4.手に入れたもの
翌日、生徒会室にて。
一つの大事件の後、その体に1頭の凶悪な龍を寄生させた青年。
彼の一言に、周囲の人間が唖然とした。
龍輝「何でも出来るようになってしまった。」
リッカ「は?」
スライ「は?」
シャル「えっ?」
事件から1日経って初めて気付いたのだが、それは本当のことだった。
清隆「何でも、って、何でも、ですか?」
龍輝「何でも。」
リッカ「とりあえず、それは昨日のアレが原因なの?」
龍輝「みたいだな。なんか、いろんな魔法やらなんやらの知識が、意識してみればいくらでも出てきち
まう。んで、俺のこの魔力量だろ?全部出来ちまうんだ。」
姫乃「へぇ……。」
見てもいないものを口で説明されて、ピンと来るものはそういない。
更に、今回はかなりとっぴな内容なのだ。それこそ、目の前をUFOが十数台飛んでいったとでも言うく
らいありえないことなのだから。
龍輝「試しになんかやってみようか。」
リッカ「それなら、対衝撃術式を高度なやつで5つぐらい同時展開してみて。」
龍輝「了解。」
姫乃「高度な術式の重複展開って、難しいんですよね?」
巴「そうだな。数値で言うならカテゴリー3の魔法使いが二重で展開できるかどうかのレベルだ。」
姫乃「そんなのをすぐに出来るようになるものなんでしょうか?」
審査員となったリッカたちが評論をしている間に、龍輝は自分のことに集中し、黙々と準備を進めてい
た。
みんなが見守る中、龍輝は少し緊張した表情で、準備が出来たことを告げる。
リッカ「じゃ、やってみせて。」
その合図に、龍輝は一度目を閉じる。精神を集中させて、アンバランスな重複した術式を、安定させて
いるようだ。
そして、カッと目を見開き、一気に術式を展開させた。
リッカ「1、2、3、4、5、……凄い、ホントに5つ張っちゃってるわ。しかも、1度で破られないよう、
物理攻撃と魔法攻撃の衝撃吸収魔法を交互に展開してる……。」
普通なら、重ねる魔法はタイプの似た術を複数使用するのが定石である。
似たタイプの魔法は、お互いに相性がよく、正確に噛み合い、重複させる場合にも簡単に安定させられ
るのだ。
それを、この青年はいとも簡単に違うタイプの術を交互に重ね、それを見事に安定させたのだ。
これはもう誰も彼の意図せずして得た能力を認めざるを得ない。
龍輝「なんかよく分からんが、すげーだろ。」
その場にいた全員、何も言うことができなかった。
その沈黙は、認めたと判断してもいいだろう。
姫乃「えっと、本当に龍輝先輩……ですか?」
龍輝「失礼になったな、姫乃。こんなチンケな野郎、他にはいねーぞ。」
清隆「誰がチンケですか……。」
とりあえず、誰もがそこにいるのが龍輝であることを認めたようだ。
そこに、この学校の学園長、エリザベスが来た。
リズ「あら皆さん、ごきげんよう。」
リッカ「ああ、エリザベス、こんにちは。」
今の挨拶の交わし方からも察することが出来ると思うが、リッカとエリザベスは旧友同士である。
エリザベスは、この王立魔法学校の学園長で、その美貌とおっとりした性格が特徴的で、生徒からの人
気も高い。
魔法学校の責任者ということもあって、魔法に関しては一流である。
そんなエリザベスから、ある情報が飛び込んできた。
リズ「龍輝くんもいましたか。なら話は早いです。先程、『研究機関』の責任者であるシグナス・ルー
ンから連絡があって、昨日の事故の責任を取り、この魔法学校を去ることを報告しました。」
スライ「そうか……。あいつも悪い奴じゃないんだけどな……。」
龍輝「ああ……。」
シグナスとの関わりがある2人にとって、この報告は落胆すべきものだった。
しかし、次の報告で、龍輝を始めその場全員が喜んだ。
リズ「その際に、彼は、龍輝くんの『実験』の課程を全て終えることを宣言し、新たにこの学園での教
育を受けることを許可しました。」
リッカ「それってつまり……。」
スライ「そーゆーこと、だよな……?」
そして、次の報告は、2人のカテゴリー5の予想通りになった。
リズ「龍輝くんは、リッカさんのコネもあって、予科1年A組との関わりが深いようなので、そこの生徒
として学園生活を送ってもらいます。」
つまり、龍輝は、『自由』を手にしたのだ。
彼が今まで理想、幻想として追い求めていたもの。
それが、今この瞬間、現実になったのだ。
リッカ「龍輝……おめでとう……!」
巴「うんうん。」
シャル「よかったねっ……!」
突然の出来事に、リッカとシャルルは感極まった。
彼女たちにとって、龍輝は最初から仲間だったのだ。
その『孤独』だった友人は、いつまでも『研究材料』として自由を奪われ続け、誰とも深い関わりを持
つことなく、独りみんなの前で強がって、独りで苦しんでいた。
誰もが思った。
その変化は。
彼が1人の人間として生を渇望したのは。
1人の少女――今この場にいない、サラとの邂逅がきっかけだったのではないか。
彼女と出会ってから、龍輝はほんの少しだが、楽しげに過ごすようになった。
意識せずとも、サラは龍輝の生き甲斐となっていたのかもしれない。
その中で、リッカは、龍輝とサラが結ばれたのは、正しかったと、安心した。
そして。
これからは、一度愛した男性がいるクラスで、いかにいつもどおり振舞うか、クラスマスターとしての
手腕が試される。
そんなリッカを見て、巴とシャルルは微笑んでいた。
龍輝「俺は、自由になれたんだな……。」
一方、清隆たちは、何がなんだかよく分かってない状態である。
そして、スライがある疑問をぶつける。
スライ「んでもさ、魔法の知識全部手に入れちまったようなこいつが、授業なんて受けて意味あんのか
よ?」
清隆「確かに、そうですね……。」
確かに、ありとあらゆる知識を得、もしかすればカテゴリー5のリッカをも超えてしまった彼に、これ
以上学ぶこともないのかもしれない。
龍輝「それもそうか。」
リズ「それなら、予科1年A組で特別に副担任、という形でクラスメイトの皆さんと交流を深めるのはど
うでしょうか?」
シャル「それいいですね!ちょうどあのクラスにはサラちゃんもいることだし!」
龍輝「お前な……。」
巴「間違っても、クラスの公衆の面前で熱いトコロを見せ付けたりするなよ?まぁ、Aクラスの評判が
下がろうが、うちのクラスには関係ないが……。」
龍輝「お前もか……。」
2人の冷やかしに、龍輝は返答を諦めた。
清隆たちは、この会話についていけなかったようだ。
しかし、返事をすればするほど、下手をすれば清隆や姫乃たちにもいじられかねない。
それに、この状況で巴には勝てないのは分かっている。
龍輝「ったく……。ま、これからよろしくな、リッカ。」
リッカ「足は引っ張らないでよ?」
龍輝「善処する。」
そして、これからクラスメイトとなる、清隆と姫乃の方を向いた。
清隆「これからも、よろしくお願いします。」
姫乃「よろしくお願いします。」
龍輝「よろしくな。」
そして、しんみりしてきたところで、スライがとある提案をした。
スライ「そんじゃ、これからパーッとパーティーでもしようぜ!」
唐突の提案に、周囲の人間が困惑する。
龍輝「何を祝うんだよ……?」
スライ「決まってんだろ。お前が新しいクラスに配属されたことだよ。」
龍輝「別にそんなに祝うことでもなくないか?」
だが、最後まで反対しているのは、残念ながら龍輝だけだった。
みんなも、その意見に次々と賛成する。
清隆「そうですね。やりましょう。」
巴「場所はどうする?」
姫乃「フラワーズに行きましょう。あそこなら、葵もいることですし。」
シャル「なるほどねー。あの娘なら、素敵な笑顔で龍輝くんを祝福するんじゃないかな?」
リッカ「そうね。せっかくだし、このまま参加させてもらおうかしら。」
リズ「そういうことなら、私も参加させてもらいます。」
清隆「学園長も参加ですか。なかなかない経験ですね。」
リッカ「そうよ。ありがたく思いなさい。」
その謎の勢いで、全員でフラワーズに移動、そこで盛大なパーティーが開催されたのであった。