7.休日はデートの日?(前編)
2012年10月28日 18:56
12月18日
ここは……。
真っ白な空間。桜の花びらが舞っている。
ここは、どこだ……?
背後には、枯れない桜。
桜の花びらは、音もなく、ただ、しんしんと、舞っている。
視界が開けてくる。
視界に入ってきたのは、杏や茜、ななかに小恋、渉に杉並に義之、音姉に由夢、そして、さくらさん。
みんながいる。
あそこに行けば、みんなで笑い合える。
足を前に出す。
地面を踏みしめた次の瞬間。
そこにいたはずのみんながかすんで見えた。
「(待ってくれ、俺も、俺もそこに入れてくれよ!)」
叫びたかった。声にならなかった。
時間の経たないうちに、みんないなくなった。
「(どうして……)」
――異端者。
そう。俺はこの世界において異端者だった。
そこに1つ、人影が見えた。
こちらに歩み寄ってくる。
まだ遠い。
誰だろう。
次第に輪郭が見えてくる。
……あれは。
兄さん……?
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………………
…………
……
「……んん」
夢、を見たようだ。どんな夢だったっけ?
そういえば、しまったな、さくらさんと時代劇見る約束したんだっけ。
すっかり忘れてたぜ。怒られるかな?
今何時?時計を確認。
「……5時……20分……」
なんで休みだというのにこんなに早く目が覚めなければならないのか。
「……ちっくしょう……」
俺の心に火がついた。
こーなったら意地でも8時まで寝てやる・・・!
平日の習慣からの反逆。今、その戦いの火蓋は切って落とされた。
……のだが。
「……」
目を瞑ってスリープモードに入ってみたのだが、意識が飛ぶ気がしない。
仕方がない、起きるか。
平日の習慣に即服従することとなった。
朝っぱらから家の中をうろつくのはさくらさんや義之に迷惑なので、散歩でもしようかなと思った。
の前に、朝シャン。
風呂に向かう。
身に着けている衣服を全て脱ぎ捨て、浴室の戸を開け、中に入る。
前日から窓は開いているので、湿気が酷かったりする事はない。が、寒い。
「ううう、寒」
蛇口をひねると、シャワーから、欲しくもない冷水が噴出した。運悪く、右肩からそれを浴びてしまった。
「うわ、冷たっ!」
しまった、つい大声を上げちゃったじゃないか。さくらさんとか起こしてないかな?
しばらく放っておくと、シャワーから噴出される水から湯気が昇り始めた。
「そろそろか」
それを頭から浴びる。どうして水やお湯というものは、ここまで人の体と心を浄化してくれるのだろう。
……はは、ワカンネェや。
シャワーを浴び終えた後、適当な私服に着替え、家を出た。
向かう先はもちろんあそこ。
――枯れない桜。
桜並木を歩いている。こんな時間には人はいない。
真っ暗だし。
とぼとぼ歩いていると、いつの間にか目的地に到着していた。
目的地って英語でなんていうんだったか?
ここに来ると、全てが止まっているかのような感覚に襲われる。
だが、別に嫌いじゃない。
――現実に存在する夢の空間。
この場所は、いや、この初音島全体が既にそうなんだが、やはりこの場所だけは、その本質が見えてくるような気がした。
いつもどおり枝の1本に腰掛け、幹に体重を預ける。
風が吹き抜ける。
いつもと同じ。
何も変わらない。
そんな日常。
――対称。
非現実的な世界から来た俺。
非現実的な能力。
自己満足でしかない使命感。
「由姫さん、俺、大丈夫なんですかね?」
枯れない桜に問いかける、が、当然答えはない。
ふと、生き物の気配がしたので、下を見下ろす。
そこには、犬(?)がいた。
「あん!」
木から飛び降りる。
「なんだ、はりまお、ついてきてたのか?」
「あん、あん!」
……やっぱ俺じゃこいつの言葉は分からん。
さくらさんは分かってるようだけど。
「ほら、和菓子やるから、帰るぞ」
「あん!」
黍団子を与えると、機嫌よく俺の後ろをついてくるようになった。
あとは、猿と雉だけか。
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~音姫side~
いつもどおり、朝にさくらさんの家に行くと、、光くんは既に起きていた。
義くんも、朝食当番のため、台所に立っている。
由夢ちゃんは……。
「ふぁ~あ、眠~い……」
盛大なあくびを私の隣でしています。
「ほら、由夢ちゃん、しゃきっとしないと」
「だって、眠いもーん……」
ふぁあ~、ともう1回。
「朝食出来たぞ~」
義くんがお盆にバターを落としたトースト、ベーコンエッグ、レタスのサラダを運んできた。
いい匂い、そして、美味しそう。義くんも光くんも、料理上手だからね。
「光雅~、そろそろさくらさんよろしく」
「あいよ」
光くんがさくらさんを起こしに居間を去った。
遠くから声が聞こえてくる。
「さくらさーん、朝ですよ~」
「うにゅ~、おふぁよ~……」
いつもの風景をぼんやりと眺めていると――
「音姉、由夢、ぼーっとしてるなら手伝ってくれぇ……」
しまった。5人分の食器を全部居間に運び込むとなると、3往復は確実である。
「ごめんごめん、今行くからね」
「えぇ~、かったる~い」
「由夢ちゃん!」
「やだな、冗談ですってば。アハハ……」
そうして、朝の食卓をみんなで囲む。
「あ」
義くんが由夢ちゃんを見て声を上げる。
「どうしました?」
「いやぁ、珍しいこともあるんだなぁとな」
「そういやそうだな。いつもならジャージに眼鏡でかったる~い、なお前が今日は可愛い私服に着替えて準備万端だもんな」
確かに由夢ちゃんは普段からジャージに眼鏡が基本的な恰好だから、着替えているのを見るのは珍しいだろう。
「今日は空から剣が降るか、槍が降るか、どっちだろうな。」
剣とか槍とか振られたら、外出るのが大変じゃないかな?
そもそも、真夏に雪、とかならまだしも、武器って、相当馬鹿にされてるよ、由夢ちゃん。
「なんで朝っぱらから2人に馬鹿にされなければならないんですか?」
「だってなぁ……」
「今日は買い物に行くんだよ。光くんたちも来る?」
「う~ん……」
「なんていうか……」
「決め手に欠けるって言うか……」
食らいつきはよくない様子。
それにしても、この2人はなんて息ぴったりなんだろう。
「うわ、2人とも贅沢だね、両手に花状態だって言うのにさ」
「いや、だって、家族だし」
それはそうなんだけど……。
「それはそうだけど……」
妹と考えていたことが一致した。
「家族だっていいじゃない!一緒に行こうよ~!家族サービスは大事だよ~!」
「家族サービスって、俺たちは休日のお父さんですかい……」
残念ながら、2人ともお父さんみたいだよ?
……料理できるし、面倒見がいいし、優しいし、ちょっと抜けてるし。
うん、理想のお父さん。
「ま、私は2人が来ようが来まいが別にどっちでもいいですけど」
「ね?いこ?」
「にゃはは、じゃあボクは学園のお仕事があるから、そろそろ出るね?」
「あ、さくらさん、行ってらっしゃい」
「うん!行ってきまぁ~す!」
さくらさんが元気良く駆け出して行った。
「そうだなぁー、そろそろ新しい服もチェックしたいから、行こうかな」
「お前、行くの?……じゃあ、俺も1人でいるのは暇だから、行くか」
そうこなくっちゃ!
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~光雅side~
やってきました商店街。目的は好きなバンドのシングルの新作をチェック、それと、コーディネートのバリエーションを増やすためにUNI○LOに行く。
「んじゃ、俺は一旦CDショップに寄りたいから、音姉たちはブラブラしてきなよ」
「あ、俺も行く」
「うん、そうだね。じゃあ、用事終わったら連絡してね?」
「荷物持ち……」
由夢がなんか物騒なことを呟いたような気がしたが、うまく聞き取れなかった。
「ん?由夢、なんか言ったか?」
「や、なんでもないです」
義之が反応したが、由夢はしらを切ってしまった。
CDショップに立ち寄る。
ポ○ノグラフィティーやいきもの○かり、A○B48などの新曲や、古くからの名曲も並んでいる。
洋楽のコーナーに行く。実は俺、洋楽に最近ハマり始めたんだ。
好きなバンドの新曲はまだなようだったが、代わりに、知らないバンドのCDを購入。
店員に聞いたところ、なかなかのセンスのある曲なので、お勧めだとか。
義之はオレンジランチの新曲を購入。
1つ目の目的を終え、音姉に連絡を取ろうとする……のだが。
通路の反対側、俺から見て右の方向にそれらしき人物を発見。
……チンピラに絡まれているみたいだ。
なんで俺に関わる女の子はこうもチンピラに絡まれるんだ?
3対2。おいおい、情けないぜ?野郎ども。
「義之、ここで待ってろ」
「バーロー、あいつらの一大事を黙って見てられるかっての!」
「なら、さっさと片付けるか」
「おう」
合計5人の男女に歩み寄る。
「お~い、音姉、由夢。」
「あぁん?」
「なんだテメェら?」
「別になんだっていいだろうが……」
「義之兄さん、光雅兄さん……!」
「あぅう……」
音姉が怯えているようだったが、大丈夫そうだな。
「あのさ、そこ、邪魔なんだけど」
「お前らこそ邪魔すんなよ」
「あのさ、あまり暴力沙汰ってのは好まないからさ、穏便に済ませようと思うんだけど、話し合おうとか、そういう気はないか?」
「くっそ、面倒なことになったな」
「もしもし、あ、俺。今からちょっと商店街来てくんない?」
男1人が電話をし始めた。面倒なことになる前に、妨害しよう。
ズボンのポケットから10円玉を取り出し、でこピンでそいつの携帯めがけて弾く。
携帯を破壊できたが、場所は相手に伝わった。何人来る?
「おい!テメェ何しやがる!?」
「いや、増援がくるのもめんどいから、その前にぶっ壊そうと思ったんだが、遅かったな」
「そうだな、これからダチが10人くらい来るんだけど、遊ばれたくなかったらさっさと土下座でもしなよ」
「だからさ、こっちは話し合いをしようぜ、って言ってんだけど、日本語分かんなかった?」
「おいおい、あんまし煽るなよ、俺、10人来たらどうしようもないぜ?」
「安心しろ、俺が合図したら、由夢をつれて走れ。どうしても危なくなったら、杉並を使え。あいつなら何とかしてくれるだろ」
「わかった」
「おい、何コソコソしてんだぁ?」
1人歩み寄ってきた。さて、脱獄ショーの始まりだッ!
俺はその男の首の裏を掴み、左足で踵を払う。
「うわっ!?」
男が盛大に倒れる。
他の2人があっけに取られている。
「義之、走れ!」
「おう!行くぞ、由夢!」
義之が由夢の手を引っ張って商店街を走って去っていった。
「チックショウ、舐めた真似しやがって……!」
明らかに男たちの怒りがマックスに近づいてきた。
「さて、話し合いじゃどうにもならないようだからさ、O☆HA☆NA☆SHIでどうにかするしかないよな。戦闘というオプションつきで。こういうの好きなんだろ?」
「ヘヘヘ、こいつバカじゃねぇの?3対1だってのに余裕だぜ?」
「音姉、下がってろよ……。大丈夫、正当防衛で済ますよ」
「う……うん」
その時、周りから悲鳴が聞こえてきた。義之が逃げた方向と逆からだ。
……増援が来たか。
5人。人数が予定より少ない。まさか、義之たちの方に人数を割いたか?
まぁいい、あっちはあっちで上手くやるだろ。
8対1。
人数だけ見たらかなり不利だろう。だが、勝負で必要なのは量より質だぜ?
「くたばれ、クソが!」
拳が飛んでくる。だが、素人の拳。見切るのは難しくない。
回避するとそのまま音姉のところに行きかねないので、回避した後その腕を掴み、背負い投げで地面に叩きつける。
「O☆HA☆NA☆SHIがあるんだから、まだくたばるなよ?」
「なめやがって!」
「死ね!」
2人同時に掛かってくる。右の奴は右ストレート、頭部を狙っている。左の奴は右の頬に向かってフック。
……ついに一度言ってみたかった台詞を言うときが来たぜ!
拳が繰り出される寸前で身を屈め、左の奴に足払いをかます。
「足元がお留守だぜ?」
やった!言えた!
その後今の態勢のばねを利用し、地面を蹴って鳩尾に肘を入れる。
ステップで1歩後ろに下がり、音姉の身の安全とに残りの敵の配置を確認。
俺と音姉は店の壁を背後にとって、敵5人は俺達を取り囲むような配置をしている。
純一さんや由夢ではないが――
「……かったる」
つい言ってしまった。