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06.一旦あれこれ考えて
2014年02月09日 23:58
僕の予想通りの科白を零した彼女の背中は、かつて僕が見てきたその背中と比べて小さく、弱々しかった。
分かっていた。彼女が僕のこの告白を受け入れることはないと。それが、天音桜火という人間だからだ。
「私に、その資格はない」
そう言って、彼女はその後、少し躊躇いのある足取りで、一歩、二歩と僕から遠ざかっていく。いつもと比べて小さく感じるその背中が、更に小さくなっていく。もう見ていられない。僕が追い続けていたのは、こんな女々しい彼女の背中などではなかったのだ。
「待ってください、天音さん」
僕は叫ぶ
11.光ある学び舎へ
2014年01月23日 15:29
エトの部屋に戻ってきても、クーはその笑みを崩すことはなかった。
それどころか、決意をした時よりも増して、この状況を楽しんでいるようにも見える。
そして、その鋭い笑みを一度表情から消して、真剣な表情で全員に向き直る。
「リッカ、お前はまず何でもいいからこの坊主の体を冷やすためのものをたくさん持ってこい。冷水とかその辺は何でもいい。それからジル、お前は治癒魔法の準備をしろ。それと――」
気まずそうにクーは口ごもる。
これまで一緒にいたはずなのに、エトの姉の名前を知らなかったのだ。
それに気が付いて少女も慌てて自己紹介
09.王族に伸びる魔の手
2014年01月23日 15:28
女性の輪の中に男性が混じるのは無粋だと思い、クーは彼女たちと同行することを拒んだ。
エリザベスはその辺りのことを気にしなかったのだが、クーが面倒だと一方的に拒んだのだ。
とりあえずもしもの時のために連絡手段を与えておき、クーは先に一人でどこかへ外出してしまった。
「さて、まずはどこに行こうかしら」
クーがいなくなり、女性のみになった部屋で、リッカは顎に人差し指をつけるような格好であれこれ考えだす。
ジルもこのあたりに何があるかいろいろ思い出しては、エリザベスをどこに連れて行こうか模索する。
「こ
10.諦めない
2014年01月23日 15:28
これで何度目だという話だが、かれこれまた十数年時が過ぎた。
その間にリッカたちは何度もエリザベスと手紙で連絡を取り合っていたようで、彼女の近況も大方把握していた。今のところ大した出来事はないようだが、それでも彼女たちの友情は健在であることだけは確かだった。
ヨーロッパ中を旅してまわっていたクー・フーリン一行だったが、この時、彼らは森の中を歩いていた。
それもかれこれ二日ほど歩いても外に出られる兆しはなく、精神的にも参っていた。
そんな中で、ついに正面の森の奥から、わずかながら光が漏れてくるの見た。
「やっと外に出られるか……」
「
08.どこか抜けたお姫様
2014年01月23日 15:27
開始早々いつものことだが、前回よりも時間はかなり経っている。
それはもう、数か月とかそういう単位ではなく、何十年と、だ。
結果として以前の町の孤児院は何とか経営を成功させ、潰れることなく身寄りのない子供たちを養っているようだ。
そしてそこの子供たちはある程度の年齢になると独り立ちしたり、孤児院の経営に協力したり、社会貢献に尽力しているそうだ。
そんな内容が書かれた手紙をリッカたちが読んで、嬉しそうに微笑んでいる。
しかしほとんど関わりがなく、窓から吹き飛ばされただけのクーは苛立たしく思っていて、正直あの黒歴史だけは記憶から追い出したいようだ。
クーは新聞を読みながら
06.謎の屋敷
2014年01月23日 15:26
数年ぶりに新しい土地に向けて旅をしていた。
海を越えて、辿り着いたのは、三人にとって久しぶりの、イングランドだった。
リッカとジルの生まれ故郷であり、クーもここは旅の途中で通ってきた場所である。
クーはふと、思い出に浸った。
アイルランドを出て、初めて海を越えてやってきたのがこの国。
船から降りた際、麻薬の密売人と間違えられ、警察に取り押さえられて、暴れまわるとかえって怪しまれると思って渋々ついていけば、うんともすんともいう前に牢にぶち込まれ、監禁されてしまった。
それでしばらくして無実が証明され、無事解放されたものの、謝罪だけだったのに腹が立ってぶん殴ったら本気で
07.魔法と正義
2014年01月23日 15:26
「あ、ありのまま起こったことを話すぜ。例の場所に行って、犯人がいそうな感じの部屋に入ったら、そこはこの宿の風呂場で、気付いたら空を飛んでたんだ!な、何を言ってるのか分からねーと思うが、……俺も分からねぇ。とにかく、頭がどうにかなりそうだった……。いや、実際に頭を打ち付けたんだが……。幻影とか罠とかそんなチャチなモンじゃねぇ、...
05.戦士ならば刃を交えて語れ
2014年01月23日 15:24
またしばらく時は経ち、別の町で暮らしていたある日のこと。
リッカとジルは仕事もひと段落着いて、今は魔法の研究に集中しているようだ。
内容は、花の絶えない平和な世界にする、というもの。
発案者はジルであった。
そのことについて饒舌に語るジルにリッカは心打たれて、二人で研究を開始したんだとか。
主な研究テーマは、いかにして花を永遠に満開状態でキープさせるか、ということである。
満開状態を維持するとは言っても、その方法としては理論だけで言うとたくさん考えられる。
花の周辺だけ満開状態でいられるような季節、環境を結界などで覆う、花が枯れないようにする魔法の肥料や土壌を作
04.振るう刃と平和への悲願
2014年01月23日 15:23
ずっと長旅を続け、クー・フーリンがリッカとジルと出会ってから五年が経った。
そして、今の町にしばらく定住することになったのが二年前。
三人は、町で仕事をしながら金を稼ぎ、それなりにまともな生活を送っていた。
リッカやジルは新聞配達や食堂での皿洗いなどの雑用などを主にこなしている。
クーはその槍の腕を買われて町の警備の仕事を受け持っている。
そして本日も、仕事帰り。
リッカとジルは先に宿に帰っていた。
ちなみに、旅費の節約のために三人で同じ部屋を一部屋借りている。
前回はクーを追い出していたが、そのせいで命を狙われた時に、もしクーが気付いてくれなければ大変なこ
02.出会と旅立ち
2014年01月23日 15:22
とある草原。
そこでは三人の男女が横に並んで歩いていた。
一人は黒いローブを身に纏った金髪美少女、リッカ・グリーンウッド。
一人は同じようなローブを着た、橙色のセミロングヘアを持つ、そばかすが特徴的な優しい雰囲気のこれまた美少女、ジル・ハサウェイ。
そしてもう一人は、全身が真っ白――包帯で体中がぐるぐるに巻かれ、その手には真紅の槍を持ち、蒼い髪を後ろで束ねている――はずの男、クー・フーリン。
はず、というのも、正直包帯でよく分からない。
とりあえずリッカの誤解は解けたようで、近くの小さな村で一日宿泊し、ちゃんとした食事も取って(ここ重要)、お互いに自己紹介をした後、
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