8.お化け屋敷と味勝負

2012年10月28日 18:58
12月19日
 
今日はクラス全員で集まって、出し物の準備を急ピッチで進めるということで、杉並によって緊急集合がかけられた。音姉は生徒会の仕事、由夢とさくらさんは家でのんびり、義之は俺と一緒に準備。
まぁ、急ピッチで準備って言っても、どこをどうするってのがまだ決まってないから、そこからスタートになってくる。ちなみに、責任者は提案者である杉並で、今回の話し合いの司会も杉並だ。
 
「では、早速第1回クリパお化け屋敷会議を始めたいと思う。」
 
……なんだそのネーミングは。
 
「では、一言でお化け屋敷とは言っても、色々なコンセプトがあると思う。意見のある者はいるか?」
 
「はいはーい!」
 
テンションがいつもどおりに高い茜が元気良く挙手をする。
 
「花咲か。発言を許可する」
 
「お化け屋敷といえばカップル、クリスマスといえばカップル、お化け屋敷はカップル限定がロマンチックだと思いま~す」
 
「茜、いいこと言う~♪」
 
小恋が茜の提案に、ノリノリで賛同する。
なるほど、それは悪くないかもしれない。
 
「ふむ、分かりやすいコンセプトだ。……だが、それだと客が限定されて売り上げに響くのではないか?」
 
そっか、マネーのことも考えなきゃならんのか。
 
「そうね、誰でも気軽に参加できる、という感じじゃないと、入ってもらえなくなるかもしれないわ」
 
……ま、麻耶があの杉並に同意しやがった……!なんだ?地震でも起きるのか!?
 
「う~ん、それを言われると辛い……」
 
「じゃ、こうすればいいんじゃね?」
 
渉が口を開く。挙手をしていなかったため――
 
「発言は挙手にて受け付ける!」
 
ぴしゃりといわれた。
 
「はーい」
 
間の伸びたような声で、手を中途半端な角度で渉が挙げる。
その間抜けた声に少し眠くなってしまった。
 
「板橋」
 
「基本的に女子は入場自由、野郎が入りたい場合は同伴のみ、ってことにしねぇ?そうすればカップル率も上がるだろうし。な?いいアイデアだろ?」
 
……今度はあの渉がまともな発言をしやがった!?なんだ、そろそろ人類が滅ぶのか!?
 
「なるほど……板橋にしてはまともは発言だ」
 
「渉くん、頭い~い♪」
 
渉に自分の考えをフォローしてくれた茜が身をくねらせて喜ぶ。
 
「ははは、当然」
 
「当然、ねぇ~、いっつもそうだとクラス的にも、地域的にも助かるんだけど?」
 
「なんだよそれ!?」
 
「うるさい、会議続けるぞ」
 
これが唐突な意趣返しってやつか?
 
「ムキーーーーーッ!」
 
「板橋、うるさぁい!」
 
杉並に変なトーンの声で渉が叱られる。
 
「ま、どうせお化けの格好で女生徒に抱きつこうとか考えてるから、女子の入場が多いほうがいいだけでしょ」
 
確かに渉といえば、そういう動機になるかもしれない。
 
「ぐ……」
 
こいつ、お化け屋敷が決まった後、暗闇でドッキリなんてはしゃいでたからな……。
 
「そ、そんなことはなーい!」
 
「「ほんとに~?」」
 
あ、茜とハモった。
 
「ほ、ホントだって!たとえそういう事態になったとしても、それは不慮の事故であって、演出過剰による結果論というか……はっ!」
 
こいつはやっぱり馬鹿だ……。
クラス中の怪訝な視線に気付いて、渉が咳払いをする。
 
「や、野郎の集団が入場してきて、お化け役が逆にノックアウトとかされちゃたまんねーしな!あは……あははははは……」
 
本日も渉は悪い意味で絶好調です。
まぁ、確かにそんな事があったら目も当てられんな。
提案自体は悪くないと思う。
 
「……ふふん、動機は不純だが、提案自体はそんなに悪くないな。どう思う?」
 
こいつはさっきからなんで俺の感想と台詞を被せられるんだ?
 
「板橋の意見に賛成の者は挙手してくれ」
 
麻耶を含めた数人以外はほとんど挙手していた。当然渉も必要以上に挙手しまくっていた。
決まったな。
 
「ふむ、どうやら過半数の賛成が得られたようだな。委員長、それでいいか?」
 
「い、いちいち私に聞かないでよ!過半数の賛成が得られたならそれでいいじゃない!」
 
わざわざ反対している麻耶に聞くあたり、杉並はやはり人が悪い。
 
「ふふん、では、次の議題だ」
 
最初はどうなるかと思ったが、割と順調に進みそうだ。
 
「お化け屋敷のスタイルだが、自走式の乗り物に乗って巡るライド方式を考えている」
 
……なんで教室でそんな事が出来るとか考えるんだよ。
 
「どこにそんな予算があるって言うの!?単なる学園のパーティーなのよ!?」
 
ごもっとも。麻耶は半ばキレ気味だ。
 
「こんな感じのふたり乗りのライドだぞ?かっこいいだろう?」
 
杉並が取り出したのはやたらとホラーチックでかっこいいライドのデザイン画と三面図だ。
 
「「「「「おお……」」」」」
 
あまりのクオリティの高さに、クラス中から驚嘆と称賛の声が漏れる。
誰もがその図面に関心を持っていかれた。
俺も同感である。
 
「ほんとにかっこいい~!遊園地みたい!」
 
「本格的だなぁ……」
 
「かっこいいのは分かるけど、それ、どうするの?」
 
茜や渉もその1人だったが、小恋だけは冷静に問題点を挙げる。
それも同感である。
 
「大丈夫だ。後は皆が捺印してくれれば、自動的にローンが組まれるようになっている。20年もあれば返せるだろう」
 
なんでこいつはそんなことをさも簡単そうに言えるんだ?
 
「却下よ、却下!断じて却下よ!」
 
麻耶が杉並のデザイン画をびりびりに破る。
 
「うお!!巨額のポケットマネーを注ぎ込んだ俺のデザイン画がッ!」
 
……。もはや何も言うまい。
 
「杉並ぃ、もっと真面目にやりなさいよね!」
 
「まぁ、それはコピーだからいくら破いても構わんのだがな……」
 
もういい、お前は十分おもしれぇよ。
 
「……」
 
拳を握りしめてプルプル震えている。
麻耶は麻耶でさっきから振り回されすぎだぞ。
 
「はっはっは。クラスの同意得られなかったようなので、残念だがお化け屋敷は通常のウォークスルータイプにしたいよ思う」
 
「最初からそのつもりだったくせに」
 
杏の感情のこもらない声で、杉並に皮肉づけられる。
 
「さて、それはどうかな?」
 
「疲れる……。どうしてこんなに疲れるのかしら……」
 
麻耶が眉間を押さえて本当に辛そうに教卓にもたれていた。
いやまぁ、杉並にまともに相対しても、口じゃ敵わんぞ。
 
「どうでもいいが、先進めようぜ?」
 
「はいはい、分かってます……」
 
会議は終始杉並のペースだった。
 
「では、こちらの図を見てくれ。狭い教室を広く感じさせるため、このような迷路状の通路を作りたいと思っている。パーテーションは簡易的に――」
 
図を提示しながら議論は進む。
多少の脱線はあったが、杉並は結構まともに議論を進めていった。
義之は終始ボーっとしているようだった。
 
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なんやかんやで昼休み。なんやかんやを説明しろって?
そうだな、なんやかんやってのは……
 
……。
 
なんやかんやです!(キリッ)
説明してもいいけど、どうせ面白くない話だし、聞いてる途中で寝てしまう人いるし(義之とか)、自分自身話してて楽しくないだろうし。
というわけで、なんやかんやで昼休み。さて、腹減ったな。購買にでも行くか。
 
「お、光雅も購買か?」
 
「俺も行くよ」
 
渉と義之がついてくる。
 
「ちょっと待ちなさい」
 
「ん?」
 
杏が俺たちを呼び止める。何だろう?
 
「さて、今日は何曜日でしょう?」
 
「何曜日って、そりゃ、・・・あ。」
 
「そっか……」
 
やられた。すっかり忘れてた。
学園に登校するものだから平常運転と勘違いしていた。
 
「ん?どした?」
 
渉だけ分かってなかった。
 
「あのな、今日は日曜だから、購買が開いてないんだよ。」
 
「うそ!?じゃ、俺ら昼抜き!?」
 
「みたいだな……」
 
3人揃って肩を落とす。
 
「だからね、今日はみんなで作ってきたの」
 
茜が何ともありがたい朗報を持ってきてくれる。
 
「そうでもしないと、もしかしたらあんたたちがお腹を空かせすぎて、発狂した勢いで中庭の芝生を貪るかもしれないって、小恋が言ってたから」
 
「ふぇ!?……でも、そんなことになったら用務員のおじさんが困るでしょ?」
 
「なんで芝生食べる前提なんだよ……」
 
小恋の天然は底が知れない。下手すりゃ音姉に匹敵しかねないぞ。
いや、ただ天然なだけじゃ、ここまで発想がズレないか。
 
「と、いうことで、一緒にお昼しない?」
 
茜の仕切り直しに、俺たちは少しばかり遠慮を覚えてしまう。
 
「いいの?」
 
「もちろん」
 
「じゃ、中庭に行くわよ」
 
「御意」
 
いつものようにどこからともなく現れる杉並が、俺の背後から返事をした。
 
「お前はいつからいた?」
 
「ほとんど最初からだ」
 
「あっそ……」
 
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おすそ分けを貰うために中庭にやってきたのだが、やはり12月の風は厳しい。
ってか寒い。なんでこんな中桜が満開なんだろうね、ホント。
……まぁ、知らないこともないんだけどね。
 
「それじゃ、始めましょ」
 
杏の合図で雪月花が弁当を取り出す。茜はバスケット、杏は重箱、小恋はタッパーの弁当を人数分。
 
「じゃあ、私のは、これ!じゃ~ん♪」
 
茜のバスケットの蓋が開く。中にはサンドイッチがたくさん入っていた。
 
「私はこれよ」
 
茜の重箱の中には、和風の炊き込みご飯やら煮物やらが詰まっていた。
 
「わ、私のは、これ……」
 
小恋のタッパーが配られる。中には、アスパラベーコンや唐揚げ、卵焼きなど、弁当のおかずとして王道のものが入っている。
 
「……流石だな」
 
「ああ」
 
料理の分かる俺と義之は、3人の弁当の中身を見て、それだけで手間がかかっているものだと分かり、同時にありがたく思った。
 
「では、いただくとしよう」
 
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」
 
まずは杏の弁当をつつく。味付けも煮込み加減も完璧なのが分かる。これは美味い。
 
「んぐっ!」
 
隣の渉が小恋の弁当を手に持ったまま、固まってしまった。
 
「どうした?」
 
「俺は今、モーレツに感動している~!!」
 
わ、びっくりした、急に男泣きすんなよ、気持ち悪い。
 
「……どうしたよ」
 
「月島の弁当、食えるなんてー!」
 
「別に初めてのことじゃないだろう」
 
確かに、杉並の言う通り、これが初めてじゃない。俺たち野郎4人は、雪月花の弁当を何度も食べたことがある。
 
「いいんだよ!毎回作ってくれる度に感動してんの!」
 
ほう、これはいいことをいうもんだ。作ってくれることに感謝ってか。少しは見直したぞ、渉。
 
「ああ、俺は月島の箸になりたい!」
 
前言撤回、見直した俺が馬鹿だった。やっぱこいつはこいつだ。
 
「何言ってんだお前……」
 
「馬鹿者。己に変態さをここでアピールしてどうする。そういうのは、ここぞって時に取っておくものだ」
 
「なぁに?ここぞって時って……」
 
「変態ね、変態……」
 
茜と杏が話に便乗する。
 
「あ、杏に変態って言われると、ゾクゾクするっ!もっと言って!」
 
だめだこいつ、病院に搬送してもきっと医者は首を静かに横に振るだろう。
 
「この変態ブタ野郎。私の弁当が欲しいの?」
 
「欲しいです、女王様!!」
 
やっぱり渉はMなのか?マゾヒストなのか?馬鹿なのか?
 
「わ~、渉くんがおかしいよ~」
 
小恋が俺の脇に避難する、その時に目が合って、笑い合った。
 
「お~い、みんな、逃げないと渉菌がうつるぞー!」
 
「避難が必要ね」
 
杏と茜も俺にしがみつくようにして身を寄せた。
 
「な、なんだよ。変態でもいいじゃんかよう。逞しく育ってんだよう。後、光雅!渉菌ってなんだ、渉菌って!」
 
「そうだな、渉菌ってのは、どうしようもないほど変態に染まっていって、最後には死んでしまう可能性がある、恐ろしいウイルスだ」
 
「なんだよそれ!?てか、俺、死んじゃうの!?」
 
「葬式には出るよ……」
 
俺はそんなので渉が死んでも葬式なんて行ってやらんぞ。行くなら義之だけで行くんだな。
 
「俺は応援しよう。お前が今後、更にディープな変態さんにになっていく様を克明に記録してやる」
 
「おお、杉並!さすが我が心の友よ!」
 
渉と杉並が熱い抱擁を交わし、女性陣はなぜか黄色い声が上がった。
俺はそこでいいことを思いついた。
 
「杉並、そのまま渉を捕まえといて」
 
「任せろォ!」
 
杉並の腕に力がこもる。
俺は懐から携帯を取り出し、写メを撮影する。
 
「え!?ちょ!?何撮ってんの!?」
 
「いや、非公式新聞の材料として杉並に提供しようかなと」
 
「止めて!社会的に俺を殺さないで!」
 
「安心しろ、俺はでっち上げを記事にするようなことはしない」
 
「あ、そうなの……」
 
渉が安心しきる。
 
「しかァし!」
 
「うわっ!」
 
義之がびくっとする。
 
「板橋が立派な変態さんに成長したとき、その過程として新聞に使わせてもらおう」
 
「や、やめてーーーーーーーーー!」
 
そんなこんなで、昼食を終えた。
 
「ごちそうさまでした」
 
「ふぅ、食った食った」
 
「ごっつぉ~さん」
 
「ごちそうさま」
 
ひとしきり食い終わって満足した俺達は、茜の淹れてくれたお茶を飲んで一息ついていた。
 
「……で、どうだった?光雅」
 
急に杏子が話を切り出す。
 
「は?」
 
「誰のが一番美味しかった?」
 
う~ん、誰のがって言われても、みんな個性のある弁当でみんな美味しかったけどな……。
 
「はい!月島の弁当!」
 
渉が聞かれてもないのに元気良く挙手する。こいつには社交性という言葉はないのか?
 
「わかった。じゃあ、これからは渉の分は作らないでおくわ」
 
「私も~!」
 
「え、ええ?な、なんで、なんでそーなるの?ま、待って!い、いや、やっぱ、杏の煮物なんか最高だったし!あ、いや、茜のサンドイッチも!」
 
渉が無駄な弁解を展開しているが、ホントに無駄に終わるだろう。
 
「この浮気者」
 
「八方美人~」
 
ほら見ろ。
 
「うわーん、どーすりゃよかとですかー!」
 
「まぁ、ドンマイ」
 
義之が慰めにもならない慰めを入れる。
 
「杉並くんと義之くんは?」
 
「三者三様で、どれも美味かった」
 
「普通に全員美味かったけど?」
 
無難な回答。まぁこれが普通だろう。
 
「光雅は?茜?小恋?……それとも、私?」
 
「俺もどれも美味いと思ったけどな」
 
「そんな答えで私たちが満足するとでも思ってるの?」
 
「だって義之と杉並はあれでよかったじゃん」
 
だってそうだろう?
 
「渉は論外として、あんたにも同じ意見をされたら1番が決定しないでしょ?」
 
「させる必要あんの?」
 
「それはもう。ふふ。で、どうなの?」
 
そこまで言われちゃ、はっきりさせるしかないか?
 
「そうだな……」
 
「どきどき……」
 
「うぅ……」
 
「……」
 
俺は意を決して口を開く。
 
「茜だな」
 
「え?」
 
選ばれた茜がキョトンとする。選ばれると思ってなかったのだろうか。
 
「なんで私なの?」
 
嬉しそうな顔をして訊ねてくる。
 
「いや、確かに他のみんなも美味かったよ。でも、あの中で1つ選べって言われたら茜のだな。理由は単純でさ、俺ってあんまり加工されてない食品とか結構好きなんだよ。取立ての野菜とか、果物とか。さらに、茜は今回食品のコストが高いだろ?上品な味わいの上に、それを殺さずに他の素材と組み合わせていた。まぁ、簡単に言えば俺の好みにたまたま合ったってことだな」
 
とりあえず、食べて思ったことをまんま口にしてみた。
俺の言葉に嘘はない。
もし俺が王道弁当を食べたい気分だったら小恋に軍配を上げていたのかもしれない。
それだけ3人のレベルは高いものだということだ。
 
「そういわれると、なんか嬉しい♪」
 
茜が嬉しさで興奮しているのか、落ち着きがない。
 
「今回は私たちの負けのようね。小恋、次は頑張りましょ」
 
「そうだね!」
 
杏と小恋が意気投合する。これは次が楽しみだ。
 
「あらら、俺達の評価よりも、光雅の評価の方が3人には重要みたいだな」
 
「仕方あるまい。料理ということに関しては、俺達では弓月や桜内に太刀打ち出来んのだからな」
 
「納得いかねぇな……」
 
「いいではないか。お前にはお前の良さがあるのだ」
 
「俺の良さ?例えばどんな?」
 
「むぅ……」
 
「……」
 
「……すまぬが、板橋、その件は宿題ということにしてくれないか……」
 
「何でだよ!あるだろ?俺のいいところなんて、ひとつやふたつ……」
 
「おーい、早く教室戻るぞ」
 
「了解」
 
……。
 
「光雅くん、次も頑張るからね♪」
 
「ああ、頼んだぜ」
 
そう言って嬉しそうに小恋たちと並ぶ茜の姿を見て、クリパまだかなぁなんて、思ってしまうのだった。