6.大騒動!少年vs男の欲望

2012年10月28日 17:25
リレカも終わった。
杉並たちの計画は、いや、非公式新聞部は(というのも、杏や茜その他数名は囮でしかなかったため、計画の途中で生徒会副会長の高坂(こうさか)まゆき先輩にしょっぴかれたようだ。奴らが反省する気が無かったのは言うまでもない。)確実に何かやらかしていた。
杉並が何をしたのかって?……知らん。興味も無い。成功したことだけは言っておこう。
 
……そんなある日。
 
「んん……ふぁぁぁぁ……」
 
朝一番の大欠伸。時計を見るとまだ6時ちょい過ぎ。いつもより早く起きたようだ。
 
「天気もいいし、10分程散歩にでも行くか」
 
カジュアルな私服に身を包み、外に出る。一応郵便受けを確認。新聞にチラシ、そして杉並の手紙が入っているだけで、って――
 
「は?」
 
それらをもって家に戻る。杉並の手紙は封筒に2枚にわたって入っている。そのうち最初の1枚を取り出して、読んでみる。
 
『マイハニー弓月
 
――びりびりっ!
 
ついうっかり破いてしまった。もう1枚を取り出す。
 
『弓月なら破るだろうと思って2枚にしておいたぞ。偉いだろう。まぁ面倒な挨拶は抜きにして、本題に入ろう。昨日のリレカの打ち上げで、俺は貴様と桜内にある薬を飲ませておいた。その特徴はズバリッ!
 
――異性に対する性衝動が、通常の5倍に跳ね上がる
 
と、言うものだ!適応時間は3日。我らが非公式新聞のため、全力を尽くしてくれたまえ』
 
「……」
 
しまった。昨日のいつだ。
昨日は確か杏、茜、小恋、渉、義之、杉並、そして俺、という面子で、あるファミレスで小さな打ち上げを開催した。『飲ませた』と記述があることから、恐らくドリンクバーに溶かしたのだろう。そして対象は俺と義之。
 
「まさか……」
 
打ち上げ半ばで俺と義之は1回ドリンクバーのジュースをブレンドしてお互いに飲み比べをした。そして、席順は杉並は俺と義之の間にいた。
そうか。交換のときか・・・!
 
「さて、どうしたものか」
 
運の悪いことに、昨日はさくらさんも帰宅、今日はまだ自室で寝ている。
うん、非常に拙い。
てか、起こしにいけなくなってしまった。
そして毎朝やってくるお隣さんの美人姉妹。
今日の食事当番は俺。
……おい、完全に詰んでないか?
とりあえず現状で仲間といえる義之を叩き起こそう。
2階に上がり、義之の部屋に突入。
近くにあるなんとか辞典を手に取り、ベッド脇へ。
 
「……」
 
幸せそうな顔で寝ているが、それどころじゃない。
 
「義之起きろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 
なんちゃら辞典を腹部に落とす。
 
「ぐふっ!!」
 
突然の苦痛に顔を歪める義之。
それのおかげで意識は戻ったようだ。
 
「ちょ、光雅、てめいきなり何すんだよ、ってかまだ6時半じゃねぇかよ」
 
「時間が無い。これを読め」
 
杉並の手紙を渡す。
 
「……なんか朝から物騒だな」
 
義之が手紙に目を通す。そして硬直。
 
「……おい、これって……」
 
「ああ、最悪の状況だ」
 
「起こしてくれてありがとう」
 
「ああ。感謝しろ。事態を知らなければ1時間後お前は犯罪者だ」
 
「で、どうするんだ?」
 
「……」
 
聞かれても答えられない。
だってもうチェックメイトだもん。
 
「光雅?」
 
「分からん。ただ、耐えろ。それだけしか言えねぇんだよ……!」
 
その時――
 
――がちゃっ。
 
ドアが開く。
 
「光雅くん、あさからどーしたのー?うるさいにゃ~……」
 
さくらさん登場。
 
「「ぐっ!!」」
 
さくらさんがいつも以上に色っぽく見える。義之もそうらしい。杉並あいつマジか……!
 
「ん?どうしたの2人とも?」
 
とてとてと近づいてくる。
く、来るなぁ!
 
「お、俺、朝飯の準備してくる!」
 
「俺も手伝うよ光雅!」
 
あわてて部屋から出て行く2人。
 
「うにゃ?なんだったんだろ?」
 
さくらさんは頭上にはてなマークを浮かべていた。
 
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朝食の準備は義之の手伝いのおかげですばやく終わった。
 
「さて、どうするか……」
 
「杉並をとっちめて解決策を聞き出すか?」
 
と提案するのは義之。
 
「無理だろ。仮に捕まえられたとしても奴が吐くとは思わん」
 
「それもそうか。まぁ音姉たちが来るまで時間があるから――」
 
――がらららら。
 
外玄関の戸が開けられる音。
 
「「なっ!?」」
 
そんな馬鹿な……!いつもならあと30分後なのに。
 
「光く~ん、朝ごはん出来てるの?」
 
「はぁ~、眠いなぁ~……」
 
「ほら由夢ちゃん、今日は朝から保健委員の仕事でしょ。ちゃんとしないと」
 
「はぁ~い」
 
そうか。音姉は生徒会、由夢は保健委員の仕事か。
 
「あ、ああ。早起きしたから朝飯は作っといたよ。運ぶからテレビでも見てなよ」
 
「うん、ありがと」
 
心の準備。うん、大丈夫。多分。
 
「義之、いくぞ。」
 
「ああ」
 
朝食を居間に運ぶ。
 
「ちょ、そんな戦場に行く覚悟を決めたような顔してどうしたんですか!?」
 
何、そんなに険しい表情だったのか、俺ら。
 
「ああ、俺たちにとって、いろんな意味で戦場に行くんだよ。なぁ?」
 
「ああ」
 
彼女たちを見てはいけない。見てはいけない。この集中力があれば鼻糞でハエを射殺すことができるだろう。
 
「光雅くん、義之くん、由夢ちゃん、音姫ちゃん、おはよー!」
 
さくらさん、ハイテンションで登場、そのまま俺にダイブ。……って、えぇぇえ!?
 
「ぐあぁぁぁぁ!!」
 
「「「おはようございます。」」」
 
「うにゃっ、びっくりしたぁ~!ど、どうしたの?」
 
「ホント、朝から何叫んでるんですか、光雅兄さん」
 
「近所迷惑だよ?」
 
そ、そんなこと言われてもしょうがないだろ?
義之、そんな憐れむような表情で俺を見るな!
 
「い……いえ、なんでも、ない……です……」
 
や……やばい!!変なスイッチが入る!
 
「それより……さ、さくらさん、はや、く、朝飯、食べましょう……」
 
「うにゃ、そだね。」
 
さくらさんが離れてくれた。しかし!
 
「光くん、苦しそうだよ?大丈夫?」
 
様子が明らかにおかしかった俺を心配してこっちに来る。
その行動が俺たちを苦しませるんだって!
 
「熱でもあるのかな?」
 
音姉が掌を俺の額に当てる。それだけでもう……
 
「ぐっ!?はぁ……はぁ……」
 
「熱は無いみたいだけど、ホント大丈夫?」
 
あんたのせいだよ。
とは言えない。
 
「だ、大丈夫、大丈夫。な、義之……」
 
「あ、ああ、こいつは元気に俺を叩き起こしにきてくれたぞ」
 
「そう?でも、あんまり無理しないでね?」
 
音姉が可愛く首をかしげる。か、可愛い!
ぐあああああああ!落ち着けぇぇぇぇ!俺ぇぇぇぇぇ!!
 
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 
義之も今のは効いたようだ。
 
「「「?」」」
 
俺たちの不審な言動に女性陣は終始疑問を浮かべていた。
 
「そうだ!光くん、義くん、今日は一緒に学校いこう!」
 
……。
 
……。
 
……。
 
えええええええええええええええええええええ!!!!
待て待て!そんなことをしてみろ!いつ俺たちが2人を襲うか分かったもんじゃないぞ!
……ということで。
 
「いや、今日はちょっと渉たちと用事があるから、後で行くよ……」
 
と、音姉が寂しそうな顔をする。
 
「光くんは、私と一緒に登校するの、いや?」
 
はいでました。通称『光くんはそんなこと言わないよね?光線』。
これを避けた瞬間、音姉は間違いなく半泣きになってしまう。それだけは避けないといけない。そんな顔を見たくない。
 
「や、べ、別に嫌ってわけじゃ……」
 
「そっかぁ♪じゃ、一緒に行こう♪」
 
やっぱり人間とは、NOと言えるように日々鍛錬しなければいけないものなのかもしれない。
 
「「はぁ~……」」
 
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と、いうことで、今の状況を確認してみよう。
杉並に変な薬を飲まされて煩悩のダムを全力で押さえている俺と義之。
義之はただひたすらに空を見上げている。
由夢は少し俺から距離をとって俺をジト目で睨んでいる。
その視線の先には、俺と音姉。
その音姉に右手をしっかりとホールディングされている。
つまり、俺は自分の煩悩の最終防衛ラインで死闘を繰り広げているわけだ。
 
「えへへ~♪」
 
あらら幸せそうな顔をしちゃって。俺の気も知らずに。
さらに付け加えれば、ここは桜並木のど真ん中。
野郎どもの殺気がイタイイタイ。
 
「くそっ。あの野郎俺の音姫先輩といちゃいちゃしやがって……!」
 
「あいつそろそろシメる必要があるだろ……!」
 
「今度音姫先輩のファンをできるだけ連れてこいよ!」
 
「ああ!あいつ絶対ゆるさねぇ……!」
 
おい、3人目渉じゃねぇか。
こりゃ学校で面倒なことになりそうだな……。
ってかそんなことより俺の右手を何とかしないといけない。
 
「ふんふんふ~ん♪」
 
だめだ!無理やり引き剥がす勇気が足りない!
 
「ねぇ、義之兄さん」
 
「は、はぃい!」
 
義之が間抜けた返事をする。
 
「どうしたんですか?そんなことより、なんで空ばっかりずっと見上げてるんですか?」
 
「そ、それはな、俺は1度俗世から離れて、穢れなき空を見上げることで、少しでも悟りの境地に辿り着くためさ……」
 
自分で言うのもアレだが、それは無理があると思う……。
 
「はぁ?義之兄さんが俗世間から離れる?そんなこと義之兄さんには不可能ですよ」
 
なんていうか、義之と由夢ってなんだかんだで仲いいよな。
とりあえずは、色々耐えなければならない。
 
「てめっこらっ待ちやがれ!」
 
「やだねバーカ!」
 
後ろから2人の男子生徒が駆け抜ける。横を通り抜け際、前を走っている男が音姉の肩にぶつかる。
 
「きゃっ!」
 
「す、すいません!」
 
その瞬間俺の二の腕に柔らかな感触がよりいっそう強く押し付けられる。
 
「ぐっっっっっっ!!!!!」
 
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音姉の拷問から何とか解放され、教室に至る。
そして奴がいないか教室中を見渡す。
 
いた。
 
自分の席で読書をしている。杉並。
 
「「おい、杉並!」」
 
「おお、これは我が同志たちよ。例のあれの調子はどうだ?」
 
「お前のせいで朝から性犯罪者になるところだったぞ!」
 
ばか!そんなことを言ったらあいつらが……!
 
「あら、朝から性犯罪をするくらいに煩悩が溜まっていたのね。……茜」
 
「はぁ~い♪」
 
――むぎゅっ。
 
茜が義之にくっつく。
 
「ぐあっ!」
 
「義之くん、顔がすごくこわばってるよ~?ほら、我慢しなくていいんだよ?」
 
えいっえいっ、と茜が義之を挑発する。がんばれ、義之!
 
「光雅、あんたもよ。えい」
 
杏が正面から俺の体に飛びついてくる。
 
「くっ……!」
 
「いつもと反応がちがうわね。恐らく、杉並に変な薬でも飲まされて性欲が暴走しているのね」
 
こいつ、鋭い!雪村流暗記術、恐るべし……!
 
「おい、杏、離れろ!」
 
ほら見ろよ。俺のガンランスはもう竜撃砲の準備をしようとしてるし、おまけにクラスの男子の視線が痛いことこの上ない。
 
「ほらぁ、私って体も小さいし力もないから簡単に押し倒せるわよ。私はいつでも光雅のものなんだから。ふふふ」
 
悪魔の囁きに耳を貸すな!SHRのチャイムまであと3分。そうすれば嫌でも席に戻らなければならない。あと少s
 
「はぁ……はぁ……まにあったぁ……みんなおはよ~……」
 
時間ぎりぎりに教室にい登場したのは、ラスボスというか、小恋だった。
 
「ほれ月島、一緒に遊ぼうではないか。」
 
小恋の背後から杉並が現れ、その背中をくいっと押す。そのまま俺のほうへ……
 
「ふぇ!?ひゃあぁ!」
 
そのまま小恋の体が俺と激突、彼女の凶悪なデュアルウエポンが俺を襲う。
 
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
 
「え?え?え?」
 
俺のリアクションに対して当然のリアクション。
 
「小恋の朝いちの新鮮エロおっぱいに光雅も興奮してるのよ」
 
「ふぇ、そうなの?」
 
小恋が警戒して後ずさる。
あながち間違ってないのが非常に悔しいですよ、そりゃもう。
 
――キーンコーンカーンコーン。
 
助かった。
のだが、放課まであと7時間。杏と茜とその他数名にからかわれ、男子生徒大人数に抹殺されかけたのだった。
いや、それだけならいい。この生活が、あと2日続くのか……。
やってらんねぇ……。