前、今シフト入ってなかったか?」
 
「何で覚えてやがる……!」
 
「そりゃお前がサボってたら1発で分かるように」
 
「この鬼め……!」
 
うーん、まぁでもなんだかんだで今が楽しそうだから見逃してやってもいいか。
由夢を懐柔するという功績もあるし。
後で杏や茜にこっぴどく叱られれば十分だろ。
 
「まぁ、時間いっぱい楽しんで来いよー」
 
「え?」
 
「今回は許してやろう。由夢をしっかりエスコートするんだぞ?」
 
「ち、ちょっと、光雅兄さん!え、エスコートって別にデートとかじゃないですからっ!」
 
「あれ、俺別にデートなんて一言も言ってないんだけど?」
 
「~~~~~~っ!!」
 
由夢は自分の失態に気付いて、顔を真っ赤にしてプルプルしている。
 
「それじゃ、義之、杉並が妙な行動しているのを見かけたら連絡してくれ」
 
「お、おう……」
 
そして、俺たちは再び仕事に戻った。