8.夏の海、交わらない思い(後編)

2012年10月28日 17:29
海でこれでもかというくらい遊びまくり、みんなへとへとに疲れて、近くの旅館に帰ってきた。
帰ってきた、というのも、いったん海で遊ぶ前に荷物は旅館においてきたのである。
 
「ふぃ~、疲れたね~」
 
「さくらさんはしゃぎすぎですよ。砂浜で何回転びました?」
 
「にゃはは、ボクだって童心くらいは常に持っているのさ♪ちょっとくらい羽目はずしたっていいじゃん♪」
 
「さ、支度を済ませたらお風呂よ。ここのお風呂は男女混浴の露天風呂だから」
 
「うおっ、マジで!?」
渉が杏の解説に身を乗り出す。
渉、お前、午前中痛い目にあったばっかだろ……。
 
「という反応を示すケダモノもいるけど、内からロックが掛けられるようになってるから」
 
「それなら、男女で時間差で入ろうぜ」
 
と、俺は提案してみる。
 
「そうね」
 
「じゃあ、女子先に入りなよ。俺たちは後でいいから。みんなもそれでいいだろ?」
 
「ああ」
 
「まぁな。(チッ)」
 
「じゃあ、女の子たちは早く支度してお風呂にはいろー!」
 
女性陣が返事する。さくらさんが先導しつつ、みんな自分の部屋に戻る。
ちなみに、部屋割は、義之と渉、杉並は別の宿に移っているため、俺は1人部屋。小恋はななかと、杏は茜と、さくらさんと音姉と由夢、といった感じになっている。
廊下からみんなの話し声が聞こえてくる。お風呂に向かうのだろう。話し声は遠くに行ってしまった。
義之らの部屋に行くか。
部屋を出て、隣の部屋に向かう。部屋の番号は233。俺の部屋は232。ドアをノックする。
 
「は~い」
 
――がちゃ。
 
鍵が開く。
 
「お邪魔しま~す」
 
「お、待ってたぜ」
 
部屋のつくりは、俺の部屋よりチョイ広い。
 
「何してんだ?」
 
「ああ、暇つぶしにポーカーをな」
 
義之が自分の持っているカードを掲げて説明する。
 
「俺も入れてくれないか?」
 
「あったりめーよ!」
 
それから3人でポーカーをして時間を潰し、女の子と交代で風呂に入り、晩飯を食べた。
その後。
 
~音姫side~
 
はぁ~、今日はちょっと疲れちゃったな。光くん、1人部屋だけど、今頃何してるのかな。ちょっと覗きに行こう。
 
「ちょっと私ジュース買ってくるね」
 
「うん」
 
「いってらっしゃ~い」
 
廊下に出る。
 
ロビーに向かう廊下を歩く。右を向けば232号室。光くんの部屋。
ドアの前に立つ。
ノックをしようとして――
 
――やめた。
 
「ジュース買いにいこ……」
 
ロビーの自販機に向かう。その時――
 
「あ!ちょっとそこのキミ!」
 
「私、ですか?」
 
「うん、キミ。あの、キミが落し物をしたのを見たんだけど、それ拾って渡そうとしたらもういなかったからね。一応俺たちの部屋に保管してあるから、取りに来てくれる?」
 
「え?あ、はい、分かりました……」
 
落し物なんてしたっけ……?
二人の後を歩く。別に何かを企んでいる素振りはない。
 
「ここ、ここ」
 
237号室。ドアのロックに認証キーをあて、鍵を開ける。
 
「ささ、入った入った。」
 
「い、いえ、ここで待ってます」
 
拙い。この人たち、何か危ない!
少し後ずさる。
 
「ちっ!さっさと入った!」
 
腕をとられる。
 
「きゃっ!は、放して!」
 
室内に引っ張られる。
 
――ばたん!
 
完全に外から遮断されてしまった。
光くん……助けて……!
 
~光雅side~
 
すっかり静かになっちまったな。昼間はあれだけ騒がしかったのにな。
 
「……」
 
ちょうど小説を1冊読み終えたところだ。長編ミステリー小説だった。結構長かったが、なかなか面白かった。音姉じゃないけど、後何冊か小説もって来るべきだったか?
 
「行くか」
 
音姉達の部屋の前。迷わずノックする。
 
「は~い」
 
「俺です。光雅です」
 
しばらくして、ドアが開く。
ひょっこり顔を出したのは、さくらさんだった。
 
「光雅くん、どうしたの?」
 
「いや、音姉に用があって」
 
「むっ、デートのお誘いにでも来たの?」
 
さくらさんがむくれる。
 
「そうじゃなくて、持ってきた小説読み終わって暇なんで、音姉の借りようと思って」
 
「な~んだ。音姫ちゃんなら、ジュース買いに行ったよ」
 
「そうですか。ちょっと散歩がてらに行ってきます」
 
「いってらっしゃ~い」
 
廊下を行き、階段を下りて、ロビーに出る。
辺りを見渡すが、音姉の姿は見当たらない。
 
「入れ違いになったか?」
 
反対側の階段から上がる。上がりきって廊下を見た瞬間、人が部屋に入っていくのが見えた。距離的に237号室か?
再びさくらさんの部屋のドアをノックする。
 
「音姉います?」
 
「まだ帰ってませんよ?」
 
由夢から返事が返ってきた。
……あれ?
嫌な予感がする。音姉はどこに?
心当たり。そんなものはな……
いや、あった。
237号室。
あそこは確か男性2人の部屋だったはず。しかし、あの部屋に入っていったのは女の人だった。
 
「まさか……!」
 
237号室の前へ。
耳をドアに当てる。
 
「ちょ……!放してください!」
 
「おい!暴れんじゃねぇ!」
 
間違いない!音姉だ!早く助けないと!
鍵を壊すわけにはいかないし、受付までマスターキーのようなものを取りに行く時間も無い!
 
「≪能力束縛(パワーオフ)≫!」
 
俺の能力の1つでロック機能を一時的に無力化する。
 
――がちゃ。
 
ドアを開け、中に入る。
 
「だ、誰だお前!?」
 
「光……くん……?」
 
「音姉、もう大丈夫だ」
 
「まぁ慌てんなって、そいつは動けねぇよ。なんせこいつが死ぬほど大事らしいからな」
 
この男、ゲスな笑みを浮かべている。
完全に優位になったことを自覚している顔。
 
「……」
 
悪いやつとはいえ、一般人相手に魔法を使うわけには行かない。≪能力束縛(パワーオフ)≫は、使用対象に、この状況で、俺にとって危険なものがないため、発動できない。暴力沙汰は、みんなに迷惑が掛かる。
俺にできることは――
 
――何もなかった。
 
「そうだな、さぁて、このクソガキどうすっかなぁ~♪」
 
男が1人俺の眼前に立つ。
次の瞬間、俺は派手に後ろに吹っ飛んだ。
殴られたのだ。
右の頬が痛い。だが、音姉を守ってやれない無力さを実感するほうがもっと痛い。
 
「さーて、煮るなり焼くなり好きにさせてもらおうか!」
 
右足を引く。その足が猛スピードで迫ってきた。
腹を蹴られる。
 
「ぐふっ……」
 
「いやっ!光くん!」
 
音姉が暴れているらしい。
目を開ける。その時――
 
「うるせぇ!おとなしくしやがれ!」
 
「――っ!?」
 
音姉が声にならない悲鳴を上げた。
 
音姉が……攻撃された……?
 
「……」
 
その時、俺の中の何かが吹っ切れた。
 
≪魔術創造(マジカルクリエイト)≫。≪幻想空間(ヴィジョンスクエア)≫。
 
立ち上がる。
もう慈悲なんて言葉は俺の頭ン中にはないぜ。
何が俺を突き動かす?
 
……2人まとめて潰してやる……!
 
気がつけば、俺たちは何もない、ただ真っ白な空間にいた。
≪幻想空間(ヴィジョンスクエア)≫、それは、俺が魔法の実験及び修正などを行うための空間。
ここでは生命力が通常の10倍となり、意識を失うことがなくなる。
そこに、俺と既に気を失っている音姉、そして野郎2人を連れ込んだ。
 
「ちょ、こ、ここは、どこだ!?」
 
「何が起こってやがる!?」
 
音姉は、移動の際に俺の隣に移しておいた。
 
「音姉、ごめんな……」
 
そうして、男2人に視線を向ける。右眼は紫、左眼は真紅。
 
「お前ら、自分がほしい武器を自由に想像(創造)しろ。この空間では、思った物を出すことができる」
 
男2人の両手にはそれぞれ何らかの連射性のある銃が握られていた。
 
「ちなみに、ここで命を落とせば、現実世界において、完全にその存在が消去される」
 
「だったら、消えるのはお前だぜ?」
 
「行くぜ!」
 
4つの銃口が向けられる。次の瞬間、無数の弾丸が向かってきた。
 
「≪蓄積反射(ストック&リターン)≫!」
 
≪蓄積反射(ストック&リターン)≫、飛び道具などを周辺に停止させ、任意のタイミングで相手に倍の威力で返す防御と攻撃を兼ね添えた魔法。
半透明の半球が俺と音姉を包む。
そして、その半球に触れたところで、銃弾がストップした。
 
「ど、どうなってやがる!?」
 
「反撃開始(リバースト)」
 
全ての弾丸がひとつ残らず2人の体を撃ち抜く。
 
「「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」」
 
「双牙如流大河(大河の流れるが如く二振りの剣を)」
 
右手には中国最大の川をイメージして作られた聖剣『黄河』、左手には赤壁の大戦において、大量の血が流れたとされる川の魔力を秘めた魔剣『長江』。
 
「そろそろ終わりにしようか」
 
「く、くそ!」
 
再び発砲。だが、俺には当たらない。双剣の生み出す濁流が、弾丸を流す。
 
「死ね」
 
聖なる牙が、男を貫いた。その瞬間、その男は、“消滅した”。
 
「て、てめぇ!!」
 
ったく、何度やっても同じだっての。
『長江』を魔力を籠めて水平に振る。
剣の軌道から、血のように赤い濁流があらわれ、男にむかう。
 
「ひっ!?やだ!!」
 
濁流が男を飲み込んだ。また1人、“消えた”。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
~音姫side~
 
………………
 
…………
 
……
 
……ん、んん。
 
目が覚める。辺りは真っ白だった。ここは?
意識がはっきりとしてきて、光くんがそこにいるのが分かった。
光くんは、なんだか悲しそうな顔をしていた。
記憶を辿る。
たしか、男の人2人に襲われかけたところを、光くんが助けに来て、でも、私のせいで光くんは何もできなくて。そこからは分からなかった。
光くんに意識を戻すと、辺りは既に元の部屋に戻っていた。
 
「光くん……」
 
「音姉、大丈夫か?」
 
「うん」
 
光くんは、笑っていた。でも、なんだか無理をしているように見えた。
 
「ねぇ、光くん」
 
「ん?」
 
「今日は、一緒にいて、いい?」
 
私は怖かった、1人でいるのが。そして、光くんも1人だった。だから。
 
「ああ」
 
その部屋を後にした。
 
……。
 
光くんの部屋。
 
「ねぇ、光くん」
 
「どうした?」
 
あの部屋で、何があったのか。
 
「さっきのこと、なんだけどね……」
 
「……」
 
「魔法を、使ったの?」
 
「……」
 
沈黙。でも、光くんは肯定していた。
 
「あの2人を、消しちゃったんだ」
 
「……」
 
光くんの背中に、悲しみの色が強くなった。
光くんの正面に回る。
 
「私は、赦してあげるよ」
 
光くんが震え始めた。
 
「この世界で、決して赦されることじゃないかもしれないけど……」
 
「光くんは、私が赦してあげるよ。だって……」
 
だって。
 
「私の“大切な人”だもん」
 
「うっ……」
 
光くんが涙を流す。初めて逢ってから、一度も見たことがなかった光くんの涙。
 
「……」
 
光くんが私に両手を伸ばす。そのまま、私を抱き寄せた。
 
「うっ……うぅっ……」
 
嗚咽が漏れる。
光くんの宿命は、ちっぽけなものじゃなかった。
家に来てからおよそ10年、ずっと、辛い思いをしていたんだろう。本人は、それに自分で気付いていなかった。
 
「大丈夫。大丈夫だから……」
 
私の想い人の、救いになりたい。
 
「……俺は、俺は、必ずみんなを守るから……」
 
もう一度、吐き出すように。
 
「音姉を、守るから……」
 
光くんは、ずっと、泣いていた。