3.開放と封印、狂いゆく運命

2012年12月30日 00:59

 

準備完了。
 
『研究施設』では、あるひとつのプランの最終段階のスタンバイが終了した。
 
――プラン名、『凍結する世界の終焉(エターニティ・クリア)』。
 
全てはこの時のために費やしてきた。
 
すべての成果は、ここに現出する。
 
巨大な召喚術式を組み込んだ魔法陣。
 
今そこに、1人の術者が立つ。
 
流れるような長い金髪、整った顔立ち、すべてを射抜く、蒼く鋭い眼つきの男。
 
――シグナス・ルーン。
 
そして、その術式の発動キーを、作動させる。
 
陣の白線が光る。
 
壮大なスケールで、全てが震える。
 
必要な力が魔法陣内に終結する。
 
それらは大きく渦巻き、旋回し、溶け合って、調和する。
 
少しずつ形になっていく。
 
黒く、大きく、そして、凶暴な――。
 
細長く、逞しくくねった、蛇のような胴体。
 
他を怯えさせ、震え上がらせ、戦慄させ、退ける、雄々しく禍々しい翼。
 
圧倒的な存在感を放ち、その眼で見るもの全てを凍てつかせる凶悪な眼。
 
その口から放たれるのは、何もかもを無に帰す、無双の咆哮。
 
そこに現出していたのは、紛れもない、夢幻にしか存在するはずのない、黒い鱗や甲殻を身に纏った、
 
巨大な龍だった。
 
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生徒会役員が事務作業をしているころ、校舎外にて謎の巨大な爆発音。
 
恐らくはそれほど近くはない場所での事件だろうが、それでも耳鳴りがするほどの大爆発らしい。
 
リッカ「な、何、今の!?」
 
シャル「とにかく、現場まで行って確かめてこないと!」
 
そして、巴も連れて生徒会室から出ようとした時、その扉が向こう側から開く。
 
そこに姿を現したのは、『氷槍』、スライ・シュレイドだった。
 
スライ「リッカ・グリーンウッドはいるか?」
 
リッカ「私はここよ!」
 
リッカが名乗りを上げる。
 
スライ「今の爆発、かなり厄介だ。どうやら高等技術の魔法が絡んでいる。」
 
シャル「それって、どういうこと?そんな生徒は、この学校にはいないはずじゃ……?」
 
確かに、この学校は魔法を学びに来るところである。それなのに、そんな高等技術を持っている人間な
 
ど、カテゴリー5のリッカや、周知の事実となってはいないが、清隆くらいだろう。
 
スライ「例の『研究施設』だよ。」
 
リッカ「あれに関係しているの?」
 
スライ「しているも何も、爆心地がそこなんだよ!」
 
リッカ「嘘でしょ!?それで、龍輝は?」
 
スライ「あいつは問題ない。多分寮で寝てんだろ。」
 
その場にいた連中は、ほっと胸をなでおろす。
 
しかし、安心するのもまだ早い。
 
何が起こったのか、そして、その原因究明をしなければならない。
 
スライを先頭にして、全員で現場に向かった。
 
しかし、どうやら現場まで向かう必要性はなかったようだ。
 
というのも、恐らく今回の事件の元凶が、校舎近くのグラウンドにまで接近していたのである。
 
黒い龍が、そこで浮遊していたのだ。
 
スライ「こいつは……!?」
 
リッカ「これって、召喚術よね!?」
 
巴「こんなものを創り出すなど、どれ程の魔力の持ち主だ……?」
 
あたりを見渡すと、そこには既に先客がいた。
 
杉並である。
 
杉並「……。」
 
リッカが杉並に声をかける。
 
リッカ「杉並、これはあんたの仕業なの!?」
 
杉並が振り向く。
 
ある意味、この段階で杉並がいつものようににやついているのを誰もが期待していたのかもしれない。
 
しかし、その杉並の顔は、苦渋に歪んでいた。
 
彼は、左肩を押さえていた。
 
杉並「ふむ、少しばかり油断していたら、一発もらってしまった……。」
 
杉並が被害を受けているということは、この主人は杉並ではないことが分かる。
 
巴「ということは、犯人はいったい……?」
 
スライ「多分、『研究施設』の連中だ。あの時龍輝が感じていたエネルギーの流れが、こいつを生み出
 
    したと見て間違いないだろ。そして、その流れを作り出していたのが施設の連中、多分その頭
 
    だろうさ。」
 
リッカ「それって……」
 
龍輝「シグナス・ルーン、か?」
 
声に気がついてみんなが振り返ると、そこには龍輝、そしてその背後に姫乃や清隆たちがいた。
 
スライ「シグナスって、お前、あいつが『研究施設』のトップだったのか!?」
 
龍輝「そうだが……?」
 
スライ「なんであいつがそんなことをしでかすんだ?世界の不正を正すために『必要悪』を背負って、
    とか言うのがあいつのポリシーなはずじゃ……?」
 
それなのに、今回の爆発事件、そしてこの黒龍は、『必要悪』どころか、ただの凶器と成り下がってし
まっている。
 
龍輝「事故……の可能性が考えられるか?」
 
スライ「事故?」
 
龍輝「お前みたいな大きな力を持つ魔法使いが、突如暴走したときのために発動する最終兵器、つまり
 
   こいつが、他の研究員の不手際のよって過失解放された、みたいな。」
 
スライ「考えられなくは、ないな。」
 
龍輝「お前、少なくとも『研究施設』や、『研究材料』として生きていた俺に対してよく思ってはなか
 
   ったろ?その実験過程を、それこそシグナス以外のほかの権力者に牛耳られていたのかもしれな
 
   い。」
 
そう、龍輝にとって、シグナスとは、人生を縛られたこともあったが、それでも育て親に近い部分があ
 
る。更に、その聡明さと機敏さは、誰もが認める優秀な能力であった。
 
龍輝「だから、お前は例の力の流れの真相を掴めなかった、そりゃ、最大の権力者に隠れて他の権力者
 
   が今回のことを扱っていたからな。」
 
スライ「なるほど、それなら筋が通る。御託はいいから、とりあえずこいつを何とかしないとな!」
 
スライが構えると、その戦意、あるいは敵意を感じ取ったのか、黒龍はひとつ、咆哮した。
 
空気が揺れる。けたたましい鳴き声。
 
その一声で、龍輝についてきた予科生は怯んだ。
 
姫乃「大丈夫……ですか?」
 
リッカ「安心しなさい。なにしろ、こっちにはカテゴリー5が2人もいるのよ?」
 
スライは氷の翼を展開、そしてその表面から、大量の氷のつぶてを、吹雪のように黒龍に浴びせる。
 
スライ「オラオラオラオラァ!」
 
更に光弾を両手のひらでつくりだし、そして、それを敵にかざす。
 
狙いを定め。
 
照準を合わせる。
 
光の玉から放出されるのは、冷気の光線。
 
それは、黒龍に直撃――しなかった。
 
黒龍は、自らの体を霧のように分散させ、別の空間に自分の体を再構成した。
 
そして、その黒き体の周辺には、多数の黒玉。
 
それらすべて、一斉に黒き光線を打ち出し、狙いを定めず、周囲の空間を薙ぎ払う。
 
リッカ「みんな私から離れないで!」
 
リッカの指示に、龍輝とスライ以外がリッカに近づく。
 
ちなみに、龍輝はこの戦いにおいて、遊撃手的な役目を果たすため、常に主力2人とは離れた場所にポ
 
ジショニングしている。
 
目の前を光線が襲う前に、シールドを魔法で展開。
 
光線がシールドと接したとき、轟音が響いた。
 
リッカ「くっ……!なんて破壊力……!」
 
カテゴリー5のリッカでさえ、留めるのが精一杯なようだ。
 
その光線を阻むものがいた。
 
『氷槍』、スライである。
 
自ら氷の盾で攻撃から身を守り、それでいて、一瞬で発射口とリッカたちを結ぶ一直線上に、複数の氷
 
の壁を生成した。
 
スライ「もう持たねぇ!」
 
スライはその場を離れる。すると、黒い光線は、少しずつだが、その氷の壁を破っていく。しかし、今
 
の場所から非難するには十分すぎる時間だった。
 
そして、次に攻撃に転じるのはリッカ。
 
その体を魔法によって中に浮かせ、そして、念じる。
 
巨大な力の塊、それによって操るのは、風。
 
すべてを消し去る、完全無敵、視認することさえ不可能な存在。
 
空気の流れによって生み出されるそれは、最強の攻撃手段となる。
 
リッカ「≪不可視の大旋風(インヴィジブル・ウィールウインド)≫!」
 
大いなる風の力は、一箇所でせめぎあい、大きくなる。
 
そして、その自然の刃が、漆黒の巨龍へと煌く。
 
だが、その攻撃ですら、体を霧散させて無傷で凌がれてしまう。
 
あの龍にダメージを与えることは適わない。
 
リッカ「そんな……!」
 
驚愕したリッカに、龍の爪が襲う。
 
気付いている、しかし、足が動かない。
 
恐怖している。
 
リッカのいる場所に、その豪腕の爪が叩きつけられた。
 
地響き。
 
そして砂埃が舞う。
 
視界が広がった時、みんなはリッカの安否が気になった。
 
しかし、そのリッカは、瞬時に駆けつけた龍輝によって救出されていた。
 
リッカ「龍輝、だからあなたは、もう……。」
 
龍輝「減らず口叩いてる場合かよ。こいつ、不死身だぜ……。」
 
リッカ「ええ。」
 
そして、リッカは、考えに考える。
 
しかし、その成果は、上がらなかった。
 
その時。
 
声「自らの体に、寄生させろ……!」
 
声が聞こえた。
 
振り返ってみると、そこには白衣を身に纏った男がいた。
 
満身創痍、きっとこの男も被害にあったのだろう。
 
龍輝「シグナス・ルーン……!」
 
男は、シグナスだった。
 
シグナス「あいつは、不死身だ。あいつは莫大な魔力によって出来上がったバケモノだ。ならば、その
 
     魔力を上回る上代龍輝の魔力で封印させるのが一番安全で最速だ。」
 
シグナスはそこで顔を背ける。
 
シグナス「しかし、そのあと、龍輝がその龍を体内で抑制させられるかが不安定要素だ。下手したら、
 
     暴走しかねない。」
 
龍輝は、少し考えて――頷いた。
 
リッカ「ちょっと、龍輝、本気!?」
 
龍輝「バカヤロー、何のための魔法だと、魔力だと思ってんだ。俺の、今まで使い物にならなかった無
 
   駄に多い魔力が、自分の体に少しリスクを課すだけで大勢の人間を守ることができるんだ。魔法
 
   使いってのは、守りたいものを守るのが究極の目的なんだろーが。」
 
――やってやるよ。
 
龍輝は、覚悟した。
 
龍輝「どうすればいい?」
 
シグナス「誇張しろ。自分の魔力をとにかく見せ付けるんだ。そうすれば、そこの龍はお前に寄生しよ
 
     うとする。お前の傾きのない魔力に反応するはずだ。」
 
龍輝「分かった。」
 
そして、深呼吸の後、≪加速運動(アクセラレート)≫を発動する。
 
全能力値を最大限にまで引き上げるように。
 
そして、龍が振り向く。
 
ひとつの咆哮のあと、体を霧散させ、もの凄い勢いで、龍輝に寄生していった。
 
龍輝「がああぁぁぁあぁあああぁあああああああ!!」
 
苦痛に、悶え苦しむ。
 
それは、その光景を見ている人間にまで、間接的に苦痛を体感させるようだった。
 
シャル「龍輝くんっ!」
 
堪らなくなったシャルルが悲痛な声で龍輝を呼ぶ。
 
しかし、その声は彼には届かない。
 
龍輝「ぐぅううぅうう……、うわぁああああぁぁぁあああああああああ!!!」
 
断続的に黒い霧が龍輝の体に溶け込んでいく。
 
龍輝は感じていた。
 
別の意志に自分が乗っ取られそうな。
 
そして、自我を完全に消し去られそうな。
 
そんな不快な感触を。
 
そして、霧は次第に薄くなり、そして――。
 
すべてが、龍輝に収まった。
 
意識が朦朧とする中、みんなが駆けつけてくるのが分かる。
 
リッカ「龍輝、大丈夫!?」
 
スライ「龍輝、しっかりしろ!」
 
龍輝の身を案じる声が聞こえてくる。
 
その声に答えるように、龍輝は笑った。
 
龍輝「はは、俺、やればできるもんだろ。」
 
その声にみんなは安堵し、そして涙腺がはち切れたリッカは、耐え切れなくなって龍輝の胸で泣いた。
 
杉並は、周囲を見渡し、ある人物の影を探していた。
 
シグナス・ルーン。
 
非公式新聞部においても、まったくもってその情報を何も掴めていない人物。
 
そして、今回もその影はどこにもいなくなっていた。
 
杉並「何か……あるな……。」
 
そうして、今回の事件は、幕を下ろした。