7.休日はデートの日?(後編)

2012年10月28日 18:57
~杉並side~
 
「ふむ、こんなところか」
 
現在、風見学園にて、任務を遂行中。
クリパにて大花火を打ち上げるのだ。
今、そのために高坂まゆきの追跡を振り切るトラップ及びダミーの設置が終了したところだ。
 
「……っと」
 
なんだ、この妙な胸騒ぎは……?
 
「さては、同志の身に何かあったのか!?」
 
そうと決まれば。
 
「待っていろよMY同志桜内、弓月。今俺が盛大な祭りにして見せようぞ!」
 
おそらく奴らのことだから、朝倉姉妹を引き連れて商店街にショッピングをしているのだろう。
と、なると。
『非公式新聞部専用地下通路』を使い、最短ルートで商店街に急ぐ。
 
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~義之side~
 
後ろを振り返る。
4人。
まだ追ってきやがる。
 
……くっそ~、光雅があんなに煽らなければこんなことにはならなかったんじゃ?
 
「はぁっはぁっはぁ……!」
 
駄目だ!由夢がもう限界だ!
仕方ない。不本意だが杉並に頼るしかないか。
携帯を取り出し、アドレス帳から杉並の名前を選択。
 
「早くしてくれ……!」
 
3回コールでつながった。
 
「もしもし、こちら杉並。そちらは桜内だな。状況は我が非公式新聞部の情報網で分かっている。まぁ、俺に任せろ」
 
……なんでそんなことをチェックしてんだよ。
まぁいい。由夢が助かれば問題ない。
っと、前を見れば杉並がいた。
 
「どうだ?桜内、大人数に追われる気分は?」
 
「……最悪に決まってんだろ。俺はいいから由夢をなんとか!」
 
「安心しろ、この俺に不可能なことはほとんどない!とりあえず、そのまま走って次の交差点を右に曲がれ!」
 
「分かった!由夢、頑張れ!」
 
「はぁっはぁっ……は、はい……!」
 
言われたとおり右に曲がる。が……。
そこは行き止まりだった。
 
「杉並……てめぇ……!」
 
俺は絶望した。ここまでか。
だが、杉並は余裕そうな顔をしている。やはりこいつに頼ったのが失敗だったか?
 
「まぁ、そう早合点するなよ、桜内。っと」
 
男たちが来た。杉並の奴、何をするつもりだ?
 
「桜内、そこにマンホールがあるだろう。あそこに立ってろ」
 
「分かった」
 
指示通り、マンホールの上に立つ。
 
「これでいいか?」
 
振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
 
「うおい!!」
 
と叫んだ次の瞬間。
 
――ガシャン、ウィーーーーーーーーーーン、ガシャン。
 
みたいな音がたくさん。
見上げると。戦車の大砲みたいなものが建物の壁とか窓とかから生えていた。
 
「な、なんだぁ!?」
 
「なんだありゃ!?」
 
すると、その大砲から砲弾が打ち出された。
……マジかよ。やり過ぎだろ……。
その砲弾全ては、マンホールの上にいる俺に当たらないように発射されていることに気付いた。
ちなみに、砲弾の正体はスライムが中に入った水風船だった。
だが、猛スピードで飛んでくるそれは、当たるとものすごく痛い。
……ようだ。
 
「はぁ~っはっはっはっはぁ~!それ、避けろ避けろぉ!」
 
建物の上から杉並のサディスティックな高笑いが聞こえてくる。
 
「ちっ!ずらかるぞ!」
 
その合図とともに、全員その場から去っていった。
しばらくそこに立ち尽くしていると、杉並と由夢が姿を現した。
杉並はしてやったりという顔で。由夢は、そんな杉並をジト目で睨んでいた。
 
「楽しかったか?同志桜内。」
 
「楽しいわけあるか!……はぁ、まぁでも、助けてくれてありがとうな。」
 
「ありがとうございます」
 
由夢も俺に続いて礼を言うが、その表情は何とも不服そうだった。
確かにあんなやり方で助けられても、反応に困る。
 
「その内、俺に恩義を感じて非公式新聞部に入部するのを待っているぞ。はっはっはっはっは!」
 
そう言い残すと、杉並は颯爽と去っていった。
 
「……由夢、大丈夫か?」
 
「ええ、まぁ、大丈夫です」
 
辺りを見渡す。そこには、緑色のスライムや、色とりどりの水風船の残骸が散らばっていた。
 
「義之兄さん」
 
「ん?」
 
「この後、天枷さんに島の案内をする約束をしているので、ついて来てくださいね?ボディーガードとして」
 
なんかさらに面倒なことになってしまったな。
まぁ、あんなことがあった後に、女の子2人で街を歩かせるのも危険か。
 
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~光雅side~
 
……。
しばらくの沈黙。
野次馬がビビりながら事の様子を見物している。
 
――カチカチカチ。
 
5人全員が懐からカッターナイフを取り出し、刃を出した。
おそらく、自分の立場が危うくなったとき、アレを使って脅迫や威嚇をするのだろう。
残念ながら今回はそれを武器にするらしい。
後ろを振り返ると音姉が口元を両手で押さえて涙目になって怯えている。
……これはさっさと終わらせるべきかな。
1人の合図と同時に、2人の男が飛び掛ってきた。
 
「きゃあ!」
 
俺が襲われるのを見て、音姉が悲鳴をあげる。さらに野次馬からも悲鳴が。
1つは突き。後の2つは方向の違う払い。
先ほどと同様に、直撃する寸前でバックステップ、まずは一番右のロン毛を蹴飛ばしてやる。
派手に吹っ飛んで、野次馬どものそばに落下した。
2人目がカッターナイフを振り下ろすが、もちろん回避。それを持つ手の手首を掴んで、一気に捻り、合気道よろしく地面にねじ伏せる。その時手首の骨を軽く外しておくのは忘れない。
そのままのしゃがんだ態勢からバク転で残りの敵と距離を置き、様子を見る。
 
「ほら、逃がしてやるからさっさと行けよ。ったく、かったりぃ」
 
「くそっ!なめやがってぇ!」
 
頭に血が昇った奴ってのは状況判断能力が極端に低下する。
こいつらも例外ではなく、容赦なく俺に突っ込んでくる。
俺は息を深く吸い、そして。
 
「止まれぇええええええええええええええええええ!!!!!!」
 
大声で叫ぶ。
野郎どもは完全にビビってしまった。
 
「さてと、O☆HA☆NA☆SHIしようか」
 
その後、残りの5人も無理矢理引っ張り、正座させて、1時間にも及ぶ大説教が商店街のど真ん中で行われた。
 
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O☆HA☆NA☆SHIも終了して、気分もすっきりしたので、再びショッピングを再開。
音姉はやはりまだ怯えを拭い去りきれていないのか、俺の手を握って行動している。
……俺もUNI○LO行きたいし。
 
「……なぁ、音姉」
 
「うん?」
 
「引っ付きすぎじゃない?」
 
「そう?」
 
怯えているのは分かるが、そんな体まで密着させなくても……。
おかげで周りの目線がなんか殺意がこもってたり羨望の眼差しだったりで……。
まぁ、悪い気はしないんだけどな。
 
「音姉、どっか寄りたい所とかある?」
 
「ん~、アクセサリーショップに行きたいかな」
 
「どこにあるっけ?」
 
「あっちだよ♪」
 
音姉に腕を引っ張られる。
すると、すぐに小さなアクセサリーショップを見つけた。
音姉と中に入ろう……と思ったのだが、内装があまりにもファンシー過ぎて、入る気になれなかった。
 
「光くん、どうしたの?」
 
「……いやぁ、ちょっとな」
 
「早く入ろ♪」
 
「ん、ああ……」
 
俺は音姉の付き添いなんだ、俺は音姉の付き添いなんだ、俺は音姉の付き添いなんだ。
大事なことなんで3回言ったぞ。
音姉とショップの中を回っていると、見知った顔を見つけた。
小恋とななかだ。
 
「あー、光雅くん、発見!」
 
「へ?あ、本当だ。何で光雅がこんなところに?」
 
「ちょっと音姉の付き添いでさ」
 
何度も言うが、付き添いだぞ?
 
「ふ~ん、そんなこと言って、本当は光雅くんこういうの好きなんじゃない?」
 
「馬鹿言え、そんなことねぇよ」
 
「じゃあ音姫先輩は?」
 
「あっち」
 
ネックレス置き場のほうを指す。
そこにはルンルンな顔でアクセサリーを選んでいる音姉の姿があった。
 
「音姫先輩って、真面目なイメージが強いけど、やっぱり女の子なんだね。」
 
ななかにとっても、音姉のいつもの態度は生徒会長モードの印象が強いのだろう。
音姉を見る機会なんて、俺たちの学年では、俺の近くにいるか、生徒会役員にでもなっていなければ、そうそうないし。
 
「プライベートはあんなんだよ」
 
「そうだね」
 
「ねぇ、これから一緒に行動しない?」
 
「ん?」
 
「だって、人数多い方が、楽しいでしょ?」
 
「うん、まぁ、それはそれでありがたい提案なんだが、一応今日は『家族サービス』ってことだから、すまんな」
 
実質、音姉も俺と一緒にいたいようだ。
他人を巻き込んで音姉が不貞腐れるのも後で困る。
 
「いや、そういうことならいいよ。無理に誘って、ごめんね?」
 
そこで、音姉が声を掛けてきた。
 
「ねぇねぇ、光くーん、これ、どう?」
 
音姉はハート型のネックレスを下げて、にこにこしている。
 
「いいんじゃない?そうだ、それ、買ってやろうか?」
 
「ぅえ?いいの?」
 
「いいよ、そんくらい。今日はちょっと嫌な思いしたしな」
 
「本当?ありがとう!」
 
音姉が飛びついてくる。
 
「ああもう、だから、音姉、ストップ、ストップ」
 
「あ、あはは、ごめんね?」
 
「いや、別に謝るほどでもないんだけどさ」
 
うーん、この人には恥ずかしいとかそういったことは考えはないのかね……?
 
「音姫先輩、こんにちは」
 
「こんにちは~」
 
「こんにちは」
 
由夢みたいに外行きの態度に変わるわけではなく、プライベートモードのままだった。
顔がすごくふんにゃりしております、このお姉様。
 
「そうだ、音姉、もっと色々見て回りなよ。お気に入りのがあったら買うよ」
 
「うん!」
 
元気良く返事をしてとてとてと歩いていった。
 
「それにしても光雅くんって、本当に音姫先輩と仲いいよね~?」
 
「何、その面白そうなものを見る目は……?」
 
「べーつにー?」
 
……?
なんだ?
 
「うーん、えい!」
 
手を握られる。
 
「は?」
 
サイコメトリーのような能力を持っている人がいると、ちと厄介なので、初めてななかと会ったとき以来、心理プロテクトを軽くかけておいた。
本当にぼんやりとしか読み取れないだろう。
 
「うーん、なんでだろ」
 
「どうしたの?」
 
「なんでもなーい」
 
「?」
 
「それにしても、光雅くんって、音姫先輩のこと好きなの?」
 
「なんで今の流れでそうなる……」
 
「だって仲良すぎるんだもん」
 
「姉弟だから仕方ないだろ」
 
「本当にそれだけかな?」
 
上目遣いで瞳を覗かれる。
 
「な、なんだよ……」
 
「ふふふ」
 
「光くーん、やっぱりこれがいい♪」
 
「ん?ああ、それでいいんだな」
 
「うん♪」
 
なんか音姉、楽しそうだな。
 
「じゃあ、それちょっと貸して。」
 
音姉からハートのネックレスを受け取る。
800円、と別にそんなに高くはないが、音姉がつける分には申し分ない。
てか、音姉が嬉しそうな顔をすると、こっちまで嬉しくなっちまう。
レジで会計を済ませ、ななかと小恋に別れを告げて、UNI○LOに向かい、今日は帰った。
……ホント、色々ありすぎたよ。
帰宅後、帰ってきたさくらさんと、夜中の3時まで時代劇を見る羽目になった。