6.全て分かる、今

2013年01月08日 19:27

ただ無限のように続く、暗闇の世界。

その中で龍輝は、ただ清隆の精神世界への入り口を探していた。

当てはない。

始めて来る場所であり、初めて使った魔法でもある。

だから、セオリーも理論も全く分からない。

だから、手当たり次第に歩き回るしかなかった。

どれくらい歩いただろうか。

一箇所から、遠いところで何か光っているのが見えた。

――これだ。

迷わずにその方向に向かって走る。

次第にその光源は近くなり、その光の大きさを増す。

そして、それを目の前にして――その光の中に飛び込んだ。

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龍輝が清隆とのリンクを探っている間、清隆の部屋では沈黙が支配していた。

リッカ「行っちゃったわね……。」

シャル「あたしたちにも、出来ることってないのかな?」

巴「シャルル、気持ちは分かるが、私たちにどうこうできる問題ではない。龍輝を、信じることしか

  出来んのだ。」

シャル「そう、だよね。」

そしてまた沈黙が走る。

姫乃はただ清隆の手をとって無事を祈るばかりである。

巴「ここに4人もいる必要はないだろう。私は一旦学園長にこのことを報告してそのまま部屋に戻る。

  清隆たちのことは心配だが――。」

リッカ「分かった。」

巴は頷いて、部屋を出て行った。

そして、そのまま何に変化もないまま1時間が過ぎた。

リッカ「姫乃、もう、部屋に戻りなさい。ここは私たちが見ておくから。」

姫乃は、それに答えない。

シャル「姫乃ちゃん、清隆くんが帰ってこれても、姫乃ちゃんが衰弱してたら彼も心配するよ?」

しかし、姫乃はやはり反応しなかった。

姫乃は、それほどまでに清隆が心配だったのだ。

リッカとシャルルは、説得を断念し、その様子を見守ることを決めた。

しかし。

次の瞬間、リッカに異変が起こった。

急な眩暈、朦朧とする意識、体の力が抜けていく。

リッカ「何……これ……――」

その場に倒れこもうとするのを、間一髪でシャルルが抱きとめる。

シャル「リッカ!?大丈夫!?」

姫乃「――え?」

姫乃がリッカの異常に気付く。

突然のカテゴリー5の気絶。

残された2人は、ただ混乱していた。

だが、それだけでは終わらなかった。

毛布を準備し、リッカを寝かせたと思ったら、同じ現象が、シャルルにも起こった。

シャル「あれ、あたし……も……?」

そのままうつ伏せに倒れこんでしまった。

姫乃「シャルルさん!?」

残されたのは姫乃1人。

しかし彼女には、なす術がなかった。

緊急事態に、先程部屋から出ていった巴をシェルで呼ぶ。

しばらくすると、巴がエリザベスと一緒に姿を現した。

リズ「これは、リッカまで……。一体どうなっているのでしょうか?」

巴「リッカもシャルルもか……。」

エリザベスでも、この状況が把握できず、何もすることが出来なかった。

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一方、光の中に飛び込んだ龍輝は、不思議な光景を目の当たりにしていた。

今の時代では見られない建築物。

そこで生活している人間は男女で違うが、同じ服装をしていた。

ちょうど、今の風見鶏のように。

となると、ここは学校なのだろうか?

しばらくその光景を見ていると、そこに1人の少年が、姿を現した。

――清隆だ。

一緒にいるのは、リッカやシャルル、サラや葵にそっくりな女性がいる。

何や楽しそうに会話している。

その会話内容の一部は聞き取ることが出来た。

だが、文化の違いか、龍輝にとって理解しがたい言葉が多く、どのような意味なのかまでは把握し切

れなかった。

とりあえず、そこにいるのは、間違いなく清隆の『意思』である。

ならば、それを連れ戻さなければならない。

清隆に触れようとして――視界に靄がかかった。

龍輝「これは……霧?」

霧は、次第に視界を覆い、完全に龍輝を取り囲む。

かと思ったら、その霧は次第に薄くなり、龍輝はまた別の場所に飛ばされたことを理解した。

そこに、少女が1人、佇んでいた。

龍輝にも見覚えがあった。

そこにいたのは――

以前彼も目にした――

――ジル・ハサウェイだった。

ジル「久しぶりだね。何日ぶりかな?」

龍輝「挨拶は抜きだ。ここはどこだ?お前は一体何者なんだ?」

単刀直入に、必要な情報だけを求める。

ジル「君も、なかなか自覚しないんだね。君自身の、この世界での『役割』に。」

龍輝「余計なことは言うな。俺の質問に答えろ。」

ジル「そうだね。……うん、分かった。ここはどこか、と訊かれても、はっきりと明言できない。で

   も、“私たち”は、『感情』そのものなんだよ。」

そして少女は静かに嗤った。

ジル「教えてあげようか。この世界の真相を――」

――君は、絶対の力と大いなる絶望に選ばれた。

――力は、全て想いの力、感情に起因する。

――君の力は、地上の人間の全員の感情によって成立したんだよ。

――そう、君の中に寄生している、龍のことだ。

――だけど君のその力は、まだ完成していない。

――その中で大きな役割を果たす、大きな歯車が、2つ残っている。

――そのうちのひとつが、私だ。

――リッカ・グリーンウッドの、『感情』。

――彼女は、変われなかったから、今ここに私がいる。

――そしてもうひとつ。

――ほら、来た。

ジルの背後から小さな男の子が姿を現した。

印象的なルビー色の瞳、美しい白銀の髪。

一発で分かった。

彼は――シャルルの家族だ。

――そう、今君が考えたとおりだよ。

――エト・マロース。

――シャルル・マロースの実弟であり、彼女の『感情』でもある。

――そして、この『感情』が自我を持ったのは、他でもない、地上の霧が原因なんだ。

――その霧は、人間たちの負の感情を集積し、それを媒体として、大きな力を作り出す。

――その力は、たった1人の少女の恩恵となって、活用される。

――自分の死を未来視し、運命に抗おうとして、挫けた。

――その先に出した結論は。

――『未来が来なければいい』。

――それが、今の世界の現状なんだよ。

――そう、この世界は、“永遠に同じ時間軸を繰り返す”。

――同じ旋律を幾度となく繰り返す、ダ・カーポのように。

龍輝「そんな……!その少女って、一体誰なんだ?」

――霧の魔法、≪永遠に訪れない五月祭≫を発動させたのは、ごく普通の少女。

――君も、君たちも、一緒にいた、あの人だ。

――陽ノ本葵。

龍輝は、驚愕した。

あの太陽のような笑顔を振りまく少女が、そんな恐ろしい魔法を展開していたことに、驚きを隠しれな

かった。

龍輝「葵……だと……!?」

彼女が、あの霧を生み出していたのだ。

龍輝は、突然の語りの内容に混乱し、ただただ呆然とするのみだ。

そんな中、ジルは、更に続ける。

――君は、この禁呪を解除しなければならない。

――そのためには、力が必要なのは、君もよく分かっているよね?

――君は、私とエト君、つまり2人の魔法使いの『感情』を取り込むことで、力を完成させるんだ。

――絶対の力、大いなる絶望。それを、今から君は手にする。

龍輝「その、大いなる絶望って、さっきから気になってるんだが、一体何なんだ?」

――大いなる絶望。それは、一体何なんだろうね。

ジルはまた嗤った。

ジル「それじゃ、もう用は済んだかな。そろそろ――始めようか。」

ジルとエトは、次の瞬間霧状になり、龍輝が龍を寄生させたときと同じように、龍輝の体に入っていっ

た。

その時感じたのは、恐怖。

また、自我が消えてしまいそうな気がした。

何者かに“龍輝自身”を乗っ取られそうな違和感。

異変。

または異常。

龍輝「く……あ……」

――それじゃ、物語の真の主人公は、返しておくよ。

頭の中で誰かが囁くのを聞いて、龍輝はこの世界での意識を断った。

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声「――キ……―キ……ルキ……。」

声が聞こえてきた。

先程までの混乱を頭の中で抱えながら、ゆっくりと目を開いた。

顔を覗かせていたのは、リッカだった。

不安と、安堵、2つの感情が垣間見えた。

リッカ「龍輝!」

龍輝「リッカ……?」

シャル「よかった……!」

巴「さっきまで君たちも眠っていたろうに……。」

リッカとシャルルが歓喜し、巴が呆れていた。

どうやらこの2人は龍輝が目覚める前に先に意識を戻していたようだ。

それはきっと、彼女たちの『感情』が、龍輝によって封印されたから。

だが、急な精神下での変化で、体に強烈なリスクを負ったらしく、節々の痛み、頭痛、吐き気がする。

龍輝「チッ……、クソッタレがァ……。」

傍では、清隆も無事戻ってきていたようだ。

清隆「龍輝……さん……?」

誰もが、龍輝に対して違和感を持った。

――いつもの上代龍輝ではない。

龍輝「何だ……清隆?」

清隆「いえ……何も……。」

龍輝「駄目だ、体調が悪ィ。今日はもう、部屋に戻る……。」

姫乃「あの、龍輝先輩、ありがとうございましたっ!」

姫乃が涙を拭うことをせずに、龍輝に感謝を述べた。

しかし、龍輝はそれどころではなかった。

真実を知ってしまった。

全てを知ってしまった。

行動に移さなければならない。

しかし、その先には大いなる絶望が待っている。

――どうすればいい?

――俺は、どうすれば?

部屋を出て1人になった時、龍輝は1人呟いた。

龍輝「誰か、教えてくれ……サラ……!」

ただ1人静かに、涙を流した。