4.三日月の光る夜に

2012年10月28日 17:23
俺が転生して、はや7年。
音姉と義之と俺は風見学園に入学。音姉は付属3年、俺と義之は付属1年である。音姉は年齢が増えるに連れて、お姉ちゃんぶる態度にも拍車がかかってきた。
一方由夢は、いつからだったか俺たちに対してつっけんどんな態度をとるようになった。
そして俺は……。
 
~さくらside~
 
あれから、7年、か。長かったようで、短かったような。……って、しんみりしてるのもボクのキャラじゃないよね。……にゃはは。
光雅くんは、毎日放課後に枯れない桜に行って、その実態を把握しようとしている。時間を掛けているのもきっと、義之くんのため、いや、義之くんを取り巻く周りのみんなのために、慎重に事を運びたいんだろうね。
 
「調子はどうかな?」
 
「ああ。枯れない桜か。はい、順調ですよ。今のところ、あれのシステムのうち、正確には68.7%解析に成功しました。そのうち、バグが生じていた部分が、13.8%です。ホント、解析の途中にも、穢れた願いは少しずつ蓄積してるんで、除去しながらの作業は大変ですよ」
 
「そうなんだ……」
 
やっぱり、いくら光雅くんでも大変なんだなぁ。
光雅くんは夜空を見上げている。月光を浴びて、風に肩にかかるほど長い黒髪をなびかせ、優しい紫色の瞳が付きの明かりでほんのりと光っている光雅くんの横顔はとても綺麗だった。
 
「(にゃはは、何考えてんだろ、ボク……)」
 
光雅くんが来る前は、ボクはずっと1人だった。
みんなが幸せになれる世界は無理だけど、願いの力で、困っている人を助けてあげられる、みんなが笑顔でいられる、そんな世界を創るために、ボクはずっと1人でがんばってきた。でも、その世界の中に、ボクは入り損ねた。
いや、入る資格なんて無かったんだ。
でも、光雅くんはそれを許さなかった。
彼は1度死んでいるから、本当にみんながハッピーな世界、というものの核心に一番近い。自己犠牲が、周りに迷惑をかけることも承知している。
ホントに、光雅くんはすごいや。
 
「あと、2週間くらいかかります。その間、桜に悪い願いが蓄積しないよう、さくらさんも協力してください」
 
「うにゃ。もちろんだよ」
 
「じゃあ、俺はそろそろ戻ります。おやすみなさい、さくらさん」
 
あ、もう10時か。もう少し一緒にいたかったな。
 
「うん。おやすみ。光雅くん。」
 
~光雅side~
 
あぁ~疲れた。
俺の魔法≪魔術創造(マジカルクリエイト)≫は、体力と精神力を消費しちまうから、1日2%解析するだけで、フルマラソンを全力疾走するくらいに疲れる。
みんなには心配掛けないようにしないとな。
 
「ただいま~」
 
「おかえり~」
 
「あ、光雅兄さんおかえりなさい」
 
リビングに上がると、音姉と由夢が迎えてくれた。
義之は恐らく自室だろう。
音姉はキッチンに立って、コンロに火をつけた
 
「今日は遅かったんだね。ご飯は食べた?」
 
あ、そういやまだ食ってねぇわ。ああ腹減った~。
 
「どこいってたの?」
 
由夢が俺に訊いてくる。
別に何かを疑っているわけでもなく、避難しているわけでもない。
純粋な、疑問。
 
「いや、ちょっとさくらさんとお話してた」
 
「そうですか」
 
そっけない返事をして、由夢は部屋に戻っていった。
リビングを抜け、そのまま食卓に向かう。
音姉の作ったビーフシチューの香りが俺の舌と腹を挑発する。
 
「はい、光くん、温めなおしたよ」
 
「おお、サンキュ。……んじゃ、いただきます」
 
スプーンでシチューをすくって口に運ぶ。
薄すぎず、濃すぎない、絶妙な風味が舌を包む。
簡単に言うと、美味い。
 
「どうかな?」
 
音姉が不安そうな目で覗き込む。
 
「音姉の料理が不味いわけないだろ。めちゃくちゃ美味いよ」
 
「そ、よかった♪」
 
音姉の料理は段違いに美味い。
由姫さんも料理が上手で、元気だったころに音姉にその技とか調理法とかを伝授してたものだから、ただでさえ美味しくなるものを、彼女はそれに自己流のアレンジを施しているものと来た。
何度も言うが、不味いわけがない。
すると、階段から足音が聞こえてくる。その音はリビングまでやってきた。
 
「お、光雅おかえり」
 
降りてきたのは、自室にいたであろう義之だった。
 
「おう、ただいま」
 
「あ、義くん、どうしたの?」
 
「いや、ちょっと喉が渇いただけ」
 
「そうなんだ。今日りんごジュース買ってきてるから、飲んでいいよ」
 
「流石音姉、気が利くね」
 
義之は冷蔵庫からりんごジュースを取り出し、グラスに注いで、一気に飲み干した。
 
「ご飯食べたら、お皿洗いしとくから、お風呂入っちゃっていいよ」
 
「いや、皿は俺が洗っとくよ。音姉は部屋でくつろぐか、テレビでも見てなよ」
 
「でも、悪いよ~」
 
「気にしない気にしない。音姉も疲れてるだろ?」
 
音姉は少し考えるそぶりを見せて、苦笑しながら義之を見る。
 
「そうだね。お言葉に甘えさせてもらおっかな」
 
音姉がリビングでテレビをつける。
流れているのは、今人気のバラエティ番組。
 
「そういや、光雅、お前いつもさくらさんと何話してんの?」
 
「昔話だ」
 
「絶対嘘だ。お前そういうの苦手じゃなかった?」
 
「?俺そんなこと言ったっけ?」
 
「ああ、俺がお前に桃太郎と浦島太郎、一寸法師と金太郎がサバイバルマッチをして、最後まで生き残ったものが天竺にいるサルとカニをペットにできるって話をしようとしたら、全力でスルーしにかかったろ」
 
あのカオスな話は正直意味不明だった。
 
「あのな、そんな意味不明な話を最後まで興味津々を貫き通して聞こうとするほうがよっぽどおかしいだろうが」
 
「ええ?そうか?面白い話なのに……」
 
「そんな話を考える暇があったら、少しは勉強する姿勢だけでも見せてみろよ……」
 
「うっせ。じゃあ何話してんのさ?」
 
「何だっていいだろうが。……ごちそうさまでした。義之、皿頼んだ」
 
「あいよ」
 
俺はすぐに風呂に入り、明日の朝食当番もあるため、この日はさっさと就寝した。
 
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1週間後、いつもどおりに枯れない桜の元で、桜の解析を行っていた。
だが、今日はなんかやけに体がダルい。でも、作業は進めなくちゃならない。
 
「みんなのためなんだ……」
 
そう言い聞かせて、自分を奮い立たせる。
桜に手をついて魔法をかける。
 
「解析率……83.2%……83.3%……」
 
はぁ……はぁ……やっべ、ちょっとこたえたか……?
 
その時、一瞬、目の前が真っ暗になった。クソ、めまいがする……。てか、しんど……。
今日は、もうやめとくか……。
 
「はぁ……はぁ……くっ……はっ……はぁ……」
 
桜並木の途中、もう限界が近づいてきている。
両足の感覚が無く、頭も鉛が入っているかのように重い。
何とか朝倉家前まで帰ってきたが――
 
「もう……無理……」
 
そこで俺は座り込んでしまった。
 
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 
玄関から音がする。誰か出てきたのか?
 
「……光くん!?」
 
ああ、音姉か……。
音姉の手が俺の額に触れる。
 
「やだ、すごい熱じゃない!ほら、光くん、お姉ちゃんに掴まって!」
 
音姉の肩を借りながら、なんとか自室にたどり着いた。
 
「光雅兄さん!大丈夫ですか!?」
 
「は……はは、どうやら大丈夫じゃないっぽいぞ……」
 
「ほら、ちゃんと布団被って」
 
「ああ、すまん」
 
音姉が部屋に入ってくる。
その手には何か握られていた。
 
「光くん、お薬と栄養ドリンク、これ飲んで」
 
「ありがと」
 
先程音姉が一口サイズに切ったバナナを腹に入れたので、とりあえずは薬を飲んでも大丈夫な状態だ。
苦い薬と栄養ドリンクを飲み干し、体を横たえる。
 
「由夢ちゃん、私、明日のお弁当の仕込みをしないといけないから、光くん、お願いできる?」
 
俺の様子が発見当初より落ち着いて安心したのか、ほっとしたような面持ちで、由夢に訊ねる。
 
「はい。分かりました」
 
「ごめんね。あ、これ、氷水とおしぼり」
 
「うん」
 
「じゃ、ごゆっくり」
 
~由夢side~
 
……。
 
「光雅兄さん」
 
「ん?」
 
「あんまり無理はしないでくださいよ?」
 
「ああ、悪いな」
 
「それにしても、光雅兄さんが風邪引くなんて珍しいよね」
 
光雅兄さんが風邪を引くのは、本当に1年に1回あるかないかだ。
基本丈夫にできているのかもしれないけど、だからこそ余計に体調を崩されると心配になる。
 
「俺もびっくりだよ」
 
「ホント、最近光雅兄さんいったい何してるんですか?」
 
「何って?」
 
「最近放課後家に帰ってきたと思ったら、すぐ外出するじゃない」
 
「ああ、ちょっと街までナンパにな」
 
心配しているというのにもかかわらず、なんという軽い発言。
突然の言葉に、失望してしまった。
 
「!!もう光雅兄さんなんて知りません!」
 
光雅兄さんの額に氷水を浸して絞ったおしぼりを叩きつける。
 
「冷たッ!」
 
私は肩を怒らせて部屋を出て行った。
……冗談だって分かてるのにな。なんでこんなにむきになるんだろ。
少し落ち着いたら、また看病しよっと。
 
~光雅side~
 
あ~あ、怒っちゃった。
こりゃ復活してからの機嫌取りが大変だぞ……。
由夢のおかげで少し楽になったかなぁ~、とか考えてたら――
 
「光雅くん、大丈夫なの!?」
 
金髪ちび少女があわただしく部屋に入ってきた。
 
「今なんか失礼なこと考えたでしょ?」
 
……す、鋭い……。さくらさん子供っぽいとか言ったら怒るもんな。
 
「いえ、そんなことないですよ」
 
「まぁいいや。で、大丈夫?」
 
「今はなんとか大丈夫です」
 
実際、風邪は引いてるっぽいけど、今のところ薬が効いてるのか、体がだるかったりすることはない。
 
「そっか。たぶん、キミは無理をしすぎてるんだよ。キミの魔法は使うとそれだけ精神力と体力が削られるんだよね?それで体が弱ったから風邪ひいたんじゃないかな」
 
「まぁ、その辺が妥当でしょうね」
 
「……光雅くんの無事も確認したから、ボクは戻るよ。あんまり無理しないでね。おやすみ」
 
「おやすみなさい、さくらさん」
 
さくらさんが俺のことを気にしながら退室していった。
う~ん、疲れたな。そろそろ寝るか。
そのまま俺はまどろみの中に落ちていった。
 
~由夢side~
 
光雅兄さんの部屋の前に立ってはや7分、私はとにかく気持ちを落ち着かせていた。
 
「……光雅兄さん、怒ってないかな……?」
 
おそるおそる部屋を覗いてみる。光雅兄さんは向こう側を向いて横になっている。
 
「光雅兄さ~ん、起きてますか~?」
 
小声で訊ねてみる。
 
「……」
 
「寝てる、か」
 
起こさないように接近、ベッドの端に腰掛ける。
光雅兄さんの寝顔をそっと見つめる。
 
「……兄さん、か」
 
1年くらい前、夢を見た。義之兄さんが私のもとで苦しみ始める夢、光雅兄さんが何者かの手によって始末される夢。
今までは、兄さん2人にずっと助けられていた。でもこのままじゃ、2人とも私のもとからいなくなっちゃう。
だから、私が強くならなければならない。
私が、兄さん達を守らなければならない。
 
「……全く、そんなことも知らないで、幸せそうに……」
 
苦笑いする。そうしていると――
 
「……まも……る……」
 
「へ?」
 
なんだ、寝言か。
 
「……ゆ……め……」
 
私の名を呼ぶと同時に、光雅兄さんの両手が私の背中に回り、そのまま私を抱き寄せる。
 
「へ?え?え?何?え、や、あと、その……」
 
い、いきなりなにするのよ……!?
なんて、焦りながらも、少し嬉しい自分がいる。
 
「……もう……♪」
 
私もそこで寝ちゃいました。
翌朝、完全復活した光雅兄さんが困惑しまくってたのは、別の話。
 
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~光雅side~
 
それから1週間ちょい経って、俺は今枯れない桜の根元にいる。
三日月が漆黒の天空で微笑むように輝いている。
解析は100%成功した。あとは、そのうちの37.9%のバグを修正、運用するプログラムを創造するだけだ。
俺の体がもつか、そんなことは今はどうだっていい。この木さえどうにかできたら……。
木の幹に両手を添える。そのまま一気に魔法をかける。左眼が紅色になる。
 
「創造、バグ修正及び新システム運用のプログラム……、対象、枯れない桜……、オプションとして、プログラムのバックアップを添付……」
 
準備は整った。
後はこれを桜に埋め込むだけだ。
 
「操作を開始する!」
 
瞬間、桜がざわめき、ほんのりと輝きを放つ。
 
「推定必要時間、残り1時間38分47秒……」
 
 
……
 
…………
 
………………
 
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~由夢side~
 
午後9時、自宅。
私は妙な不安を抱きつつ、部屋でごろごろしていた。
いや、光雅兄さんを待っていたとも言えなくは無いかな。
でも、いつもより遅い。普段ならもう帰っているはず。
今朝の夢を思い出す。
枯れない桜の根元で、光雅兄さんが倒れる、というものだった。
 
「もしかして……!」
 
ジャージのまま部屋を出る。階段を下りて、一言。
 
「お姉ちゃん!ちょっと出てくる!」
 
「え?ちょ、由夢ちゃん!?」
 
お姉ちゃんは困惑していたけど、相手にしている場合ではない。
 
「はぁ、はぁ、はぁ……光雅兄さん……」
 
走る。ひたすら走る。枯れない桜まで。
 
……。
 
枯れない桜に着いた。そして、
 
「……いた!」
 
光雅兄さんが倒れている、というより、疲れ果てて寝ている。
 
「ほら、光雅兄さん、しっかり掴まって……!」
 
返事は無い。
 
「全く、心配ばっかりかけて……」
 
ちょっと引きずる形になってしまったが、仕方が無い。
それにしても、やっぱりしんどいな、とか考えていると、
 
「お~い、由夢~、何やってんだ~?」
 
義之兄さん。
やっぱり、私の兄さんはすごいや。2人とも、誰かが困ってたらすぐに駆けつけて助けてくれる。
 
「おい、光雅!大丈夫か!?」
 
「えぇ、一応大丈夫そうです」
 
「そ、そっか」
 
「ありがと。義之兄さん」
 
私が義之兄さんにお礼を言うと、何故か義之兄さんは動揺した。
 
「あ、ああ、そ、それより、光雅をはやく家まで運ぶぞ」
 
「はい」
 
私は、家族に恵まれている喜びを感じながら、三日月の空の下、光雅兄さんを運んで帰るのだった。
 
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………………
 
…………
 
……
 
あれ、ここは……。
 
「あっ!光雅くん、大丈夫!?」
 
「え、あ、はい……」
 
あれ、俺は確か……。
真っ先に視界に入ったのは、金髪の少女、さくらさんだった。
 
「光雅くん、ありがとう。ホントに、ありがとう……!」
 
さくらさんは泣いていた。声が震えている。
 
「あの、俺、成功したんですか?」
 
「うん。桜のバグは綺麗さっぱりなくなってたよ。もう光雅くんには、感謝してもしきれないよ……」
 
「そんなことないですよ。俺はただやれることをやっただけです」
 
「それでもっ!ボクはキミに救われたんだ。ほんとに、ありがとう!」
 
ここまで喜んでくれるなら、俺としてもやった甲斐があるし、誇ってもいいのかもしれない。
そうか、俺はやったんだな。よかった……。
 
「でもね……」
 
「……はい?」
 
なんか、さくらさんの後ろにブラックファイアが……。
やばい!これは!
 
「光くん……」
 
「光雅兄さん……」
 
「光雅……」
 
義之、お前もか……!?
 
「「「「O☆HA☆NA☆SHIしようか」」」」
 
この説教、プログラミングより辛かった。
純一さん、震えてないで助けてくださいよ……。