4.対峙する強敵

2013年11月05日 23:27
翌朝9時、俺はみんな連絡して芳乃家に集めた。
『ドラゴン』の魔法陣がどこまで影響しているか不安はあったが、どうにか例の話をした連中は集まったようだ。
とにかく、状況を把握せねばなるまい。
 
「エリカ、お前んとこの兵隊はまだか?」
 
「いえ、もう既に近辺まで来ておりますわ。先程このほし……国に到着したようですから」
 
どうやらエリカの方は問題ないらしい。
というか、いくらヨーロッパとはいえ、短時間に大軍隊を移動させる技術なんてあったか?
まあいい、とりあえず、ここにいれば俺たちの作った結界が保護してくれるから、襲撃される心配はない。
それと、それなりに動ける人には、連絡係を務めてもらうことにした。
なるべく元枯れない桜には近づかないように、例の黒い騎士団の出現ポイントを捜索、つまりは索敵要員としてだ。
これには、まゆき先輩、杉並、渉、エリカ、美夏、そしてペアとして、まゆき先輩には杏、渉にはななか、美夏にはアイシアに同行してもらうようにした。
エリカと杉並は個別行動をとってもらう。エリカは、そもそもお姫様だから自然と護衛が付くだろうし、杉並に索敵させたらついていける奴なんていない。
そして、見つけても戦闘に入ることは勿論、接近もしてはいけないことを注意しておく。
そこにはエリカの軍隊を当て、抑えておく。
それまでは進路や速度などを監視し、最も近い隊に連絡を取るようにする。
俺とさくら、ロイ、優香、音姫、義之、由夢は、枯れない桜のもとに直接向かう予定だ。
義之と由夢はこないように言ったのだが、俺たちの戦いの最後を見届けたいとか無理を言って聞かないので、みんなの同意の下同行させることにした。
 
「弓月先輩、無事に風見学園の運動場に到着したようです。今から私はそちらに向かいます」
 
「ああ待て。俺たちも一緒に行く。途中で襲われたりしたら大変だからな」
 
「それじゃついでに、索敵班も出撃させればいいんじゃね?」
 
といったのはロイ。
確かに動くなら同時のほうがいいかもしれない。
ロイは索敵半全員の肩をポンポン叩きながら、激励の言葉をかけて回る。
 
「分かった。それじゃあ、それぞれ行動を開始してくれ。小恋たちは、もしかしたら俺たちの誰かから負傷の連絡とか家の電話に入るかもしれない。なければいいが、その時のためにつないでくれ」
 
「うん、わかった」
 
「頑張ってください、皆さん」
 
小恋とアイシア、それから茜に送り出される。
 
「それじゃ、行ってくる」
 
俺たちは、全員でこの芳乃家の門をくぐり出た。
 
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風見学園に到着すると、たくさんの武装兵がグラウンドに整列していた。
そして、その先頭には、白い王族らしいユニフォームを来た金髪碧眼の青年が立っている。
 
「兄様!」
 
それを見かけたエリカは、慌てて走り寄っていった。
俺たちも後を追う。
 
「おやエリカ、キミも大したことを要求するものだ。こちらもクーデターを鎮圧するのに時間がかかったあとでこちらに兵を派遣する準備をしたのだ。大変だったぞ」
 
「クーデター?一体どういうことなのですか?」
 
「それがね、クエイシーの一族が中心となって我々を消してキミをトップとし、キミを操りながら権力を握る計画を立てて実行していたんだよ。何とか事件も解決して、フローラも無罪にして、今まで通りの生活を送っていたんだけどね……」
 
やれやれといった表情で、青年はエリカを愛おしそうに見つめ、そして微笑む。
 
「キミも無事でよかった」
 
「こちらもですわ、兄様。それと……」
 
「お久しぶりです、姫様」
 
申し訳なさそうな表情をして、青年の陰から女性が姿を現した。
青みがかった髪と、優しげな顔つきが印象的だ。
 
「フローラ……あなた……」
 
エリカはそのフローラとやらの姿を見て安堵する。
同時にフローラも頭を下げた。
 
「申し訳ありませんでした。出過ぎた真似をしてしまい、本来なら死刑ですら免れなかった身でありながら……」
 
「そのことに関してはもう済んだことだろう、フローラ」
 
青年が優しく声を掛ける。
 
「それでは、そのクーデターも、フォーカスライト家にとっても、クエイシー家にとっても平和的に解決されたのですね?」
 
「ああ、勿論だ。私にできないことはないよ」
 
不敵に笑みを浮かべ、同時に誰かを挑発するような――
どことなく、杉並や杏を彷彿とさせた。
 
「良かった……」
 
だがいつまでも身内の話をされてもことは進まない。
ということで、俺も話に加わることにした。
 
「それで、悪いんですが、貴方は?」
 
俺はすぐに責任者であろう青年に、自己紹介を促した。
 
「ああ、すまないね、さっきから自分たちの話ばかりをしていて。私はリオ・フォーカスライト。そこのエリカの実の兄で、違う惑星からわざわざこちらに赴いたのだよ」
 
「ちょ、兄様!?」
 
フォーカスライト?ちょっと待て、エリカってムラサキだよな?
いや、確かに日本語っぽい苗字で不自然だなぁとは思ったんだけど……。
それと、違う惑星って、こいつ宇宙人ってことか?
とすれば勿論エリカもそうなるわけで……。
 
「何、どちらにせよ粗方情報は共有していたほうが動きやすいのではないか?どうやらそちらの方も普通とは縁遠いらしい」
 
そこまで見抜くか、このリオとかいう奴は。
王族っていうのも伊達じゃない。
それにクーデターを平和的に鎮圧できること自体かなり優秀だ。
 
「ムラサキ、お前……」
 
そう呟いたのは義之。
 
「桜内は黙ってなさい。まぁ、確かに私はここではない銀河系のとある惑星からきた、王族の姫ですわ。少なくとも、科学技術はこの地球よりも格段に優れております。だから大人数の軍隊を地球に派遣するのも数日で行うことができるのです」
 
「とは言っても、苦労したことに変わりはないけどね。まぁ、可愛い妹があそこまで頼み込んだのだから、協力しないわけにはいかない。だが、こちらの兵はこちらで指揮させてもらう。情報は、適宜伝えてくれ。臨機応変に対応しよう」
 
フォーカスライト家の王子、いちいち台詞に重みがあってカッコいいんですけど。
恐らく、自分の惑星に精鋭は置いてきているとしても、王子自ら出陣しているということは、それなりにまともな兵が揃っているのだろう。
数でいえば、800といったところか。
少なすぎても対応できない、多すぎても肥え過ぎて動けない。
地形把握と人数調整もお手の物ってとこだな。
すると全員に配布しておいた通信機に連絡が入る。
 
『こちら雪村、敵兵と思われる黒い鎧の集団を確認。場所は初音島北東部、商店街付近よ。現在大通りを西に向けて進行中。よろしく』
 
杏からの連絡か。
商店街付近だとすると、ここからだと遠いか。もう少し待ってみて、他に出現しなければ出撃するのもありだと思うが……リオはどう出る?
 
「200の兵を向かわせよう。状況の変動次第随時分岐、それぞれは後に目標となるものの付近で待機せよ。なお、商店街付近の敵を発見し次第、商店街入り口付近に陣を構えて迎撃せよ」
 
「その先鋒には、私が参りましょう」
 
運動場の方から声が聞こえたので、ふとそちらを見る。
するとそこには、白髪でショートヘアの女性、目つきは鋭く、いかにも『強そう』な感じの人がいた。
 
「ジェイミーか。分かった。よろしく頼むよ」
 
「ははっ」
 
ジェイミーは800の中から4分の1の兵を預かった。
 
「それでは、さっそく行ってまいります」
 
「ああ、無理だけはするな」
 
「了解」
 
そして軍隊に指示を出し、壮大な歩みで校門を出ていった。
そして、それからというもの、次々に連絡が入る。
そのうちの1つ、美夏の通信機から、怒声が聞こえた。
 
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~美夏side~
 
美夏たちは、初音島の南に位置する住宅街から少し離れた公園近くで、それを見た。
光雅の言っていた、黒い装甲を纏った戦士共は見当たらなかったが、恐らくその戦士が数を揃えても放てないとてつもないプレッシャーを放つ、圧倒的な存在感を持った、黒いローブを全身に纏った人間がいた。
いや、あれにはどこか人間味が欠けている。
そのことについては、隣にいるこの、アイシアという、芳乃学園長の旧友らしい女性も気付いているようだ。
一応このことは本部、というか光雅たちには連絡はしておいた。
 
「美夏ちゃん、あ、あれ、人間じゃないよね……。人から感じられる波長というか、生気が感じられない……」
 
「ああ、美夏もそれには気付いている。でも、だとしたらあれはいったい何なのだ?」
 
「さあ、分かんない……」
 
その時、その人間はこちらを向いた。
気配を隠して隠れていたというのに、それ程大きな音を立てていなかったというのに、何の迷いもなく、その存在はこちらを向いた。
美夏は、そのほんの少しの動作から生まれた、『μ』独特の機械音というか、摩擦音を聞き逃さなかった。
……なんせ美夏は高性能、最先端技術の結晶だからな。
それにしても、あんな音がするとしたら、やはり、この人外の正体は、『μ』ということになるのだろうか。
フードの中から覗く、威圧するような視線には、『μ』の視線と似たようなものがあった。
そして実感する。
こいつは、紛れもなく『μ』なのだと。
恐らくはそれを、光雅たちの言う『魔法』という非科学的な力によって戦闘力を持たせた存在にしているのだろう。
だとしたら、こんなことを『μ』にさせている、『ドラゴン』とやらを絶対に許さない。
 
「み、美夏ちゃん……?」
 
「ふざけるな……!こんなことがあってたまるか!『μ』は、道具じゃないんだぞ……!戦いの道具として利用する貴様を、絶対に許さん!」
 
怒りのあまり、こちらを見ているその存在に声を荒げてしまった。
すると、その存在は臨戦態勢へと移行したのか、手に持ったステッキを高く掲げる。
ステッキの先端についた宝珠が赤く発光し、その存在の周囲に血のように赤い無数の針が、こちらを向いて出現した。
目算しようにも、数が多すぎて数えられない。
こんなことを、こんなことまで、こいつは実行するのか……。
違う、『μ』は、ロボットは、こんなことのために生きるんじゃない!
美夏が悔しがっていると、その存在は何かを呟く。
そして同時に、その無数の針が美夏たちに襲い掛かってきた!
 
「美夏ちゃん、離れないで!」
 
アイシアは美夏に傍にいるように強く言うと、同じく魔法とやらで障壁を作り、針の襲撃を拒む。
アイシアにもこんな芸当ができたのには驚きだが、今は助けられたことに感謝すべきだろう。
美夏が感謝の言葉を述べる前に、その存在は次の言葉を発した。
 
「second」
 
今度は同じ針を巨大にして3本出現させ、同じくこちらに向けて飛ばしてきた!
同じくアイシアが障壁を作り出して防御するが、かなり苦しそうだ。
 
「だめ!このままじゃもたない!」
 
「そんな!?」
 
アイシアの言う通り、確かに障壁には罅が入り始めている。
このままでは障壁が破られて、美夏もアイシアも串刺しになりかねない。
しかし、美夏にこの状況をどうこうできる力など持ちうるはずもない。
だが美夏は信じる。
信じると決めたんだ。
人間を。
人間同士の、『絆』の力を。
この危機を、救う力を誰かが与えてくれる!
 
「誰か!美夏たちはここだァァァァァァァァ!!!!」
 
美夏は空に向かって叫んだ!
誰かが気付いてくれると信じたから。
その時、ふと美夏の左肩が薄い水色に発光する。
近くに同じ色の奇妙な陣――魔法陣みたいなものが現れたかと思ったら、そこから人影が出現する。
背後から大きな音がして振り返ってみれば、今にもアイシアの障壁を破壊せんと襲ってくる巨大な針に、同じ大きさの氷柱が突き刺さっていた。
もう一度魔法陣のあった場所を振り返ってみると、そこには、光雅の知り合いである、白い男がいた。
その男は不敵に微笑み、相手の様子を窺っていた。
 
――ロイ・シュレイド。
 
それが、こいつの名前。
普段は光雅や桜内と一緒にいるバカの1人、板橋のような印象の強い変態だが、この時のこいつは、妙に頼もしかった。
魔法使いの名がそれを実感させるのか、あるいは、この男の過去の経験を、この背中が語っているのか――
 
「ナイスだ天枷ちゃん」
 
「は?」
 
「キミが大きな声で助けを呼んでくれたおかげで、無事にワープすることができたぜ」
 
ロイとやらが言うには、美夏たち索敵班の全員に瞬間転移の魔法陣をセットしていたらしい。
タイミングは、あの時しかないだろう。
芳乃家を出る前に、この男が索敵班全員の肩を叩きながら激励の言葉をかけていた時だ。
なんというか、杉並よりも用意周到な奴だと思わざるを得なかった。
ロイは陰から姿を晒して、その存在の前に対峙する。
 
「光雅とやり合った時も楽しかったけど、お前とも、楽しくバトルできそうだな」
 
ロイはにやりと笑うと、その存在は、自らのフードを外し、素顔を晒した。
艶やかな黒色の短髪に、整った顔立ち、そして、優しげな眼つきだったが、生気のない、空虚な瞳が、それを恐ろしいものへと変貌させていた。
感情を持たない、男だった。
 
「お前、ロボットか。天枷ちゃんが怒るのも無理ねぇよな」
 
「時川隼翔(ときかわはやと)」
 
男が名乗りを挙げる。
すると、先程までニヤニヤしていたロイが急に真剣な眼差しになり、口を開く。
 
「ロイ・シュレイドだ」
 
ロイが名乗りを上げると、二人の周囲に、突如魔法陣が複数出現した。
 
――戦闘、開始。