3.なんだか訳アリのゆーれー少女

2013年11月05日 23:13
大晦日。
頭がガンガンする。
なんか昨日のことが全く思い出せない。
アイシアを招いて、鍋食って、……そっから何したんだっけ?
ベッドに入って寝た記憶すらないんだもん。
由夢と音姉も分からないらしい。
何、魔法か?魔法なのか?誰か俺たちの記憶を奪っていったのか?
そうなると怖いぜ……。
俺に気付かれずに同時に3人の記憶を消すとか……。
 
「まぁ酔っぱらってただけなんだけどな」
 
なん……だと……!?
突然義之が居間に出現し、驚愕の真相を告げる。
ちょっと待った、酔うって、酒でも飲んだのか?
 
「なんでお前ら甘酒くらいで酔っぱらうんだよ?」
 
「えっ?」
 
「えっ?」
 
「は?」
 
「「あはは……」」
 
甘酒で酔っぱらう?なんで?
子供でも飲めるくらいの(ry
 
「あの後大変だったんだぞ!?突然外に出る音姉と机に突っ伏して寝る由夢を家に帰して、なんだかよく分からんままひたすら泣き続ける光雅を適当にあやしてベッドに帰して!」
 
なんか、それは、すまん……。
と、テレビから変なニュースが流れてくる。
なんでも、この初音島の住宅街のとある建物が出火、目撃者の通報によりすぐ消し止められたが、出火の原因は不明、現在警察が調査中、怪我人は出ていないとのこと。
火災で原因不明とか、物騒なこともあるものだ。
そんなちょっとシリアスな空気の中、杉並から連絡が入った。
 
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その日の夜。
俺たちは風見学園の校門に集合していた。
メンバーは俺と義之、渉に杉並、小恋やななかや茜、あと音姫と由夢だ。
杏は大掃除とかなんとかで忙しいらしいからこないって。
これだけ集まって何をするかってーと。
肝試し。
実は朝方、杉並から面白そうな提案を貰って、さくらに了承を得てこの計画に俺も乗った。
午前中に杉並と学園に入って仕掛けの準備、杉並に頼まれて、夜になると不気味で恐ろしい幽霊の幻影が学校中を徘徊するような魔法を学園中の至る所にセットしておいた。
まさか俺の魔法が娯楽に使われるとは。
まぁ結果的に『怖かったけど楽しかった』と言ってもらえれば本望だ。
んで、かえって昼飯食ったら大掃除が待っていた。
2軒分あるとはいえ、人数は多い。
7人もいれば、掃除もすぐに終わってしまった。
だが、地獄を見たのは俺と義之だった。
何がかっていうと。
何故か俺のベッドの下にエロ本が隠されてあった。
大方義之の仕業だろう。
んで、俺は音姫に変な誤解をされてその場で何も言えずに1時間の濡れ衣説教。
一瞬義之が俺の様子を確認しに来たが、その時に睨み返してやった。
復讐に燃える俺は、俺が音姫を宥めて、音姫が俺の部屋を去った後、すぐさま義之の部屋に向かった。
≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫を発動させて。
威圧感あふれる俺に義之は恐れおののく。
義之の部屋の、彼のベストコレクションの1部を手にしてひらひらさせて魔法の力で増産してやった。
俺が魔法で出したと音姫にばれないレベルで。
俺が義之を嘲笑って出ていくと同時に音姫が義之の部屋に突入。
はい義之チェックメイト的な。
掃除を終えた後に夜のことを話すとアイシアとさくら以外みんな来ることになった。
そういうわけだ。
 
~義之side~
 
集合していきなりなんだが、光雅が音姉と付き合うことになったのをみんなにに報告した。
なんだかんだでみんなは2人を祝福してたよ。
んで、なんでそこで小恋と由夢が俺を睨んでくるのかが俺には理解できん。
 
「それではルールを説明しよう。なぁに、簡単なことだ。今からメールをみなに送るが、そこに記された場所の順番に学園を回ってもらう。各ポイントにカードを置いてあるから、それを取ればチェック完了だ。なお、勝敗はそのカードの枚数で決まる。各ポイントで取れるのは1枚のみ。全部で7か所だから、全てを回れば7ポイントだ」
 
それを言い切ると、杉並からメールが届いた。
携帯の液晶に7つの場所が表示されている。
この順番通りに行くわけか。
 
「それではチーム分けと行こう。1チーム3人だ。但し、雰囲気というものは大事にしないとな。朝倉姉と同志弓月は2人で回ってもらう」
 
「ああ、残念だけど俺はもう『弓月』じゃないぞ」
 
「「「は?」」」
 
「ふむ……」
 
「いろいろあってさくらの弟ってことで『芳乃』になったから、そこんとこよろしく」
 
「芳乃先生呼び捨てにしちゃってるよ……」
 
「流石光雅くん、余裕あるねぇ~」
 
「だまらっしゃい」
 
まぁ、とにかく杉並は仕掛け人だから除外して、俺と渉が野郎同士で別れるようになった。
それからぐっぱでほーほーほーで俺は由夢とななかと回ることになった。
で、向こうが渉と茜と小恋。
そして、トップバッターである光雅たちが最初に校舎に入っていった。
しばらくして俺たちも入っていく。
 
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……。
 
な、なんなんだアレは。両サイドの由夢とななかまでもが涙目になって俺の背中に隠れている。
冗談じゃない、俺だってこええんだよっ!
階段上がろうとしたら『カカカカカカ』って声出しながら、変に関節の曲がった女が四つん這いで降りてくるし、廊下のシミから、またも気味の悪い長髪の女が湧いて出てくるし、突然壁から生えた手に腕取られるし。
なにこれ本物!?
……いや、これは光雅の力か。
それであいつ今日朝に学園行くとか言い出したのか。
 
「よ、義之兄さん、も、もういないよね……?」
 
「義之くん、こ、怖いよぉ……」
 
結局最初の3か所くらいは回れなかった。
そしてまた歩き出す。
 
「ゆっくり、ゆっくりですよ……」
 
「ああ、でも早く終わってほしいよぉ!」
 
だから俺も怖いの!またどこで遭遇するか分かったもんじゃない!
怯える2人の肩を抱いて先へと進む。
最上階から下へと降りる階段。
その角を曲がると、屋上に上がる階段には――。
 
「うわぁあああああああああああああああああ!」
 
「「き、きゃあああああああああああああああああああああああ!」」
 
俺が恐怖に逃げ腰になる前に2人が俺を押して後ろに下げた。
しがみつく2人のやーらかいのが俺の腕にしっかり当たってるんですがどうしよう。
というかそれどころじゃない。
人が、首を吊っていた。
だがそれだけじゃない。
顎から上がなかった。
ぽたぽたと血が垂れる右手は、俺たちを捕まえようとするかのように宙を彷徨わせていた。
なんでこんなにクオリティー高いんだよ!?
ダッシュで階段を駆け下り――って、あれ?
そこには、風見学園の制服を着た女の子が。
こんなところで何をしているんだろうか?
幽霊軍団と鉢合わせて怖くて動けなくなったのか、蹲っている。
 
「な、何をしているんですか!?早く行きましょうよ!」
 
「そうだよ!」
 
何言ってんだこいつら。女子生徒が1人俺たちのお遊びに巻き込まれてんだぞ?
 
「そこの女子がお化けにビビってんのか動けなくなってんだぞ?」
 
「義之兄さん、何言ってるの……?」
 
「ねぇ、嘘だよね?嘘なんだよね……?」
 
2人は恐怖に顔を引き攣らせる。
あれ、こいつら見えてないの?
 
「ほら、ここにいるだろ?」
 
踊り場の端っこに座っている少女を指差す。
 
「え……?」
 
俺の言葉に少女が顔を上げる。
 
「……」
 
なかなかの美少女だった。
 
「えっと、こんな時間にここで何してるの?」
 
「ちょ、ちょっと義之兄さん……?」
 
「……」
 
女の子はじっとこちらを見つめるだけだ。
会話になりそうにないな。
一旦離れてみるかな?
 
「俺、もう行くよ?」
 
踵を返して由夢たちのところに戻ろうとしたら――。
 
――がしっ。
 
「へ?」
 
女の子に腕を掴まれていた。
 
「義之くぅん、早く行こうよぉ……」
 
女の子が急に立ち上がり。
 
「わわっ!?」
 
何かに驚いている。
むしろその反応にこっちが驚いた。
 
「えっと――」
 
「私が……私が見えてますか?」
 
「へ?」
 
自分が見えるか?
ちょっとなんなんだこの言葉のドッジボールは。
 
「だから、あなたに私の姿が見えますか?」
 
見るからに真剣な表情。
これはもしや――。
後ろの2人も見えてないわけだし……。
ほ、本物!?
 
「み、見えるけど……」
 
広がるのは、彼女の笑顔と俺の恐怖。
 
「うわー……」
 
嬉しそうな顔をしながら、続ける。
 
「私、小鳥遊まひるって言います。付属の1年生です。小鳥が遊ぶって書いてタカナシに、平仮名でまひるです」
 
ぴしっと姿勢を正して自己紹介をする。
その笑顔は、例えるなら、太陽。
名前の通り、温かな光を携える太陽のような笑顔。
思ったよりも普通だ。
でも後ろ2人は見えてないっぽいし……。
 
「お、俺は桜内義之。付属の3年」
 
って俺は何悠長に自己紹介してんだ!?
 
「ってことは、先輩なんですね?先輩って呼んでいいですか?」
 
「えっと、まぁ別に構わないけど……」
 
「良かった~、先輩に会えて。もう何日も来る人来る人みんな気付いてくれなくて、挙句の果てに校内散歩してたらあちこちに怖いお化けがいっぱいいるし、死ぬかと思いました~……」
 
その表情は当時の恐怖と俺に会えたことでの安堵が表れている。
どうやら本当らしい。
いや、でも、本当にこの子が幽霊なら、なんで他の幽霊怖がってるんだ?
 
「あー先輩、私のこと信じてないみたいですね?」
 
「いや、ちょっとそこまで活気に満ち溢れていると普通に生きているとしか……」
 
「本当に幽霊ですよ?」
 
「証拠は?」
 
「嘘がつけない性格です!」
 
うおっ!理論の『り』の字もないのに説得力豊富だ!
杉並や杏がいうと言葉の価値が下がってしまうだろう。
まあとにかく、この子が幽霊かどうかは今はいいや。
光雅に訊けば何か分かるだろうし。
 
「俺は何て呼べば?」
 
「先輩の好きなように呼んでください」
 
「んじゃあ、小鳥遊で」
 
「まひるでお願いします」
 
あれ、今好きに呼べって言ったばかりじゃなかったっけ?
いきなりファーストネーム強要ですか。
その後、なんだかんだで話を聞いてやったら、本当に幽霊だったようだ。
とりあえずまひるも連れて、ゴールの屋上に上がるか。
 
「義之くん、大丈夫……?」
 
ななかが不安げな表情で尋ねてくる。
そういやこいつらにまひるのことが見えてないなら、さっきまでの会話は俺1人でぶつぶつ言ってるように見えたのかな?
うわ、恥ずかしい。
 
「まぁ、大丈夫だ。どうやらこの子もそんなに危ない奴じゃなさそうだし」
 
とりあえずここにいることを主張するためにまひるの肩をポンポンと叩く。
 
「本当にいるものなんですね……」
 
「お化けなんていなくなっちゃえばいいんですっ!もう、なんで今日はこんなに出てくるんですかっ!?」
 
「……」
 
お化けがそんなことを言って大丈夫なんだろうか?
 
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~光雅side~
 
「凄く怖かったけど、光くんが傍にいてくれたから、安心だよ」
 
と笑顔で音姫が言うものなので、音姫の頭を軽く撫でてやる。
 
「えへへ~」
 
幸せそうに頬を緩める音姫。
実際に俺も幸せだ。
 
「あまり見せつけてくれるなよ、弓月改め同志芳乃」
 
「その『同志』はいらん」
 
「まぁ、いいではないか。カードは?」
 
「全部あるよ」
 
音姫が7枚のカードをすべて差し出す。
 
「流石だな、愛の為せる技か?」
 
「元々俺が出したものだし、それにそんなに怖いものでもないだろ」
 
「ほほう?ではアレはどう説明する?」
 
後ろを振り返ると、渉たちがゴールしていた。
全員死にかけである。
なんだ?そんなに怖かったのか?
 
「小恋ちゃんが気絶しちゃったよぉー……!」
 
「ひぃいぃ、死ぬ!死ぬぅ!」
 
「えっと……」
 
ありゃりゃ、そんなに酷かったかな?
なんというか、有名どころのホラー映画をパクッてみただけなんだけど。
○怨とかリ○グとか着○アリとか。
 
「板橋、カードは?」
 
「取れるわけねぇーだろ、あんなの!」
 
「ゼロ、最下位か」
 
すると更に最後の1組が、ゴールしてくる。
っておい。
 
「義之、その隣にいる女の子はどこの誰だ?」
 
「誰って、白河さんと由夢ちゃんじゃない」
 
「いや、そうじゃなくてもう1人いるだろ?」
 
今ここにいる全員の頭上に疑問符が浮かぶ。
だってほら、いるじゃない。
付属1年生と思われる、可愛らしい女の子が。
 
「えっと、義之兄さんが、幽霊少女がいるって言うんです。私たちには見えませんけど」
 
「あ、あはは……」
 
2人とも顔が引き攣っている。
……え?本物?
まじっすか。
 
「ハハ、俺にも見えるよ……」
 
まさか本物に遭遇するとは思わなかった。
まぁ魔法も存在するし俺は神っぽいのに一度会ってるし、今更幽霊ごときでガタガタ言う気もないけど。
 
「名前は?」
 
「小鳥遊まひるだって」
 
「ふぅん、そうか。まぁ、俺にも見えるから、これはどうしたものか」
 
「なんでも、成仏を手伝って欲しいんだと」
 
やっぱり幽霊ってことは一度死んでるんだな。
んで、自然の摂理?に従って自分はこの世から去らなければならない、と。
 
「嫌だ」
 
ソッコーで断ってやった。
だってそうだろ?
 
「なんでそんなに自分からこの世界から消えることを望む?」
 
「だって、私はもう死んじゃってるんです。この世界にいてはいけないんです」
 
「今お前、俺の存在否定したぞ」
 
「……え?」
 
そう、俺だって1度死んだ身だ。
それでも今こうしてみんなと楽しく生きている。
 
「実は俺もイレギュラーなんだよ。お前と似たような、な」
 
「それってどういう……」
 
「俺も1度死んでんだ。それでも俺は超自然的な力で生き返ってこの世界に来た」
 
そう、たとえ死んでしまったとはいえ、この世界を楽しむ術なんぞいくらでもある。
少なくとも俺と出会ってしまった以上、それを諦めて消えるなんてさせてたまるか。
 
「死んだ後もピンピンしてる前例がここにあるんだ。お前も俺についてこい。お前が死んでしまった後もそうやって自我を得られるってのは、本当に奇跡なんだ。せっかく貰った奇跡をお粗末にするなんて勿体ないだろ。難しいことなんて考えなくていい。イレギュラーだろうがなんだろうが、ここに『自分』があるのなら、思いっきりこの世を満喫してからおさらばしようぜ。お前はきっとまだ、人生を楽しみきれてない」
 
「……はい」
 
まひるは、微笑んで頷いた。
カッコイイこと言ったつもりなんだけど、義之以外には1人でブツブツ言ってるようにしか見えないんだなぁ、これが。
最後に、山の向こう側から、杉並のスタンバイしていた花火が、打ちあがった。
それは、『今年』が終わる瞬間で、新しい『今年』を迎える瞬間。
 
「あけましておめでとう、みんな。そして、よろしくな、まひる」
 
まひるの笑顔は、花火の明かりに照りかえって、太陽のように輝いていた。