8.「connection」
「あーっつっつっつ……」
また、痛む。
さっきまでスリーメンの練習をやっていたんだが、とにかく痛む。
風邪を引いているわけでもなければ、持病を抱えているわけでもない。
全くもって原因不明である。
「おい、だいじょーぶか?」
チームメイトに心配される。
「いや、大丈夫、続けるぞ」
「ああ……」
この頭痛は、いったい何なんだろう?
「それじゃ、次、2on2!」
宣言に対してチームの返事が体育館に響き渡る。
俺は、すぐに痛みが引いてしまう、この謎の頭痛に悩まされながら、練習を続けるのだった。
練習が終わり、校門を出る頃。
「健斗、俺これから夕飯の支度するんだけど、お前も来るか?」
「いや、俺は帰って宿題を写させてもらう」
「貸さんぞ」
「貸して」
「500円」
「ぐっ……」
「自分でやれよ」
「分かったよ、それじゃ、スマブラやって待ってる」
「宿題しろよ」
「それじゃーな」
俺から逃げるように、駆け足で去っていった。
さて、商店街に向かいましょうか。
「小笠原くーん」
遠くで誰かが俺を呼んでいる。
この声には聞き覚えがあるのだが、きっと幻聴だろう。
俺はまっすぐ買い物をしてまっすぐ帰るんだ。
寄り道なんて真っ平ごめんだから、このまま直行!
「ちょっと、小笠原くんってば!」
「うごっ!」
後ろから学ランの襟首を引っ張られる。
ちょ、ま、しっ、しまる……
ああ、さらば、友よ……
~BAD END~
「ちょ、小笠原くーん!?」
「うぇほっ!げほっ!……殺す気か、お前俺に恨みでもあるのか!?」
「いや、別にないけど……」
「愉快犯というわけですね分かります」
「だから、別に殺すつもりじゃなかったって!」
まったく、これだから近頃のワカモンは……。
「それに、小笠原くんが無視するからいけないんじゃん」
「えっ、聞こえなかったけど?」
嘘です、思い切り聞こえてました。
「あれ、そうだった?ごめん……」
「いやまぁ……」
なんか誤解させたままだけど、今更『嘘です聞こえてましたー』なんて言ったら今度は冗談なしに殺される。
よってこのままで行こう。
「それで、何か用?」
「えっとね、これから商店街?」
「そうだけど」
「一緒に行かない?」
「荷物持ちか」
「半分正解」
「あと半分は?」
「目的地までの暇潰し要員」
「先行くわ」
「待ってください」
ったく、なんなんだ、本当にいったい……。
面倒なんだけど。
早く帰りたいんだけど。
というか俺の都合全く考慮してないだろ、お前。
「いいでしょ、オトモしちゃっても」
「わあったよ、俺はさっさと帰りたいから、さっさと行って終わらせるぞ」
「はーい」
適当にいろいろ喋りながら、商店街へと向かった。
「おい、これはいったい何なんだ」
「プラスチック本棚だよ」
「いや、見れば分かるんだが、なんでまた視界が塞がるようなものを……」
さっさと終わらせるということで、買い物もかなりハイペースで終わらせたのだったが、なぜか白河の手にはプラスチック本棚の箱が。
ちょっと大きめサイズなのか、その箱も普通より大きい。
これを抱えて歩くとなると、視界はかなり塞がってしまう。
「買った本が今の本棚じゃ入らなくなったからさ、本棚大きくして整理しようかなと思ったんだよ」
「本を片付けようとは考えなかったのか……?」
「あっ、そういえばそうだったね」
「よし、これ捨ててくる」
「あーっ!ごめんってば!」
なんで女子ってのはこう、モノを溜めたがるのだろうか。
きっとバッグとか服とか相当溜まってんだろう。
整理整頓は生活の基本です。
「これだけか?」
「うん、とりあえず今日はね」
「もう行かんぞ」
「ぶー」
「他を当たれ」
「ぶー」
無視。
ここからだと、寮に帰るには俺たちの通っていた中学校の傍を通るのが近道だ。
もう少し早ければ、小中学生の下校時間とかぶって混雑するけど、今頃ちょうど下校ラッシュが終わる頃だろう。
「ほら、帰るぞ」
「ぶー」
「天まで届け、いちっ、にっ、さ――」
「分かった、分かりましたっ!」
プラスチック本棚を天上界まで飛ばそうと思ったんだが、残念ながら阻止されてしまった。
神様もお喜びになると思ったのに。
中学校と隣り合わせになって建っている小学校の校門は、この角を曲がれば見えてくる。
そこには最近あまり目にしなくなった懐かしい光景があるんだろうな、と期待して曲がったら。
『いやっ、離してっ、くださいっ!』
『てこずってんじゃねえ、さっさと運べ!』
ただならぬよからぬ雰囲気。
そこで取っ組み合っているのは、小学生と思われる少女一人に対し、見るからに怪しげな大人のヤロウ三人。
「白河、ちょっとここで待ってろ、それから、警察」
「えっ、分かった……」
俺は荷物を置いて、一気に地面を蹴り、現場に距離を詰める。
だが、向かう先は、男たちじゃない。
長距離移動手段、すなわち。
自動車。
これを破壊できれば、遠距離での逃亡は難しい。
跳躍中、右手に手刀を意識。
その手を左脇の下、腰の辺りにセット。
そして、車とゼロ距離になった時。
自分の体を軸に、勢いをつけて右回転。
その遠心力、および俺の全筋肉の力の波を右の『刀』に集中。
すべての力が乗ったその『刀』で、対象を――叩き潰す。
「な、なんだ!?」
「誰だお前!?」
たかが右手で車を破壊したことに驚愕する男たち。
暴力団だろうか?
「あー、とりあえず連れが警察呼んでるから、もう逃げられねぇよ」
「な、何……!?」
ちらっと、来た道を見る。
白河が、びくびくしながら、そして苦笑い、親指を立てて成功の合図。
俺は頷いて、そして向き直る。
「それと、その奥のアンタ、もう現行犯だね。どうせ、『こいつがどーなってもいーのかー』なんて、ベタな科白が言いたいんでしょ?」
一番奥のヤロウは、その少女を片手で抱え、ナイフのようなものを突きつけている。
さてこの状況、どっちかというとかなり不利だ。
……まぁ、こいつらが単細胞であれば簡単にひっくり返るんだけど。
とりあえず、やるだけやってみますか。
俺は素早く白河のいる反対方向を振り向いて。
「おっ!援軍到着っ!」
「「「何!?」」」
単細胞だった。
敵全員が俺と同じ方向を振り向いた。
すると当然、誰もが人質から目を離すわけで。
次の一瞬、俺は人質をとっている男に肉薄する。
そしてその男が俺に向き直ると同時にもう一度。
男の顔面に向かって、『刀』を叩きつける。
「ブォッ!?」
吹き飛ぼうとする男から少女を奪い返し、安全に着地。
男は校門の石柱に叩きつけられ、気絶する。
とりあえず人質の安全は確保、あとは頭を潰されたこいつらがどう出るか。
そいつらが懐から取り出したのは――何らかの小さいナイフ。
殺傷力はなさそうだが、深く刺されば悶絶確定の代物だ。
とりあえず、戦闘続行っと。
相手に先に動かれると行動を先読みするのがいちいちめんどい。
だから、先制攻撃を決め込む。
もう一度右手を左脇の下腰らへんにセットし直す。
腰を低く落とし、地面を蹴って接近。
二人の距離が近くてやりやすい。
――抜刀術、『草薙』。
直立およびそれに近い体勢をとっている相手に対し、もっとも反応しやすい腕の射程距離に入らない低高度で肉薄、その足を薙ぎ払う抜刀術。
実際に刀を持っているわけじゃないので、リーチから考えてものすごく難しいが、ビビッてる相手になら多少ミスっても成功する。
俺の攻撃は全身の力を一点集中させているため、一撃食らうと大ダメージを伴う。
案の定、俺の攻撃を膝に受けたこの二人は、悲鳴を上げて立てなくなっていた。
「いっちょあがりっと。怪我はないか?」
「あ、ありがとうございます……」
どうやら無事なようだ。
その時。
反対側から、一人の男がやってきた。
その男は。
今日昼休みに、中庭を歩いているのを見かけた男。
この前商店街で、少女と手をつないで歩いていた男。
そういえばこの少女もあの時見た妹(仮)に似ている、というか本人だろう。
「響子、大丈夫か!?」
「お兄ちゃん!」
その男を見つけるなり、少女はその男に向かって駆けていった。
「何があった?」
「変な人に囲まれて、捕まえられそうになって……。そこをあの人たちに助けてもらったんだ」
状況を確認した後、その男が歩み寄ってくる。
「俺の連れが迷惑を掛けたな。俺の責任だ。すまない。それと、ありがとう」
男が謝る。
そしてその男がチラリと犯人グループを見て顔をしかめたのを、俺は見逃さなかった。
「……アンタ、いったい何者だ?」
「何の話だ?」
気のせいか?ただの偶然だったのか?
俺の考え過ぎか?
「いや、変なことを訊いた。悪い、聞かなかったことにしてくれ。それじゃ、アンタはその娘を連れてさっさと帰れ。事情聴取は俺たちで受けとく」
「ああ」
「ありがとうございました」
少女が礼を言う。
「行くぞ」
仲良し兄妹は、そのままどこかに行ってしまった。
「白河カモン」
「えーっと……」
とりあえず白河を呼びつける。
「事情聴取、よろしく」
「なんで私まで……」
さっさと帰る予定だったのに、どうしてこんなにも予定が狂ってしまったのだろうか?