5.悪友と悪友と雪月花
2012年10月28日 17:24
「忘れ物は無い?」
音姉が芳乃家の玄関の鍵を閉める。
桜の木の制御に成功してさらに2年。俺と義之は付属3年になった。音姉は本校2年で生徒会長をしている。由夢も風見学園に入学、付属2年生である。
「あ、弁当……」
そう反応するのは、同年齢だけど、俺のほうがしっかりしてるとかで、一応俺の弟な義之である。
「は?」
いや、今日お前弁当じゃないだろ……。
「もう、はやくとってきなさ……って義くん弁当だった?」
「いや、今日は弁当がいいなぁ~って思ってさ」
「でも、もう弁当作ってる時間ないよ~。ほら時計見て」
「いや、音姉ならできるって!」
「それに作るの私なんだ~……」
「だって音姉の作る弁当、美味しいからね」
おいバカ、この場において音姉を褒めるのはタブーだぞ。
「……」
「音姉の弁当が昼に待ってるとなると、授業に身が入るなぁ~」
こいつ分かっててやってるな?
「……」
「もう、いつもの3倍は張り切っちゃうね、マジで」
「……」
――がちゃがちゃ。
「って音姉、なんで鍵開けてんの?」
「お弁当」
「いや、今からじゃ間に合わないから」
立場逆転してんぞ、あんたら。
「義くん、世の中ね、あきらめなければ、不可能なことなんて無いんだよ!」
「いや、無理だって無理。ほら時間」
「あのぉ~。お二人で朝からおあつい夫婦漫才をするのは結構なんですが――」
「いい加減置いて先行くぞ?」
「「……」」
どうやら由夢も俺と同じ感想を抱いていたようだ。
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登校中。桜並木。
今日も1日いい天気。
こんないい感じで暖かいと授業中寝てしまうだろうな。
義之が。
「お弁当がほしいんだったら、前の日にちゃんと言ってね。そしたら、準備するから」
「いやぁ、今日はたまたま。俺って、インスピレーションで生きる男だからさ」
ったく、こいつは……。
「それって、悪く言えば行き当たりばったりって言うよな」
「だめだよ。ちゃんと計画的に生活しないと」
「無駄だよ、お姉ちゃん。だって義之兄さんいつもテスト前に一夜漬けの人ですから」
散々な言われようだな、義之。
「それはお前もだろうが」
「や、私は成績いいですから」
確かに事実なんだけども、こういうのを見るとちょっかいを出したくなる。
分かるだろう?
「だな。由夢は“学校では”完璧人間だもんな」
「光雅兄さん、なんで“学校では”のところを強調するんですか……?」
「いや、別に」
「……もう」
いつものことだからという理由で、由夢も追及を諦める。
そもそもこれは義之の役目なんだけど、義之が追いつめられてるとできないからなぁ。
しばらく歩く。義之は少しばかり落ち込んでいる。
「まぁそう落ち込むなよ。今日一緒に学食いこうぜ」
「お、おう……」
その時――
「よっしゆっきく~ん!こ~がく~ん!」
「光雅、義之、おはよ」
クラスメイトの花咲茜(はなさきあかね)、雪村杏(ゆきむらあんず)である。
「おっす。杏。茜」
「おはようございます。雪村先輩、花咲先輩」
「おはよう」
「「おはようございます。」」
それぞれがお互いに挨拶を交わすと、自然の流れか、全員の足が止まった。
「それにしても義之、光雅。朝っぱらから通学路でダブルデートだなんてあんたたちいい度胸してるわね」
「そうだよね~。暑すぎて近づいてらんないよね~」
「「何がダブルデートだよ……」」
ふと隣を見ると、音姉と由夢が頬を赤くしている。……何照れてんだか。
「あら、息ぴったりじゃない。もしかして2人ですでにそういう関係なの」
「ちょ……杏~、茜~、待ってよ~……!」
女の子が息を切らして走ってくる。
「あら、エロエロ女王の降臨ね」
「小恋(ここ)ちゃんどんな妄想してゆっくりしてたの~?気になるなぁ~、小恋ちゃんの行動を鈍らせるほどの濡れ濡れな妄想が……」
エロエロ女王と呼ばれた女の子は月島小恋(つきしまここ)。いつも茜と杏にいじられている。
ちなみにエロくともなんともない。多分。
杏と茜、それから小恋。3人は誰がどこからどう見ても仲良しで、3人の苗字の頭文字から
『雪月花』
なんて呼ばれている。鬱陶しいが、一緒にいて楽しい連中である。
「あ、義之、光雅、由夢ちゃん、音姫先輩、おはようございます」
みんな小恋に挨拶を交わす。
「それと杏、私エロエロ女王なんかじゃないもん!」
ひと段落ついてようやく突っ込んだ。
遅いんだけど、小恋らしいというか。
「あら、そうだったかしら」
気がつけば、ここは校門前。背後から――
「こぉぉぉぉぉぉのラァァァァァァブルジョア野郎ォォォォォ!!!」
何かを叫びながら急接近、恐らく突進してくるだろう。
「喰らえ、光雅!!義之!!」
相手から見て、俺は左、義之は右にいる。背後の野郎は左手を先に出すため、その手を一度引く。
掌が急接近、当たるか当たらないかのギリギリのところで左に回避、野郎は態勢を崩し、俺たちの視界に入る。
「わっとっと、お前なんで今のが避けれるんだよ?」
「渉(わたる)、うるさい」
そう、この野郎は板橋渉(いたばしたる)。俺の悪友の1人である。
軽音楽部のドラム担当で、人懐っこく、ムードメーカーであり、ルックスもよいが、その変態さが全てを台無しにしてしまっている。
……まぁ、友達想いなのはいいんだけどな。
「杏、ひどっ!そーゆー言い方は無いんじゃない?」
「……」
まるで渉をわざと視界に入れないようにするかのように、視線をそらす杏。
「ごめんなさい!お願いします無視しないでください杏様!」
「そ。そういう態度が今後続けられるなら許してやってもいいわ」
……なんか理不尽だしかわいそうだからそろそろ助け舟出してやるか。
「その辺にしとけよ。それにしても渉、なんでお前はそんなにもハイテンションなんだ?」
「別にいーじゃんか。それが俺のいいところだ!」
確かにそうなんだが、限度という言葉があってだな……。
「悪く言えば、鬱陶しいだけだけどな」
と言って義之がほくそ笑む。
「いーんだよーだ!これが世界の渉様なんだよ!」
「という世界を舐め切った発言は置いといて、この面子なら奴がそろ――」
「呼んだか?My同志弓月よ」
突如俺の背後から、影が質量を持ったかのように現れる男。
もはやこの現象にも慣れて、バカバカしさすら感じる。
「呼んでないし同志でもないぞ」
こいつは杉並(すぎなみ)。悪友の1人。名前は……知らん。
ルックスは渉よりちょい上で、運動神経抜群、頭脳明晰で、一見完璧人間だが、性格が破綻しており、UMAや宇宙人、怪奇現象などが大好きで、その実態は風見学園非公式新聞部部長である。
……非公式って。
なんてやりとりをしていると――
「じゃ、私向こうだから、またね」
「あ、じゃな」
「また」
「私もこっちなんで、失礼します」
学年の違う由夢と音姉と昇降口で別れる。
「ところで桜内、次のリレーカーニバルなんだが、1枚噛まないか?」
相変わらずの悪巧み。
いい加減生徒会に捕まらないのだろうか?
「やだね。音姉に迷惑が掛かることはしないって」
「むぅ。ならば、弓月は?」
「俺もしねぇよ。リレカはゆっくり楽しみてぇからな」
「ふむ、そうか。まぁいい。雪村、例のものは手に入ったか?」
「もちろん。もうひとつのあれは茜が」
「よくやった。その調子で続きも頼んだぞ」
杉並の奴、本当にまたなんか企んでるな。ってか、杏と茜も一緒か。こいつはろくなことが無いぞ。
「……何をするつもりだ?」
「外野に教えられるわけ無いでしょ」
「そ~だよね~。まぁ、何も知らない外野2人、義之くんと光雅くんがいちゃいちゃするのも面白いって小恋ちゃんも思ってるしねぇ~」
「ふぇ!?そ、そんなこと思って無いよ~!」
唐突に話を振られた小恋が困りに困り果てる。
「あら、本当にそうかしら。小恋の家の本棚って確かBL物が多かったような気がしたんだけど……」
「そんなことないもんっ!」
「でもぉ……」
「ねぇ」
見事な小恋いじりになってしまった。
「月島、お前……いや!どんな月島でも、月島は月島だぁぁぁ~!」
「ちょ、渉くんまで何言ってんのよ~!」
「月島の部屋の再調査が必要だな。」
「怖いからやめて~!」
「小恋ちゃんの部屋には、杉並くんに見られたら拙いものがおいてあるんだぁ~」
「そんなのないもん……!」
あ~あ、小恋、涙目になっちゃってるよ。流石にやり過ぎだろ。
「そういや杏、俺たちの文化祭の出店なんだが、大まかなところはもう大丈夫か?」
「ええ、ほぼ完璧よ。メニューも完成、材料の注文先にもアポはとったし、後は店の外装とか、細かいところだけよ」
「あと少しだから、期待しといて」
文化祭の件は、杏と茜が代表して取り締まっている。
普通にカフェやるだけだから、特に問題はないだろう。
「手伝えることがあったら手伝うよ」
「俺も!」
義之と渉も協力を申し出る。
杉並は……既にいなかった。
「ありがと。でもいいよ。ホントにあとちょっとだから。困ったときは助けてね?」
「ああ」
こんな感じで、俺たちの日常は続いているのである。