14.忠告の一閃

2012年10月28日 19:06
さて、放課後。例によって例の如く今日も生徒会の仕事を手伝っている。
今日はなんだかんだで学園敷地内の見回りをしている。
 
――のだが。
 
昇降口で靴を履き替えてからというもの、さっきからいやな気配を感じているのだ。
 
「はて、こりゃ一体何なんだ……?」
 
呟いてみるが、隣に音姉やまゆき先輩がいるわけじゃないので、返事はない。
なんとなくその気配って奴を追ってみた。
どうやら裏庭の焼却炉辺りから流れてくるようだ。
少しためらって――歩を進めた。
 
感じる。
 
――何を?
 
これは……殺気?
いつもの男子生徒のまとわりつくようなそれらとは全く違う、なんていうか、突き刺さるというか、鋭いというか。
とにかく、俺の心が警鐘を鳴らしている。
 
――今回はヤバイ。
 
……大丈夫。俺は普通の人間じゃない、ある種のバケモンなんだ。
それに加え、何があるのか、好奇心も俺の歩みを助けた。
無意識にも警戒心が強くなる。
殺気はすぐそばにあった。
だが、肝心の姿は見えない。
軽く辺りを見渡す。
違和感はあるが、その正体を見つけ出すことは出来ない。
その時。
 
――ビュン!!
 
何かが頭部に向かって飛んでくる。それを瞬時に避ける。
 
「――なっ!?」
 
誰だ。何の用だ!?
殺気の正体はすぐ後ろ数メートルにあった。
振り返る。
 
「お前は……」
 
そこには1人の道着、袴姿の少女がいた。年齢は俺たちと同じくらいか。
肌は雪のように白く、流れるような紫色の髪は彼女の腰辺りまで伸びている。
可愛い、というより、凛々しい、といったほうが正しいだろうか。
少女は腰に刀と思われる細長い棒を携えている。
 
「これより、任務を遂行します」
 
「任務、だと?」
 
軽く睨む。が、相手は怯んだ様子を見せない。
 
「さて、こちらの要求を提示します。朝倉音姫、桜内義之の身柄をこちらに引渡し、貴方は自らその命を絶ちなさい」
 
義之と音姉を渡して、俺に自殺しろ、だと!?
 
「その前に、お前は一体何者なんだよ?」
 
「任務ゆえ、名を名乗ることは出来ません。しかし、貴方に忠告を授けに来た、とでも言っておきましょう」
 
「忠告って何だよ?」
 
「貴方の存在が、この次元の崩壊を招く。……いや、貴方が存在しているせいで、この次元もろとも消し飛ばそうとしている者がいます。」
 
「……!?」
 
俺がどういう存在か、知っている!?
 
「……だ、だけど、それなら俺の命だけでいいだろ!何であいつらまで巻き込むんだよ!?」
 
「『枯れない桜』」
 
「え――?」
 
「あれは次元の崩壊を進めるためのキーアイテムとなり得ます。そのため、それを破壊する際、その力の恩恵を最大に受けた者と、任務の際に最も障害となり得る『監視者』の回収保護のためです」
 
そこまで知っているのか。一体何者なんだ?
 
「それでは要求を繰り返します。朝倉音姫、桜内義之の身柄をこちらに引渡し、貴方は自らその命を絶ちなさい」
 
「……断る。……と言ったら?」
 
「この場で処分します。なお、人払いの魔法を使っているため、助けを呼ぶのは無駄です」
 
人払いの魔法、か。こいつ、魔法使いか……。
 
「……次元の崩壊、か。そいつは困った。だが、俺は今の日常を手放すつもりはない。そのくだらない考えを起こす野郎も叩き潰すだけだ」
 
「そうですか、ですが、私を倒せない限り、それはただの幻想に過ぎないでしょう」
 
「だったらお前を倒すだけだっ!!」
 
地面を蹴る。一蹴りで一気に距離を縮める。
 
「……行きます」
 
俺と相手の距離はもはや腕一本分もない。
拳を繰り出す。
……が、その拳は空を切った。
 
「くっ!」
 
瞬間的に移動したか……。かなりのやり手だな。
振り返る。距離はかなり開いた。
 
――さて、どうする。
 
相手は腰の刀を引き抜く。但し、刃を露にしたのではなく、鞘に収めたまま逆手に構える。
 
「どういうつもりだ……?」
 
相手は距離を置いたまま、その刀を水平に振る。
空がなびくのを感じた。
瞬時に危険を感じる。
冷静に左に大きく飛んだ。
 
――ヒュヒュヒュン!!
 
俺がもといた場所は複数の刃でえぐられたような跡があった。
 
「カマイタチみたいなもんか……」
 
相手は、冷静に分析する俺にお構いなしで刀を隙なく幾重にも振る。
飛んでくる無数の風の刃をかわす。
 
――右に、左に、後ろに。
 
「畜生、これじゃ攻撃どころか接近できねぇ……!」
 
刀は未だに空を斬り続けている。
襲ってくる風の刃。
明確な形が見えず、タイミングや狙っているポイントも不規則なため、こちらの行動も行き当たりばったりなものとなってしまう。
戦況でいうと、完全に流れを相手に奪われた、といったトコか。
自分の流れを掴み、自分のリズムを構築するなら、相手のリズムを崩さなければならない。
それはすなわち、自分が行動を仕掛け、相手の予想を裏切らなければならない。
……となると、やはりダメージ覚悟で接近するしかないか?
覚悟を決めて足を踏み込む、が、その時相手の動きが変化した。
刀が、空を斬るのではなく、その刀身は校舎に取り付けられた排水パイプを掠めたのだ。
その時発生した静電気は強力な電撃の網となり、俺に襲い掛かる。
やばい、対応できない!
 
「ぐぁあああああ!」
 
正面からもろにく食らい、その場に膝を着く。
 
「……く……そ……!」
 
こいつ、マジで強い!
下手したらここで殺されるぞ!?
 
「分かりました」
 
「は?」
 
「今の貴方では私に指一本触れられません」
 
「……」
 
その通りかもしれない。
 
「仮に私の“爪”を掻い潜って接近できたとしても、貴方は私の“牙”で砕かれるでしょう」
 
「く……」
 
『爪』が何を指しているのか、『牙』が何を指しているのか、俺には皆目見当もつかない。
そもそも、まともな相対自体これが初めてだ。
戦いのセオリーも実際によく分かっているわけではない。
特に、今回のような相手も手練れである場合において。
俺が焦るのも気にせず、相手は再び刀を振り、風の刃を飛ばし続ける。
避ける、避ける、――避けないと。
考えろ。どうやってこの状況を打開する?
風の刃のせいで接近は困難。無理に接近しようとすれば電撃の網の餌食。
それだけじゃない。これだけの実力者だ、他にも引き出しは色々あるだろう。
だが、慎重になっている余裕もない。
時間を掛け過ぎたら、無意識の内にしている行動パターンを読まれてしまう。
 
その時。
 
「これならどうだ……?」
 
1つの考えが頭によぎる。
 
――風の刃を警戒しすぎているから接近したときの電撃の網に対応できないのだ。ならば、風の刃を無効化してしまえばどうか。
 
脳内で念入りにシミュレーションを繰り返す。
 
――いける!
 
回避パターンを変え、接近にフェイズを移す。
飛来する風の刃は回避に困難だがそれでも慣れた。
右に、左に、回避しながら接近の足を緩めない。
すると、相手の刀の動きが変わる。
 
――これだ。
 
その刀身が再び排水パイプを掠める。
 
「この瞬間を待っていた!」
 
地面の土を掴めるだけ両手で掴み、それを力の限り投げる。
俺の力だ。猛スピードで宙を飛ぶ砂粒は風の刃とぶつかり、刃はその勢いを殺される。
風の刃は一時的に無効化された。
これで電撃の網をくぐり抜けるのはたやすい。
さらに加速する。
風の刃が来ようが、電撃の網が来ようが、どちらか片方なら回避できる。
 
「……仕方ないですね」
 
女は刀を腰に戻し、刀の柄を握る。
 
「……抜刀術?」
 
ついに抜くのか?
自分の攻撃が届く範囲に入り込んだ瞬間。
全身が恐怖を感じた。
 
「(しまっ――!?)」
 
――閃!!!
 
その瞬間、全てが決まった。
謎の女は既に俺の背後にいた。
俺はその姿を確認できず、その場に倒れ込み、意識を失ってしまった……。
 
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~杉並side~
 
「待て~~~~~~!杉並ぃ~~~~~~~~!」
 
「はぁ~~っはっはっはっはぁ!そんなことで俺は捕まえられんぞ!」
 
まったく、高坂まゆきの行動はいつもパターンが同じだな。
さて、この辺でそろそろカラクリを使わせてもらおうか。
おっと、非公式新聞部の隠し装置は企業秘密だ。よってここには明記できない。
……まぁ、なんだかんだで奴をうまく撒き、校舎裏に出る。
様子がおかしい。
地面には複数の何か鋭利なものでえぐられた跡。
そして、何か焦げたような不快なにおいが少し鼻につく。
 
「俺が校舎にいながら、これだけのことがあって、何故気付けなかった……?」
 
軽く見渡す。手がかりとなりそうな物はなかった。
 
「ふむ……」
 
そのとき、横たわっている人影を見つける。
それに歩み寄る。それは見知った顔だった。
 
「同志弓月?」
 
気絶しているのか?とりあえず保健室にでも運んでやるか。
……はて、今は確か水越教諭はいなかったか。
 
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~音姫side~
 
本日のお勤めこれにて終了。軽く背伸びをする。
クリスマスパーティーまであと少し。
頑張らないと。
 
――がらがらがら。
 
生徒会室の扉が開く。
光くんかな?
 
「はぁ~~、また逃げられちゃったよ……」
 
違った。ちょっと残念だった。
あー、えっと、まゆきに来て欲しくなかったんじゃなくて。
 
「お疲れ様、まゆき」
 
「うん、音姫もお疲れ」
 
まゆきがてへへ、と苦笑する。
 
「光くんは?」
 
「音姫はあいかわらずだねぇ~」
 
「な、何がよぉ」
 
「すぐに弟くん1号に会いたがるんだもん」
 
「だってぇ、可愛い弟だもん」
 
ホントはちょっと違った。
 
「でも、それにしても遅いわね。いつもならもう帰ってきてるはずだけど」
 
――がらがらがら。
 
また扉が開く。
こんどこそ光くんかな?
 
「フ……」
 
またしても期待を裏切られた。
 
「杉並!?」
 
「杉並くん?」
 
「杉並ぃ、こんなトコまで何しにきたの?」
 
「まぁ、そう邪険にするものではないぞ、高坂まゆき。ちょっと面白いものを今しがた拾ってきたのでな」
 
「面白いもの?」
 
「杉並くん、おとなしく渡しなさい」
 
視線で杉並くんを威嚇する。だがそれで怯む彼ではなかった。
 
「あいにく、俺が直接手渡すのは骨が折れる。自分たちで取りに行くんだな」
 
「杉並、あんたねぇ……」
 
「だからそう邪険にするなよ。保健室だ。保健室に行けば分かるぞ」
 
保健室?そこに一体何が……。
とりあえず、行ってみれば分かる。仕事は今終わったばかりだが、保健室ならそう遠くない。
 
「まゆき、行きましょう」
 
「音姫、本気!?罠だったらどうするの?」
 
「罠だったらいずれにせよ撤去しなければいけないでしょ?それに、杉並くんには着いてきてもらいます」
 
「……まぁ、それならいいけど」
 
「喜んでお供しよう」
 
そうして保健室に向かった。
 
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保健室の前に私とまゆき、そして杉並くんが立つ。
人がいないのか、物音がしない。
それどころか、杉並くんがいつも仕掛けてある装置がある気配もない。
 
――こんこん。
 
扉をノックする。
人がいないのか、やはり返事はない。
扉を引く。鍵が掛かってないので、簡単に開いた。
 
「失礼しまーす」
 
恐る恐る中に入る。
ベッドが1つ、カーテンに隠れている。
 
「ほら、お目当てのものはそこにある」
 
「音姫」
 
「うん」
 
カーテンを開けると。
そこにいたのは。
 
――光くんだった。
 
「光くん!?」
 
「杉並、これ、どういうこと!?」
 
当然私もまゆきもこれには驚く。
 
「事情は知らんが、焼却炉近くで倒れていた。気を失っているだけだが、どうも周囲の状況が不自然だった」
 
「不自然?」
 
「ところどころ、地面に鋭利なものでえぐられた跡が無数にあった。さらに、俺がそれを目撃したときは、何か焦げ臭いようなにおいがしたのだが……」
 
「え?それって……」
 
「うむ、実力派の俺たちが校舎内にいたというのにもかかわらず、誰一人としてその状況に気付けなかった」
 
話を聞きながら、光くんを見る。
やはり気を失っているだけなのか、すやすやと眠っている。
……よかった。
 
「あとで校舎裏の様子を見てくるがいい。面白いことになっているぞ。では、俺は消える。さらばだ!」
 
杉並くんが勢いよく保健室を飛び出した。
 
「あ、ちょ、杉並!……まぁ、今回はいいか」
 
まゆきが軽くため息をつく。
光くんが寝ているベッドに腰掛ける。
光くんをすぐ近くで見つめると、光くんはところどころ土で汚れていた。
 
「光くん……」
 
軽く髪を撫でる。
まゆきが椅子を持ってきて、私の隣に座る。
 
「……ん……んん……、ああ」
 
光くんがゆっくりと瞼を開く。私たちの姿を認めたようだ。
 
「……お……音姉に、……まゆき先輩……?」
 
「光くん!」
 
「1号!」
 
~光雅side~
 
誰かに髪を撫でられる感触で意識を取り戻す。
 
「……ん……んん……、ああ」
 
目を開ける。眩しい。そして、目が慣れてくると、そこには2人の女性が座っていることに気付く。
1人は生徒会長。そして俺の義姉。
1人は生徒会副会長。そして数少ない仲の良い先輩。
 
「……お……音姉に、……まゆき先輩……?」
 
「光くん!」
 
「1号!」
 
なんだ……?2人とも手術が成功したような顔して……?
 
「……えっと、俺、なんでこんなトコで寝てんの……?」
 
「杉並くんが言うには、焼却炉近くで倒れてたんだって。一体何があったの?」
 
「何があった、って……」
 
記憶を辿る。
……ああ、そうか。
俺は、あいつに本当に指一本触れられず、一撃で倒されたんだっけ……。
でもじゃあ、何故俺は刀での一撃を受けて命に別状がないんだ?
っていうか、出血してる気がしない。
……情けを掛けられたか。
 
「……みっともねぇ」
 
「ん?」
 
「思い出したの?」
 
「ああ、いや、まぁ。えっと、音姉、聞きたいことがあるんだけど」
 
「何?」
 
「俺に会う前に袴姿の帯刀女を見なかったか?」
 
「帯刀女?」
 
「何それ?」
 
う~ん、どうやら見てないようだ。
 
「いや、見てないならいいんだ」
 
だが、あの時俺を見逃したといっても、恐らく例の任務はまた遂行されるだろう。
あそこで身を引いたのは、都合が悪かったか、それとも『次元の崩壊』を食い止めるための策を別に思いついたか……。
いや、あれだけ頭の回る人間だ、後者はないな。
それがあれば、ここに来る前に思いついているはずだ。
前者ならば、時期を変えて再び襲ってくるだろう。次は本気で。
だが、しばらく時間はあるだろう。
多分だが、もしその都合とやらが俺たちの状況なら、クリパが終わるまでは大丈夫だろう。
それまでに対策を立てねば。さくらさんにも相談すべきか?
 
「こ…………ん」
 
いや、奴のターゲットの中にさくらさんはなぜか入っていなかった。
だが、もしさくらさんが今回のことを知れば、彼女まで騒動に巻き込んでしまうかもしれない。
 
「光……ん」
 
やはり自分ひとりで解決すべき問題か。
クリパもあってクソ忙しいこの時期に、さらに面倒なことになりそうだな・・・。
 
「光くん!」
 
「うわっ!な、何?」
 
なんだ、なんでそんなに急に大声で話しかけてくる?
 
「ずっと呼んでたよぉ……」
 
「あれ、声に出てた?」
 
「光くんの考えていることくらい分かるんだよ」
 
「まぁ、お互いに流石というかなんと言うか……」
 
まゆき先輩が苦笑する。なんか、この組み合わせだといつもこんな感じだよな……。
 
「んで、音姉、何?」
 
「えっと、なんか真剣に考えてたけど、何かあったの?」
 
音姉と義之が捕まる上に、俺が自殺しなければならない、なんて口が避けても言えない。
うっかり口が滑ってしまえば、この場でむせび泣くことは間違いない。
 
「うーん、あったっちゃああったけど、大丈夫だよ」
 
「本当に?」
 
「心配すんなって」
 
「……無理だけはしないでね?」
 
音姉はそういうと俺の腕にしがみついてきた。
本当に心配してんだな。
こうなると無理矢理引き剥がすのも気が引けるし、このままにさせておくか。
……ってか、いっつもさせっぱなしな気がするけど。
 
「ホントあんたたちって仲がいいよねぇ……」
 
まゆき先輩は終始苦笑していた。
 
「まぁ、校舎裏についてはまた明日でいいでしょ。立ち入り禁止にしておいて」
 
「そうだね」
 
「あんたたちはもう帰りなよ。あとはあたしがしとくからさ」
 
「ごめんね、まゆき」
 
「困ったときはお互い様でしょ?」
 
「すみません……」
 
「まぁ、いいっていいって。その分当日はこき使うんだから、覚悟しときなさいよ?」
 
「了解です」
 
そしてこの日は音姉の肩を借りながら、ゆっくりと帰路に着いた。
今後どう動くべきか考えながら。