5.増えるのは、仕事と仲間、あと厄介(前編)

2012年10月28日 18:53
~義之side~
 
……。
ああ、そうか。
俺は、今、なんとも摩訶不思議な魔法を使っている。っていうか、勝手に発動している。
 
――他人の夢を見る魔法。
 
いらねぇよ。全力でいらねぇよ。だってこれ寝不足の原因なんだもん。しかも他人だぜ?他人。
挙句の果てに完全なアトランダム。夢なんてもんはもともと支離滅裂だから、面白くともなんともないし、むしろ邪魔でしかない。
 
「(誰かこれ貰ってくれないかなぁ……)」
 
さて、今回はどんな個人的欲望丸出しシアターを見せてくれるのか。
 
「待てよ!兄ちゃん!」
 
出てきたのは小学校中学年くらいの男の子。恐らく、この子の夢だろう。
 
「うるせぇんだよ!もうこんなところに用はねぇ。テメェみてぇな薄情者にも興味ねぇ」
 
『兄ちゃん』と呼ばれた中学生くらいの少年が、玄関から飛び出そうとする。
……なんか、ホント生々しいな。
 
「……チッ、分かってんだよ、最初から俺がクズ野郎だったって事くらいよ。俺は生まれつき駄目だったよ。そうなんだよ、俺がアイツを助けてりゃよかったんだ。俺があいつを助けられるくらいの度胸があれば。なぁ、光雅。」
 
……え?今、光雅って……。
 
「そんなことねぇよ!だって、だって!」
 
「ハッ、見下し精神丸出しの同情なんていらねぇんだよ。安心しろよ、お前たちの関係ないところで堕ちるとこまで堕ちるだけだ……」
 
「兄ちゃん……!」
 
「じゃあな、光雅、せいぜい栄光のエリートコースを堂々と歩めよ。――その内、俺がお前を潰してやる……」
 
『兄ちゃん』が玄関から駆けていった。光雅らしき男の子だけが取り残される。
 
「兄ちゃん……」
 
映像にもやが掛かる。
……ああ、夢の主が目覚めるな。
 
……
 
…………
 
………………
 
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「……ん」
 
ん?
 
「……いさん」
 
ああ、朝か。
 
「義之兄さん、いい加減起きてください!」
 
――ボスッ!!
 
「ぐはっ!」
 
腹部に突如強烈な痛みが走る。
過去に何度かされたことのあるこの痛み。
目を擦りながら腹部に視線を向ける。
広辞苑。
 
「殺す気か!」
 
「義之兄さんは私まで社会的に抹殺するつもりですか!?」
 
「は?」
 
「早くしないと、遅刻しますよ!」
 
「うそ!?」
 
時計を確認。8時13分。流石にゆっくり朝食、なんて時間はない。
それでも遅刻したくらいで社会的抹殺はないだろうよ。
 
「義之兄さん、お腹空いたぁ~」
 
「もしや、今から作れと?」
 
コクン。頷かれた。
時計を見て、現時刻と通学に要する時間を考え、逆算する。
 
「悪い、そんな時間は無さそうだ」
 
「えぇ~!?義之兄さんは私が学校で倒れちゃってもいいっていうんだ、そーなんだ……」
 
「……あぁあもう!分かったよ、ちょっと待ってろ」
 
台所に向かい、冷蔵庫を開ける。が。
 
「どこにそんな時間があるっていうんだよ……」
 
仕方ない、アレを使うか。
右手を握る。ドラ焼きをイメージ。ゆっくりと拳を開く。そこにはドラ焼きがあった。
 
――手から和菓子を出す能力。
 
これも大していいもんじゃない。なぜなら、和菓子を作るとき、それと同じだけカロリーを消費するからだ。自分で出して自分で食べてもプラマイゼロ。いや、出した和菓子を口まで運ぶときの手を動かすためのカロリー消費を考えたら若干のマイナスか。
 
「それどころじゃねぇよ……」
 
出したドラ焼きを皿に乗せ、居間に運ぶ。
 
「えぇ~、朝から和菓子?」
 
さすがにちょっとカチンときた。れれれ冷静になれ。
 
「食べたくないなら食うな。俺が食う」
 
「や、食べます、食べますってば」
 
由夢が急いでドラ焼きをほおばる。急ぐあまりにのどに詰まらせたようで、お茶で喉に流し込んだ。
 
「さっさと食べろ、遅刻するぞ!」
 
……それにしても、今朝の夢はなんだったんだろう。
 
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「はぁっはぁっはぁ……」
 
「はぁっはぁっ、義之兄さん、は、速い……!」
 
今日も1日いいお天気で。雲ひとつなさそうな青空、見渡す限り綺麗そうな薄紅色の景色。
『そうな』というのは、もちろん、そんなことに気を回している時間なんて無いからだ。
……遅刻する!!
いや、俺だけなら構わないんだが、由夢まで遅刻させると後でどんな八つ当たりを受けるか……。
その由夢が、苦しそうにしている。
ああ、もう!
 
「由夢!カバンよこせ!」
 
「うわっ!」
 
由夢の手から強引にカバンをもぎ取る。
 
「スピード上げるぞ!」
 
由夢の手を取り、スピードを上げる。
 
「わっ……」
 
しばらくすると、ようやく校門が見えてきた。とりあえずギリギリセーフ。
 
「由夢、大丈夫か?」
 
隣の妹君の容態を確認。
……顔赤いぞ?風邪でも引いてんのか?
 
~由夢side~
 
現在、桜並木を全力疾走中。そう、私と義之兄さんは遅刻するかしないかの瀬戸際なのである。
ちなみに、私まで遅れそうなのは、私自身、8時近くまで爆睡していたって事は秘密で……。
ていうか、しんどい。朝からダッシュは精神的にも肉体的にもキツイ。
 
「(もう、駄目だよぉ……!)」
 
それよりなんでいつもぐうたらな義之兄さんがこんなに走るの速いの?
……やっぱり、男女の差?
そういうことで今日の登校に絶望を感じたその時、義之兄さんが私のカバンを持ち、手を握ってきた。
 
「(え!?ちょ、そんな……!)」
 
そんな刹那的な行動にドキッとしてしまった。
顔を上げると義之兄さんの後姿。
……憎たらしいくらいに優しい人オーラが出てるんですけど。
きっと自分がそんなオーラを出してるのすら気付いていないんでしょうけど。
なんか、ムカムカしてきた。そして、恥ずかしくなってきた。
義之兄さんに手を引っ張られて校門をくぐる。
何とか間に合ったようだ。
 
「はぁ……はぁ……、ふぅ~、何とか間に合ったぁ~。」
 
「はぁ……はぁ……、もう、駄目ェ~……」
 
もう足に力が入らなかった。へなへなと座り込んでしまった。
 
「遅刻魔はっけ~~~ん!」
 
前方から兄さんたちのクラスメイトの声。
視線を上げると、雪村先輩と花咲先輩。
……切り替えなきゃ。
 
「お、おはようございます、花咲先輩、雪村先輩。お見苦しいところをお見せしてしまって、申し訳ありません」
 
とりあえず立ち上がって挨拶。
 
「おはよ」
 
「おはよ~、由夢さん」
 
「おいおい、茜、俺、なんでそんなにたくさん遅刻している人扱いされてるんだ?俺が遅刻したことがあるのって数えるほどしかないぞ?」
 
「あれ?そうだったっけ?まぁでも、今日遅刻しそうになったのは確かだしぃ~」
 
「無様ね。ほんの5分早く家を出れば済むことなのに」
 
「ぐっ!!」
 
「(はうぅ……)」
 
言われてしまった。
 
「妹に迷惑ばっかり掛ける兄と、苦労人の妹、そんな映画があったっけ。」
 
なんか、義之兄さん、言われたい放題だね……。
 
「では、私はこっちなんで、失礼しますね」
 
「ばいば~い」
 
「じゃね」
 
「義之兄さん、カバン、持ってくれてありがとうございました」
 
一礼をして3人に背を向ける。
……ふぅ。
 
「やっぱり礼儀正しいよねぇ~、由夢さんって。男の子に人気があるの、分かるな~」
 
「こんなだらしのない兄の背中を見て育つ由夢さんを思うと、泣けてくるわ……」
 
……義之兄さんは今頃、『みんなはあいつに騙されているんだっ!!』とか思っているんでしょうね……。
 
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~光雅side~
 
生徒会の仕事の手伝いを終え、教室に向かっている。
なんか音姉が半端じゃなく張り切っていた。まゆき先輩曰く、例年より3倍近くのスピードで仕事が進んでいる、らしい。そんな音姉の様子を見て、まゆき先輩は苦笑していた。
 
「お~い、光雅ぁ~!」
 
しまった、渉ごときに見つかってしまった。
 
「なんだ……」
 
「なんだよぉ~、テンション低いな~」
 
「お前のテンションが高すぎるんだよ……」
 
「まぁいいじゃねぇか。そんなことより、ほら行くぞ!」
 
渉が俺の手を取り、教室とは反対方向に引っ張る。
 
「おいおい、教室反対だぜ?」
 
「お前知らないのか?」
 
「何を?」
 
「転校生が来るんだってよ!それも美少女だって噂だぜ?」
 
「だからどうした?」
 
「あーもー、わっかんないかなー。職員室だよ、職員室」
 
「そういうことか……」
 
なんていうか、あまりにもいつもの事過ぎてがっかりしてしまったよ……。
 
「んで、いこーぜ!」
 
「丁重にお断りさせていただきます」
 
当然だ。
あくまで俺は、事実ではないとはいえ生徒会の仕事を直接手伝っている人間だ。
職員室前なんかで奇行をはたらいてるのを見られたら生徒会の面を汚しかねない。
 
「なんでだよ!いいじゃんよ!」
 
「興味ない」
 
「あ、そーですか。既に容姿端麗で成績優秀、運動神経抜群な光雅様にはたかが転校生なんて眼中にないってことですか。そーですか」
 
なんか渉に、まるで人外のものを見るような目で見られてしまった。
 
「別にそこまでじゃねぇよ」
 
「んじゃ、行こうぜ!」
 
「……たく、しょうがないな。」
 
仕方なく友人の誘いに乗ることにした。
んで、職員室前。
 
「あれ、おかしーなー」
 
「何が?」
 
渉が首を傾げる。
 
「いや、職員室前に誰もいねーなーって」
 
「どうして?」
 
「男ってのは、美少女転校生が来たって分かったときにゃあ、職員室前にきて一目見ようとする生き物なんだよ!」
 
「でも、誰もいないぞ?」
 
渉がドアの窓から職員室を覗く。
 
「それらしいのいるか?」
 
「いんや、普通の職員室」
 
「てか、その情報は確かなのか?」
 
「ああ、なんせ非公式新聞に書いてあったからな」
 
……。
はぁ。
 
「情報源、それだけ?」
 
「そうだけど?」
 
……。
沈黙。
 
「あんだよ」
 
「俺、帰るわ」
 
「何ぃ?まぁいい、俺はもう少しここで様子を見るぞ」
 
「ああそうかい」
 
そういって踵を返した次の瞬間――
 
「きゃあ!!」
 
――ぼすっ。
 
誰かとぶつかった。
俺は回避しようとして失敗、後ろに倒れてしまった。
ぶつかってきた人は、勢い余って俺に覆いかぶさってきたようだ。
その人を受け止めようとして、手を出す。が。
 
――もにゅ。
 
やわらかいものに触れた。
 
「(やってしまったか……?)」
 
なんか醸し出ている雰囲気から、きっとどこかの令嬢のような身分の少女なのだろうと認識、柔らかいものを触っている手をすぐに引っ込め、ポケットから未使用の綺麗なハンカチを取り出し、少女の体を支えて立たせた。俺も立ち上がって、謝る。
 
「えっと、その、すみません」
 
少女は顔を真っ赤にしていた。
……怒ってるよな?
いくら事故とはいえ、女の子の、その、なぁ?
 
「あの、頭をお上げになってください……」
 
あれ?怒ってないの?
 
「えっと、その、貴方がなさったことは確かに破廉恥極まりないことですが、咄嗟な対処と、小さな気配り、誠意ある謝罪の態度、そこまでされては、怒るに怒れませんわ」
 
「あ、そうですか?いや、ホントにすみません」
 
言葉遣い的にも間違いなく海外の貴族であることは推測できたので、さくらさんと話すときと同じような敬語を使う。
 
「それと、私はここでは一応最低学年ですので、ここの学園の上下関係に従って接しいただいて結構です」
 
「そう?でも、ホントにすまない」
 
「いえ。それより、まだ名を名乗っていませんでしたわね。私は、とあるヨーロッパの国から留学生としてこちらに来た、エリカ=ムラサキですわ」
 
「俺は弓月光雅。よろしくな」
 
「よ、よろしくおねがいします」
 
あれ?顔が赤くなった?どうした?
 
「では、失礼いたします」
 
エリカは職員室に入っていった。
 
「こうして、弓月光雅はまた1つフラグを立てたのであった……」
 
「なんで今のでそうなる?」
 
「だって明らかにそういう態度だったじゃんよ」
 
「いや、初対面で事故とはいえ胸を触ってしまったわけで、むしろ嫌われてしまうのが正解だろ」
 
――キーンコーンカーンコーン。
 
予鈴がなる。
 
「戻るぞ」
 
「あいよ。はぁ~、いいよなぁ、うらやましーなー」
 
……。