6.生真面目少女と幸せ少女
2012年10月28日 16:50
スライが龍輝の部屋の食材をほぼ使い切ってしまったので、買出しをしなくてはならなくなった
龍輝である。
というのも、彼は暇でも、外に出る気がない時は、自室で料理をするなりなんなりしているので、
家事スキルはそれなりにある。
龍輝「はぁ、面倒くせぇ。」
とりあえず、体中をぐるぐる巻きにしている包帯を全て取り、体の傷の具合をチェックする。
やはり治療魔法が掛けられていて、傷一つついていなかった。
適当に私服を着込んで、龍輝は部屋を出た。
色々な買い物をするなら、風見鶏敷地内では、最も品揃えの良いと言えるリゾート島がベストで
ある。そこは本当に賑やかで、学園の生徒だけでなく、先生方や、他の一般客もたくさん利用す
る。
龍輝自身、ここを利用することは少なくない。暇ついでに足を運ぶのだ。
リゾート島に行くためには、海(魔法で作られているのでそれがそうと言えるのかどうか不明だ
が)を越えていかなければならない。そして、そのために船着場に行くのが決まりというもので
ある。
それで、船着場に行くと、そこには最近よく見かける青のツインテールがあった。
龍輝「あれ、サラじゃねーか。」
サラ「あ、先輩。」
龍輝「これから買い物か?」
サラ「えっと、その、まぁ、はいぃ……。」
なんとも歯切れの悪い回答。
サラ「そんなことより、先輩、外に出てきて、傷とか大丈夫なんですか?」
龍輝「ああ、俺なら大丈夫だ。ほら、この通り、何の問題もない。」
その場で体を1回転、絶好調であることを主張してみる。
サラ「見た感じ大丈夫そうですけど、無理はしないでくださいね?」
龍輝「うっ……。」
上目遣いで心配するサラ。それを見て変な動悸を感じる龍輝。
本気で心配されたことがほとんどない龍輝にとって、このサラの行為は結構心を揺さぶるものだ
ったと言える。
サラ「で、先輩も買い物ですか?」
龍輝「ん、まぁな。」
サラ「リゾート島、ですよね……?」
龍輝「ああ、サラもか?」
サラ「は、はい。」
龍輝「じゃ、お供させてもらっていいか?」
サラ「あ、いえ、一緒に行きましょう。」
そのときのサラの笑顔は、何故か龍輝の胸につっかえた。
そして、サラがブローチを水面に投げ、それはボートに変化した。
サラはそれに乗り込み、龍輝の方を見る。
龍輝「やっぱ初期のままか……。」
龍輝もブローチを投げる。しかし、それはサラと同じようなボートではなく、サーフィンのボー
ドのようなものになった。これも、『研究機関』による『研究』の副産物であるらしい。という
より、これは龍輝が自分でデザインしたものであったりする。性能は普通より良い。
サラ「これ、何ですか?」
龍輝「性質はみんなのボートと同じだよ。違うのは形とスペックだけ。」
サラ「なんか、先輩ってホントに凄いですね……。」
龍輝「どうなんだろな……。」
スライの言葉を思い出し、苦笑する。
――人生楽しもうぜ。
俺は確かに人生を楽しむ気なんてなかったのかもしれない、龍輝はそう思った。
龍輝もボードに乗り、サラに並走してリゾート島に向かった。
さて、リゾート島に来た龍輝たちだが、その学園とは違う雰囲気に龍輝は圧されていた。
龍輝「相変わらず凄いもんだな……。」
リゾート島は学生たちの遊び場であり、地下学園都市で働く人たちの息抜きの場でもある。
ここだけは勉強とは無縁の場所で、徹底的な娯楽の追及がなされている。
休日ということもあって、人の量は半端ではなかった。
あちらこちらの店から、いい匂いがする。
龍輝「いやー、やっぱ凄いわ。」
サラ「そうですか?」
龍輝「これもうお祭りレベルじゃん。」
サラ「お祭り……確かにそうですね。」
そんな会話をしながら、通りすがりの他人を軽く見てみる。
みんな嬉しそうな笑顔であちこちを行き来している。
その手にはたくさんの購入品。きっといいものが手に入ったんだろう。
――っと。
気付く。サラが財布と睨めっこをしている。何かを買おうとしているのだろう。
そして、その様子見ていると、サラは早歩きで一軒の屋台に向かった。
後を追う。そこは、他でもない、クレープ屋だった。
店員「いらっしゃいませ。」
店員が挨拶をする。だが、その手は常に忙しそうにクレープの調理に取り掛かっている。
上手いもんだ、と感嘆する龍輝。
そして、サラを見ると、彼女は今度は店の看板と睨めっこをしていた。
財布を取り出し、交互に見比べる。そして。
サラ「はぁ……。」
大きく溜息。
サラ「やっぱり値段は変わってないか……。」
龍輝「どうした?」
サラ「なんでもないです、行きましょう。」
催促される。が、ここで龍輝はクレープを買うことにした。後々食べたくなるかもしれない。
そう思った。
龍輝「ちょっと待ってて。」
そういうと、店員にイチゴクレープを注文し、出来上がったものを包装してもらってサラの元に
戻る。
サラ「……。」
サラが何やらよく分からない視線をこっちに向けてくる。
龍輝「どうした?」
サラ「いえ、用事が終わったなら、行きましょう。」
そうしてクレープ屋から立ち去る。
サラの背中は、元気がないようにも見えた。
他にも、色々屋台を回ったのだが、サラの反応はほとんど同じ、龍輝がその先々で商品を買うと
やはり例の視線を向けられる。だが、龍輝には何が何やらさっぱりだった。
そして、街中を歩いている途中、サラがあまりにも元気がないので、龍輝は声を掛けてみる。
龍輝「なぁ、サラ。」
サラ「……どうしました?」
切なげな表情で振り向くサラ。なんというべきか、可哀想に見えた。
龍輝「ちょっとこっち。」
龍輝がサラの手を取り、引っ張って歩き始める。
そんな唐突な行動に、サラも動揺し、そして顔を赤くする。
サラ「あわわわわ……。」
連れてきたのはただのベンチ。人通りも少なく、それなりに休める場所である。
龍輝「サラ、なんかこっち来てから元気ないぞ?」
サラ「そ、そんなこと、ないです……。」
龍輝「嘘ばっかり。サラの感情なんて手に取るように分かっちまう。」
サラ「えぇっ……!」
龍輝の言葉を変に受け取り、また赤くなってしまう。
龍輝「うん?どした?」
サラ「い、いえっ、なんでも……。」
龍輝「?……まぁいいや。そんな顔してるサラと一緒に歩きたくないから、これ食って元気出せ
よ。きっと甘くておいしいぞ。」
そう言って、手荷物の中から最初に買ったクレープを取り出し、サラに差し出す。
だが、サラにも遠慮というか、プライドというものがあるのか、一向に受け取ろうとしない。
サラ「……いえっ!別にいいですっ!」
提言した時、一瞬嬉しそうな表情をつくったが、それはすぐに引っ込み、強い語調と共に拒否の
態度を繰り出した。どう見ても我慢してるようにしか思えないのだが。
龍輝「受け取ってくれないと、俺泣くぞ?」
サラ「泣いてる先輩見てみたいです。」
龍輝「……やっぱ泣かない。頼む、元気出してくれっ!」
サラ「しょ、しょうがないですね。そこまで言うなら、貰ってあげます。」
三度顔を赤くして龍輝からクレープを受け取る。
龍輝としては、話のペースを持っていかれた気がしたが、サラがクレープを食べて元気を出して
くれるのであれば本望だった。
サラ「本当にいいんですか?」
龍輝「ああ、遠慮なく食えよ。」
サラ「じゃあ、いただきます。」
ぱくり、とクレープに齧り付く。そして。
サラ「~~~~!」
輝くような幸せ顔。龍輝はこのような表情をサラから見られるとは思ってもみなかった。
そのギャップに、少しばかりどきりとしたのも事実である。
龍輝「う、美味いか?」
サラの笑顔に動揺した龍輝が訊ねる。
サラ「美味しいです~。」
そのままの笑顔で返事をしてくる。喜んでくれるのはありがたいが、その誰にも見せない笑顔を
俺なんかに見せてもいいのか、と思う龍輝である。
龍輝「そ、そうか……。」
苦笑しつつ、同じく街中で購入したビスケットを一口。少し時間は経ったが、まだできたての温
かさは残っている。
龍輝「あ、そうだ。ちょっとジュース買ってくるから、そこにいろよ。」
サラ「はぁい……。~~~~~!」
サラは相変わらずクレープで頬を緩めていた。
さて、一方ジュースを買いにベンチを離れた龍輝だったが、先程から気持ちが混乱していた。
龍輝「あれ、なんか……なんだろな?」
1人、問いかける。だが、答えるものはいない。
とりあえず、さっさとジュースを買ってサラの所に戻ろう。
オレンジジュースの入った紙コップを2つ、軽い足取りで運んでいった。
クレープを食べているときのサラは終始ふやけた表情だったが、学園島に帰った時に少しからか
ってみたところ、そんなことないですっ、と慌てて否定された。