7.音楽室の気さくなアイドル

2012年10月28日 17:27
~ななかside~
 
私の名前は白河(しらかわ)ななか。軽音楽部の小恋と板橋くんのバンドのヘルプでボーカルをしてるよ♪でも、人前で歌うのはちょっと苦手なんだ……。
自分で言うのもちょっとアレなんだけど、私、たくさんの男の子に人気があります。でも、そのほとんどが、まるで、私が神であるかのように勝手に私のキャラをイメージしたり、下心だけで私に接近したりと、あんまり気持ちよくないかな。
そして今日も。
 
「なぁなぁ、今から俺たちと一緒に遊ぼうよ」
 
昼休みに廊下を歩いていると、男子生徒4人くらいにナンパされちゃってます。
 
「別に悪いようにはしないからさぁ」
 
「そうそう、ちょっと遊ぶだけだって」
 
「ああもう!めんどくせぇからさっさと連れてこーぜ?」
 
「そうだな!そら、こっち来いよ!」
 
生徒の1人が私の手を握る。
 
「(さっさと人気のないところに連れ出して4人でヤッちまおうぜ?)」
 
1人の生徒の心が読めてしまう。いやだ!このまま連れて行かれたら……!
 
「いやっ!離して!」
 
それだけはだめだと思い、私は逃げようとしてもがいた。
 
「あんまり暴れんじゃねぇよ!」
 
抵抗むなしく、そのまま私は焼却場に連れて行かれた。
 
「さぁて、どうしちまおうか?」
 
「服脱がそうぜ。おいお前ら、腕押さえろ」
 
「「おう」」
 
完全に拘束されてしまった。だれか助けて!
 
「おっと、そこまでだ。」
 
~光雅side~
 
『ふっ、お前の財布は焼却炉の近くに隠しておいた。場所を教えてほしくば、非公式新聞部に協力するがいい!』
 
何のつもりか知らないが、杉並に妙な事を言われてポケットを探ったら、本当に財布がなくなっていた。
 
「ったく、面倒なことさせやがって……」
 
杉並に財布を盗まれた昼休み、俺は昼飯も食えずに昇降口から外に出ていた。
 
「腹減ったなぁ~……」
 
焼却炉に向かっている途中、5人くらいの人影が見えた。
会話はあんまりはっきり聞こえないが、やばそうだな。
 
「行ってみるか」
 
焼却炉に行ってみると、女の子が男4人に襲われているみたいだった。
男2人が女の子を押さえつけ始める。こいつは拙いな。
 
「おっと、そこまでだ」
 
「……え?」
 
抑えられていたのは、ピンク色の紙を左右にツインテールで分けた、可愛らしい少女。
学園でも有名で、なんでも『アイドル』だとか称されてる人だ。
 
「何しに来た?」
 
男子生徒にゴミを見るような目で見られる。
 
「財布捜すついでに女の子を助けに来た」
 
本当のことを言ってやった。
 
「助けに来た、だってよ!ははははは!ヒーローでも気取ってんの?」
 
「こいつ潰しちまおうぜ?ご褒美前の運動ってな」
 
「そいつはいいアイデアだな。やるか」
 
野郎2人が懐からナイフを取り出し、突進してきた。
 
~ななかside~
 
うそ、ナイフ!?駄目だよ!拙いよ!あの人、死んじゃうよ!
 
「「うおおおおおおおおおお!」」
 
「はぁ~、メンドクセェ……」
 
あれ?この台詞、どこかで聞いたような……。
ヒーローさんは2人の攻撃を簡単にかわすと同時に2人の手からナイフを奪い取った。
その際に手刀で後頭部を叩き、地面に伏せさせた。
 
「す、すごい……」
 
私の腕を掴んでいた1人が近くに落ちていた鉄パイプを拾い、振り回す。
その人が鉄パイプを振り上げ、ヒーローさんの頭上めがけて振り下ろした。
 
「危ない!」
 
怖くて目を瞑った。でも、悲鳴は聞こえてこなかったし、殴られるような音もなかった。
恐る恐る目を開けると、ヒーローさんの手も鉄パイプを握っていた。
次の瞬間、ヒーローさんの目が青くなった。生徒はそこに倒れてしまった。気絶したらしい。
私は、あの瞳を知っている。あれは、たしか、7年くらい前のファミレスでの事件で……。
あの人、この学校にいたんだぁ~……。
 
「ちっ!お前、ちょっとこっち来い!」
 
私はまた引っ張られている。後ろを振り返ると、ヒーローさんは石ころを器用に足で蹴り上げて操っていた。
 
「ほらよっ、と!」
 
その石ころを思いっきり蹴飛ばす。石ころはカーブを描き、そのまま最後の生徒の背中に当たった。
その生徒も気絶したらしい。
 
「大丈夫か?」
 
ヒーローさんが近づいてくる。その瞳はもう紫色に戻っていた。
 
「えと、うん、ありがとう」
 
近くで見ても、ますますカッコいい。
 
「ここで逢ったのも何かの縁だな。俺は弓月光雅。よろしくな」
 
その笑顔は、本当に自然で、優しいものだった。
あの時の彼と同じで、頼もしく思ってしまった。
 
「よ、よろしく……」
 
「えっと、白河さん、だっけ?」
 
なんか、ファーストネームで呼んでほしいな。というわけで……
 
「ななか」
 
「へ?あ、いや、いきなりそれは……」
 
「な・な・か」
 
「うーん、それじゃ、ななか」
 
「はい、よくできました!」
 
正直、ちょっとドキリとした。
私のことを名前で呼んでくれるのは、今のところ親友1人だけ。
2人目が、男の子って、なんだか照れる。
 
「でもまぁ、ななかって良くも悪くもほんとに人気だよな」
 
「うん。でも、あんまりいいものじゃないよ」
 
――ぐぅ~。
 
2人のおなかが鳴る。
 
「おなか、すいちゃったね」
 
「そうだな、って、ああ!」
 
「あ、財布捜してるって言ってたっけ」
 
あたりをきょろきょろしてみる。あった。
 
「あれじゃない?」
 
草むらを指差す。
 
「……杉並め、あれじゃ誰かにとられたらどうすんだよ」
 
「今日、どこか近くで食べない?私、奢っちゃうよ?」
 
「いや、別に奢らなくていいって」
 
「私が奢りたいの」
 
「そっか。じゃあその分たっぷり楽しもっかな」
 
「うん!」
 
軽いデート気分。でもその前に。
 
「放課後、音楽室に来て」
 
「音楽室?」
 
「うん、歌を聴いてほしいんだ」
 
光雅くんには、聞かせてあげたい。
私の歌を、聞いてほしい。
きっと、純粋に評価してくれるだろう、そう思った。
 
「そいつはいいな。是非行かせてもらうよ」
 
そして、私は光雅くんと近くのお店でランチをとったのでした♪
 
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~光雅side~
 
「あ~、終わった終わったぁ~」
 
今日は掃除当番。放課後に焼却炉までごみを捨てに行って帰ってきたところ。
 
「こっち終わったから先帰るな。みんなお疲れ」
 
「お疲れさん」
 
「お疲れ」
 
クラスメイトのねぎらいの声を背に受けながら荷物を持って教室から出る。
そういや放課後に音楽室に行く約束をしてたっけ。
 
「行くか」
 
音楽室は特別教棟。
ちょっと急ぎ足で向かう。
 
「まよいな~が~らき~も~ち~のい~ば~しょ~を~さ~がし~てた~♪」
 
誰かが歌っている。ななかか。
音楽室の扉が開いていた。
中を覗くと、やはり歌っているのはななかだった。
 
「このてを~のば~し~て~♪」
 
うまいもんだな。あのルックスでこの歌声だと、そりゃまぁ人気にもなるな。
 
「まちわび~たせ……って、あ!光雅くん!」
 
「よ」
 
「来てくれたんだね」
 
「当たり前だろ?約束したんだから」
 
「そっか」
 
ななかが嬉しそうに頬を染める。
 
「それにしても、歌うまいな。聞き惚れちまったよ」
 
俺の素直な感想。
プロだって狙えるんじゃないか?
 
「ほんとにそう思ってる?」
 
「ああ」
 
「それじゃ、えい!」
 
ななかが俺の手を握る。
 
「えと、何これ?」
 
「握手だよ。これからもよろしくねって」
 
「ああ、そうか」
 
ななかが手を離す。
今少し感じたのだが、この娘は人の心が読めるみたいだ。気をつけないとな。
 
「ありがと」
 
「ど、どういたしまして?」
 
突然脈絡のないお礼に、思わず疑問形になってしまった。
 
「私ね、学校でそうやって面と向かって褒められたことがないの」
 
「え、そうなの?」
 
これは意外なカミングアウトだった。
ななかは誰にでも褒められるような素質があるような気がしたからだ。
 
「みんな、勝手に私の像をイメージしちゃうから、それくらいできて当然みたいになってるんだよ」
 
「そいつは気が重いな」
 
なるほど、みんなが勝手にハードルを上げて、ななか自身がそれについていけなくなっているのか。
 
「うん。だから、そうやって褒められると、すごく嬉しい!」
 
「そっか」
 
――がらがらがら。
 
音楽室の扉が開く。
 
「あれ、光雅?」
 
「光雅どうしたの?こんなところで?」
 
渉と小恋だ。
 
「遅いぞ、小恋!」
 
「わぁ!ななか!」
 
「小恋とななかって友達なのか?」
 
「うん、そうだよ。」
 
「表面上はね♪」
 
「ふぇ!?」
 
「うそだよん。小恋らぶ~♪」
 
「ちょ、ななか、やめてよ~」
 
ななかも小恋も楽しそうで。
どうやら小恋はななかにとって数少ない心の許せる友人なのかもしれない。
 
「で、どした?音楽室になんか用か?」
 
渉が、俺がここにいるのを疑問に思ったのか、俺に訊いてくる。
 
「いや、ななかに呼ばれた」
 
「……な、ななか……?なんで、お前、ファーストネームで……?」
 
「ななかがそう呼べって」
 
ななかはにこにこしている。
 
「ちくしょー!何でいっつもこいつらばっかり!」
 
「そんなことは今はどうでもいいでしょ。そんなことより――」
 
――がらがらがら。
 
また扉が開き、何人か生徒が入ってくる。
 
「わ、やば」
 
ななかが俺の背中に隠れる。
 
「「「……」」」
 
「どうした?」
 
「しー」
 
ななかが、俺に何もしゃべらないように、ジェスチャーで伝えてくる。
 
「白河さん、発見しました」
 
生徒がななかを発見すると、指さしてそう言った。
 
「あちゃー」
 
「へ?」
 
「じゃ、小恋、私、光雅くんと一緒に帰るね~♪」
 
「ちょ、ななか~!」
 
「行くよ、光雅くん!」
 
ななかが手を引っ張る。
何が起こっているのか分からなかった。
 
「ちょ、ななか!」
 
「逃げるよっ!」
 
そのままななかと一緒に音楽室を出た。
背後から生徒数人が追ってくる。
 
「ちょ、ななか、こりゃいったいどういうことだ?」
 
「説明は後~♪今はとにかく逃げるよ!」
 
「お、おう……」
 
逃げる事には逃げるが、所詮ななかも素人。人数が増えると簡単に包囲されてしまう。案の定――
 
「囲まれちゃったね……」
 
「そうだな」
 
「どうしよっか」
 
そう聞かれたので、俺は窓の外を指差してやった。
 
「ん」
 
「……へ?」
 
そりゃそんな反応をするだろう。ここは学校の3階。飛び降りたりしたら常人なら大怪我である。でもな……
 
「しっかり掴まってろよ!」
 
そういうなり、ななかを抱え込んでやる。お姫様抱っこってヤツだ。
 
「え!?ちょっ!」
 
「そら!」
 
中央の中庭上空の吹き抜けを某青いハリネズミが如く壁を駆けて降りていく。
 
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~!」
 
地面から2メートル程で着地。よっしゃ、上出来。
 
「す……凄い……」
 
上からも歓声やら悲鳴やら怒号(?)やらが聞こえてくる。
 
「す、すげぇ」
 
「逃げられましたね」
 
「よくも俺の白河さんを……!」
 
……。
何も言うまい。
 
「さて、どうするか」
 
「帰ろ?」
 
「そうだな」
 
校門へと歩いていく。手は繋いだままだった。
 
「実はね、わたしね、光雅くんに逢ったことがあるんだよ」
 
「え?初対面じゃなかったか?」
 
「7年くらい前かな」
 
「7年前?」
 
そのくらいの出来事を思い出してみるが、これと言ってこの人と出会った記憶はない。
 
「わたしね、ファミレス強盗の人質さん」
 
え?……うそ……!?あの時の!?
 
「え、いや、あの時は、そのぉ……」
 
やべ、なんかテンパってきた!
 
「なんでそんなにテンパるの?」
 
「それはその、なんて言うか……」
 
俺も分からん。
 
「ふふ。あの時は、ホントにありがとうございました!」
 
ななかが満面の笑みを浮かべる。
俺も笑顔だった。
2人で桜舞う並木を歩いていった。