9.『最強』、接触の理由

2013年11月05日 23:05
「えええぇぇぇえええええええええええええええええええ!?」
 
そこにいたのは、紛れもなく、クリパの前に俺と接触した、帯刀女だった。
 
「えっと、そんなに驚かれましても……」
 
ただ、服装は、どこかの学校の制服のようだった。
 
「そういや、お前らはこれで2度目だよな?」
 
「はい、ロイ先輩」
 
どうやら、この2人は先輩後輩の関係なようだ。
そ、それはいいんだが。
 
「何しに来やがった!?」
 
「あ、いえ、今回は何も」
 
「うーん、なんか話の食い違いがありそうだな」
 
「食い違い?」
 
その時のことをロイは詳しく話した。
まず、本来の『任務』は警告のために軽く牽制を掛ける意味も込めての接触だったこと。
というのも、とある問題の解決に向けて、この初音島で調査を行っていたところ、俺みたいな特殊な魔法使いがいるということで接触。そして彼女たちは俺が枯れない桜に関わる者であることを知った上で、例の忠告をしたのだという。
この帯刀女は戦闘になると気分がマジになるので、挑発なのかはなからやる気なのか、全く差が分からないということ。
だが、結局その時の俺の状況が状況で、1度たりとも魔法を使わずに戦闘が終わってしまったため、俺の実力を図りきることも出来なかったため撤退。
もう少し様子見ということになったのだそうだ。
そして、俺が転生者であることは知らないらしく、俺がプロの魔法使いでも知らないような魔法を使用することを知っていたために警戒していただけだった。
何この茶番?
 
「あの時は申し訳ありませんでした……」
 
「え、ああ、いや、終わったことだから別にいいんだけど、名前は?」
 
「優香です。紅葉優香(こうようゆうか)です」
 
「こいつは俺と同じでロンドンの魔法学校の生徒で、俺が本科3年、こいつが2年なんだ。それと、俺は最高ランクに指定されているんだけど、こいつはその1つ下。魔法使いとしては優秀な部類に入る」
 
「ロイ先輩の助手(サポーター)をやらせてもらってます」
 
優香はそういうとにっこり微笑んだ。
 
「そうは言っても、戦闘という概念から外れりゃ、俺なんか簡単に追い抜けるんだぜ?すげーだろ」
 
「自分のことのように言わないでください」
 
「へいへい。さて――どうして今回俺たちがお前に接触したかって言うとな――」
 
ロイが真剣な面持ちになって話す。
その真相はこうだ。
以前も優香が言っていたように、この次元を破滅させようとする者がいるのは間違いない。
そして、その仲間が初音島にて行動を起こしたこと。
その仲間こそが、佐久間英嗣。
そして、ことの首謀者、通称『ドラゴン』は、状況から鑑みて、恐らく初音島を拠点として活動する可能性が高い。
そこで、枯れない桜、そして正体不明の魔法を知るこの俺、弓月光雅にその旨を知らせ、状況を把握してもらった上で、『ドラゴン』の計画を阻止し、世界の安全を維持して欲しい、とのこと。
 
「というのも、その『ドラゴン』とやらも正体不明の魔法を使うみたいのさ」
 
「なるほど、胡散臭い奴相手には胡散臭い奴をぶつけろってか」
 
「言い方を悪くすればそうなりますかね。これは上からの指示ですし、それに――」
 
優香が、少し言いよどんで、それでも続きを言葉にした。
 
「それに、あなたにはもうあの時のような迷いはなさそうですからね。先程のロイ先輩との戦闘を拝見しました。私ではもう及びませんね。あなたなら、きっと『ドラゴン』を止めることができるでしょうから」
 
そりゃ、俺はもう決めたからな。
俺は、ここにいるみんなを守るために自分の力を使うと。
その時、ペンションの方から誰かが来る音がした。
周囲の風景に、茜やななか、美夏たちが驚いている。
そりゃ、あれだけ派手に荒らしたりしたら吃驚するのも無理ないだろ。
 
「おい光雅、これ一体どうした……って」
 
「ういーす」
 
初対面の人間相手に、馴れ馴れしく手を上げて挨拶をするロイ。
本場の魔法使いは、レベルが上がるに比例して態度もこうなるのだろうか?
 
「こ、光くん、この方たちは?」
 
「う、うーん……、なんていうべきか。なぁ、もう言っていいか?」
 
「構いません。あなたのことも、皆さんは知ってらっしゃるようですし」
 
「それじゃ。こいつらはな、さっきバトって意気投合して友達になった、ロイ・シュレイドと、その後輩の紅葉優香だ」
 
「よろしくな」
 
「以後、お見知りおきを」
 
俺の紹介に、2人が優雅に挨拶をする。
ヨーロッパ暮らしの人間の挨拶って、品があるな。
 
「それでなんだけど、2人とも魔法学校の生徒で、ロイが3年で先輩、優香が2年で後輩だ。魔法については超一流、2人にはそれぞれ優秀な者に与えられるランクが与えられているんだ」
 
ぽかーん。
みんなついてきてなかった。
俺、悲しくなっちゃう。
 
「なぁなぁ、それにしてもさ……」
 
「うん?」
 
「なんでお前こんなにたくさんの美少女に囲まれて生活してんだよっ!?」
 
「はぁ!?」
 
なんだこいつ、渉みたいな奴がもう1人増えやがった!?
 
「やっべー、どの娘も超美人……。お、お願い、1人ずつ、名前……」
 
そして1人ずつ自己紹介していくのだが。
 
「雪月花の『花』、花咲茜です♪」
 
「あ、いた」
 
「何が……?」
 
「理想の娘……」
 
「はぇ?」
 
「だって!これ本当にまだ学生かよ!バインバインだぜ!?もうこりゃ人間国宝だぜ!?もう崇めるしかないっしょ!?」
 
――チャキッ。
 
どこからともない金属音。
それは。
優香の刀の音だった。
刀の波紋が雪に反射した太陽光で煌く。
 
「少し、静かにしてくださいます?」
 
顔が笑って目で起こっている。
音姉や由夢がよくやるあの無駄に器用な表情だ。
しかもそれが音姉たちより殺気が籠もっていてマジで怖い。
その刃は、誰がどう見てもロイの首に当たっていた。
 
「うるせーやい!こちとらお前みたいなペッタンコを毎日視界に入れないかんのだ!もー勘弁!貧乳は罪だ!」
 
――閃!!
 
ロイがいた場所を水平に、人並みはずれの太刀捌きで横薙ぎにする。
 
「へっ、あたるかバーカ!」
 
「待ちなさい!」
 
そして、ロイと優香は追いかけっこをしながらどこかに去ってしまった。
……なんだったんだろう。
 
「……あいつ、分かってるじゃねーか……」
 
「もー、渉くんってば……」
 
渉は密かにロイのことを同志と認めたようだ。
嬉しくないだろうけど。
一方で、音姉は1人みんなから離れてしゃがみこみ、暗い空気を纏って地面に『の』を書いていた。
……可愛い。
だめだ俺はやくなんとかしないと。
さて、今日も楽しく滑りますかね。
とりあえず、物騒なことを考えるのはそれからでもいいだろ?