2.家族と鍋と甘酒と

2013年11月05日 23:12
アイシアの被認識状態の上書きにも成功し、アイシアは本格的に芳乃邸に暮らすことになった。
この家は広いから、アイシア1人入るくらい、生活面積的に何の問題もない。
今晩はなんだかんだで、アイシア歓迎の鍋パーティーが開催されたのだった。
 
「さあ、みんな、準備できたよ。いっぱい食べてね」
 
「おおっ、流石音姉!うまそー!」
 
「やっぱり鍋だよねぇ。日本人の心だよ。グツグツと煮立っただし汁と、たくさんのお肉で、心も体もぽかぽかに……」
 
鍋を前にしてさくらもほっこりしている。
さて、始まってそうそう、今までならここで由夢が無神経に具を鍋に放り込んで大変なことになるのだが、由夢のダークレシピは俺が滅ぼしてやったよ。
結構忙しい日々を送ってたんだけど、由夢の料理講座だけはサボらなかったんだぜ?
元々由夢は物覚えがいい方で勉強だってそれなりに出来る方だから、ちゃんと仕込めばすぐに上達するはずだ。というかなんで今まで料理できなかったのか逆に疑問だ。
でも残念ながら由夢はやっぱり由夢だった。
 
「あ、お肉頂き」
 
「ちょ、おま、それは俺が育てた肉だ!返せ、今すぐ返せ!俺の貴重な食料を強奪するなぁ!」
 
「2人とも喧嘩しないの。お肉はいっぱいあるんだし。ちゃんと野菜も食べなきゃダメだよ?」
 
かったるい星人の由夢は自分で肉を育てるようなことはせず、主に義之から、というか義之からしか肉を強奪していなかった。
ほらみろ、アイシアがなんか呆れてるじゃないか。
 
「この家も、昔と比べて賑やかになったね」
 
「うん。今では光雅くんや義之くん、それから音姫ちゃんや由夢ちゃんもいて、毎日の生活に張りが出てるよー」
 
アイシアとさくらはほのぼのと会話をしている。
 
「ならば由夢、こうしよう。ここからここまで国境線を引いて、相互不干渉ということで……」
 
「却下です」
 
その一言と同時に義之の目の前から肉を数切れ強奪していく。
楽しそうで何よりです。
 
「やめろ!無計画に資源を強奪するな!このままじゃわが領海の肉が全て……!こら、持って行くなって!」
 
義之は義之でそんな冗談を言ってるあたり、この状況を楽しんでるよな、絶対。
 
「にゃはは、このお肉、柔らかくて美味しいね。義之くん、もっとちょうだい?」
 
「ん、マジか。どれどれ」
 
俺とさくらが義之の領海とやらから肉を奪っていく。
 
「って、さくらさんまで!?ちょ、うわっ、光雅お前取り過ぎだ!」
 
「おいおい、鍋は団らんの象徴だぞ?そんなピリピリしてたら楽しめんぞ。ほら、アイシアもしっかり食えよ」
 
アイシアのために義之の領海から更に肉を調達する。
 
「貿易交渉だ。春菊をやろう」
 
義之のために春菊を取り皿に入れてやった。
 
「くっそ、こうなったら俺も!」
 
義之、由夢の領海に箸を伸ばす。
その一手は実に迷いなく、狂いなく、隙はない。
だが――。
 
――ガキンッ!!
 
「や、甘いです」
 
あの鋭い一手を由夢が箸で防いだ。
というかその箸木製だろ。どうやったら金属音が鳴るんだ……。
 
「くっ!」
 
「もう、お行儀悪い。まだまだお肉はあるから取り合いしないの」
 
うーむ、流石はお姉ちゃん、『お行儀悪い』なんていうところが様になってる。
 
「そんなこと言ったって3方向から攻められたら領土保全も危うくっておい、また!」
 
それにしてもさっきから音姫は全然肉を食っていない。
それに由夢も気付いたようで。
 
「お姉ちゃん先から全然食べてないじゃない。ほら、お肉」
 
勿論出資元は義之だ。
略奪だけども。
 
「だから~、俺のところから持って行くな!」
 
「もう、お肉追加するから、喧嘩しないの」
 
音姫が場を和ませようと言葉を展開するのだが、なんか楽しくなって俺も聞いてなかった。
途中からアイシアも参戦して、疑似ABCD包囲陣の完成である。
イギリスは俺がもらいます。
 
「にゃはは、お肉おいひぃね……もぐもぐ」
 
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「んん~、お腹いっぱーい……」
 
「えへへ、満足満足。すっごく美味しかったよ。流石音姫ちゃん、お料理の天才だね。出汁は何でとったの?昆布だけ?」
 
「昆布ですけど、隠し味をちょっと……」
 
音姫が片付けをしながら、義之に視線を向ける。
そこには、第一次鍋大戦で連合軍に大敗を喫した義之がすねていた。
 
「ほら~、義くんもいつまでもすねてちゃダメだよ」
 
「別にすねてる訳じゃ……」
 
「あはは、なんかごねんね、義之くん」
 
アイシアが苦笑しながら謝る。
アイシアが謝る必要はないんだ。だって今日の主賓はアイシアだろ?
 
「確かにね、あれだけ肉があったにも関わらす俺はほんの3切れしか食べられなかったとか、誰も俺の言い分を聞いてくれなかったとか、和平交渉を片っ端から無視されたとか、不満はこれでもかというくらいあるけれども……」
 
「執念深いなぁ、もう終わったことじゃないですか」
 
由夢はなんだか機嫌がいいようだ。
 
「お前なー、どの口が言うんだどの口が」
 
「や、実力勝負の世界ですから」
 
確かに。
この鍋大戦は戦争だ、実力勝負だ。
いかに味方を固めて有利に食材を手に入れるかがカギとなる。
第一なんかお前も楽しそうだったジャン。
 
「はいはい、この次はもっとお肉を用意しておくから喧嘩しないの」
 
音姫が呆れたようにそう言う。
そして音姫が片付けを終えると、思い出したように立ち上がった。
 
「あ、そろそろあれが出来る頃かな」
 
そう言うと、台所に消えて行ってしまった。
そしてしばらく待つと音姫がさっきとは別の鍋を持ってきた。
白い湯気と甘い香りが何とも癒される。
 
「みんなお待たせー。甘酒温めたよー。熱いから火傷しないように気を付けてね」
 
「うわー、甘酒なんて久しぶりだねぇ」
 
「……」
 
俺はなんか嫌な予感がしていた。
 
「音姫、酔っぱらったりとかしないよな?」
 
「うふふ、大丈夫だよ。子供でも飲めちゃうくらいのうすーいお酒なんだから」
 
そう言いながら、みんなの湯呑に甘酒を移す。
そしてみんな甘酒を冷ましながら口に運んでいった。
 
~義之side~
 
あ、ありのまま見たことことを話すぞ。
音姉が甘酒を一口飲んでな、笑い転げてるんだ。
何を言ってるのか分からないと思うが――
 
「あーはははは、目の前がぁ、ぐるぐる回ってるよぉ!」
 
これは確実に酔ってんだろ。
子供でも飲めちゃうくらいの……なんだって?
 
「あれー、光くんどうしたのぉ~?そんな困ったちゃんな顔してぇ~。んふふ~……」
 
音姉が光雅にすり寄っていく。
 
「光くん、大好きぃ~……」
 
ほら、突然の音姉の大胆発言に光雅だって俯いて照れてるじゃないか。
というかギャップが凄まじすぎてタチが悪い。
 
「お、音姫ちゃん、どうしちゃったの……?」
 
あまりの豹変っぷりにアイシアが困惑しまくる始末だ。
 
「えっと、これ、ノンアルコールなんだけど……」
 
さくらさんは笑顔を引き攣らせてかなりビビッている。
まるで『自分には絡んできませんよーに』みたいな。
 
「なぁ、音姉、なんか言動と目がヤバいぞ!?」
 
「ヤバい?ヤバいってどーゆーことかなぁ?義くん~ふふ……」
 
「絶対酔ってんだろ!?さっき子供でも酔わない的なこと言ってたくせに!」
 
「おねーちゃんは義くんより年上なんだから、酔っぱらう訳がないでしょっ!」
 
ここぞとばかりにびしっと決める音姉。
いつものしっかりお姉ちゃんモードのつもりなんだろうが、ふらふらしてるせいで全然頼りないっての!
 
「さくらさん!」
 
「は、はい……」
 
ついにさくらさんに絡んでしまった。
というか急な絡みでびびったさくらさん、思わず音姉相手に返事が『はい』って……。
 
「私の話、ちゃーんと聞いてるんですかぁ?」
 
そもそも音姉はさくらさんに話しかけてなかったんだが……。
というか……。
 
「音姫ちゃん、それテレビ……」
 
音姉はさくらさんじゃなくて思いっきりテレビに詰め寄っていた。
くそ、俺じゃどうにもならない!
妹なら何とかしてくれるんじゃないか?
というわけで――
 
「義之兄さんっ!!」
 
な、なんだぁ!?
なんか急に怒鳴られちゃったんですけどぉ!?
 
「らいたいねぇ、義之兄さんは、ぜんっぜんわかってないんれすっ!」
 
……お前もか。
 
流石姉妹。ここまで似てくるものなのか。
 
「なんだよ、急に絡んでくるなって!」
 
「絡んでっなーい!朝倉由夢は、1度として義之兄さんに絡んだことはないのれす!」
 
呂律がちゃんと回ってないし今既に絡んでるし。
というかどうしてこうなったんだろうか?
 
「らいたい、全部義之兄さんがいけないんれすからねぇ!そんな曖昧なやり方でいいと思ってるんれすか!?」
 
何の話かさっぱり見えてこない。
 
「つまり、義之兄さんが全部悪いのっ!」
 
つまりも何もまだ俺が悪いという結論しか言ってない。
おい、光雅お前もそろそろ助け舟――
 
「……ひっく、うぇっく……」
 
え、マジ?お前もなの?
嘘だよな……?
 
「うううぅぅぅぅぅうううう……」
 
なんか突然泣き始めたんですけど!
何?何が原因なの!?
 
「ううう、俺が、俺が悪いんだあああぁぁぁあああああ……」
 
だから何の話だよ!?
というか気付いたらさくらさんとアイシアが別室に退避してるし!
 
「光くーん、らいじょうぶーぅ?」
 
「俺のせいなんだぁあああああああああぁあぁあ……」
 
「……義之にいさんのせいなんらよ」
 
何、俺いじめられてんの?
この状況を誰か楽しんでるの?
 
「ごめんよぉ、ごめんよぉおおぉぉぉぉおおお……」
 
「ぉしゆき兄さんが悪いんらよぉ……。私の気持ちとか、ぜんぜん……」
 
ぜんぜん?
 
「義くん、お代わり」
 
「私もお代わり」
 
「ぐすっ……、俺もお代わり……」
 
え、ちょ、まっ――
 
「「「お代わりー!」」」
 
もう、いい加減にしてくれー!!